第185話

 一部分を消し飛ばされて粒子になりながら崩れ落ちていくトーテムポールを見ながら、俺はなんとなく怪獣が暴れた映画とかのビルを思い出していた。まぁ、神代さんと七海さんは怪獣みたいなものだから仕方ないな。


「トーテムポールってあんな風に崩れるんだね」

「いや、トーテムポールがどうやって崩れるとか想像もしたことないんですけど、普段からどんなこと考えて生きてるんですか?」


 普通に怖いよ、こんな人が俺の姉を自称しているんだから。



 結局、その後もスイスイと進んでいき……ハワイダンジョンに潜り始めてから2時間弱で60階層まで到達した訳だが、こんな簡単でいいのだろうか。それとも、EXが3人だと流石に過剰戦力なんだろうか。


「こっから深層でしょ? ちょっとは楽しめるんじゃないかな。ね、つーくん」

「一緒にしないでくれませんか?」

「私も負けないですよお義姉さん?」

「へー」


 七海さんの挑発を受けて目を細めた神代さん。次の瞬間に2人が同時に動いたので、両方の首を掴んで前に放り投げた。


「はぁ……」


:草

:疲れてますね

:【¥10,000】ずっとこんな感じなの笑う

:なんで2時間で60階層まで行ってんの? 普通は60階層まで行くのにかなりの時間と労力をかけていくんじゃないの?

:EXだからだろ

:やっぱりEXって3人以上集まると駄目なんじゃないかな

:EXが大量に集まれば世界中のダンジョンを一瞬で攻略できるのでは? ちょっと海外の強い奴らも全員集めてダンジョン探索しようぜ


「ハワイダンジョンってモンスターが1体しか出てこないから、強くてもそもそも時間かからないと思うんだよね。だって1体だから」

「……七海さん?」

「もういるよ」


 神代さんが適当なことを喋っているが、60階層に入ってから明らかに雰囲気が変わった。

 周囲に目を向けながら警戒していたら、神代さんの首から突然血が出た。


「痛っ!?」


:おわぁ!?

:神代ちゃんが傷ついた時点でもうやばい

:終わった

:ネタ抜きでかなりやばい状況では?

:敵が見えないんだろ?


「いや、見えた」


 神代さんの首が傷ついた瞬間に、なにがその首を攻撃したのかは俺には見えた。多分、角度的に神代さんからは見えなかったんだろうけど、七海さんは魔力が視認できるからなにかは即座に理解したはずだ。


「どこ行った?」

「あそこにいるね」


 正体はわかったけど……見失ったので後は全部七海さんに任せよう。

 俺の一言だけで全てを察してくれた七海さんは、階層の端に目を向けてから手を叩いた。


:ん?

:????

:なにしてんの?

:手を叩いてるんだろ


 何度か手を叩いていた七海さんは、数度目におおきく振りかぶって手を叩いた。同時に、俺と神代さんは魔力で身体を防御する。

 七海さんは、手を叩いてそこから発生する音波に魔力を乗せていたのだ。全力で手を叩いた状態で発生した衝撃波は、遠く離れていると見ることすらできない程にモンスターの全身に衝撃を与えた。


「小さすぎて見えなかったんだ!」

「ついでに言うと速かったですね……そっちは普通に見えますけど」

「私は魔力が見えるから、どれだけ小さくても動けばわかるんだけどね」


 そこが七海さんのずるいところだよなぁ……極小な身体で超高速で移動するモンスターであろうとも、魔力を発していればそれを視認できてしまうんだから。貴人から色々と教えて貰ったことで、眼の使い方にも慣れたみたいだし、ちゃんとEXしてるな。


「はい、終わりっと」


 全身に音波と衝撃を受けた蠅はそのまま落下し、そこに向かって七海さんが小さな魔力の塊を放った。しばらく進んでから、突然爆発した魔力の塊によって、モンスターは跡形もなく消えていた。


:うーんこの

:なんか……昔のアサガオちゃん返して

:もっと純粋だったころのアサガオちゃんはどこへ?

:槍も捨てたんだからいいじゃん


「槍ぐらいいくらでも出せますよ?」


 コメントに反応して手の中に槍を生成したことで、コメント欄は更に呆れ果てている。俺もちょっと呆れた。


「むー……つーくん、傷治して」

「いや、そんなかすり傷ぐらいは自分で治してくださいよ。面倒なんですから」


:かすり傷?

:結構血が出てるように見えるんだけど、もしかして違う世界の話してる?

:えぇ……

:素直に治してやれよ


「むん」


 神代さんがちょっと力んだら、すぐに血が止まった。首筋の血をそうやって止められる理由は俺には理解できないが、止められているからいいか。


:如月君、疑ってすまんかった

:本当にかすり傷なのね

:やっぱり神代ちゃんの方が人間じゃないわ

:如月君って普通の人間だったんだね

:それはない


 そこは断言してくれよ……俺のことはちゃんとした人間だって。


「あの、蠅倒したんで褒めてくれませんか?」

「偉い偉い」


:滅茶苦茶雑で草

:お前、それが彼女に対する褒め方か?

:君、普段から彼女に対してそんな感じなの?

:やっぱり陰キャは駄目だな


「むふふ!」


:君もそれでいいのか

:ちょろいな

:流石に笑った

:アサガオちゃん、流石に如月君に対して弱すぎないか?

:ちょっとこのカップルのパワーバランスが垣間見えたんだけど……もしかして、アサガオちゃんっていっつも如月君にこうやって負けてる?

:ある意味勝ってるだろ


 勝手に人の普段の生活に関して妄想してる奴らがいるな……事実とも言うけど。

 普段から、七海さんは大丈夫かなって思うぐらいにちょろい時があるから……誰かに騙されないか俺は心配です。まぁ、七海さんも今となってはEXに恥じないような実力を持っているのであんまり心配してもしょうがないのかもしれないけどね。それでも心配になるのが彼氏ってもので。


「むー……またイチャついてる。今日は私も一緒にいること忘れないでよね!」

「ふっ」

「むっかー!? なにその勝ち誇った顔は! お姉ちゃんは絶対に認めませんからね!」

「なんか……そんなキャラでしたっけ?」

「つーくんに関してはそういう感じのキャラなの!」


 そ、そうですか……それでいいのか神代璃音。


:草

:まぁ、ハーレム(笑)ですね

:如月君って本当にモテる……のか?

:ま、まぁ……美少女に滅茶苦茶モテてるから、普通にモテている人判定でいいんじゃないかな

:俺らよりはモテてるからいいよ

:陰キャの希望かな?

:もはやここまで来たら陰キャ名乗るのはやめた方がいいよ

:最初から自称はしてない定期


 いや、自虐で言ったことはあるぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る