第184話

 階段を降りて俺の目に飛び込んできたのは、粒子となって消えていく巨大なゴーレムのようなモンスターと……その近くで何故か取っ組み合いをしている七海さんと神代さんの姿だった。


「私はつーくんの保護者なんだよ!? お姉さんなの!」

「あらそうですかお義姉ねえさん!」

「むっかー!」

「なにしてんだあの人たち……」


:本当にね

:草

:お前が諦めるな

:当事者はお前なんだからなんとか止めろ

:【¥10,000】痴話喧嘩いいぞー

:よくないが?


 いや、マジで良くないからな。止めるのも面倒なんだから……マジで喧嘩するのはやめてくれ。

 まぁ、喧嘩って言っても全然本気ではやってないから、流れ弾のように飛んで来る魔法がダンジョンをクソボロボロにしているだけのことだ。ビームだって放たれている訳ではないし……ただ、あの2人にとっては本気じゃなくても、並みの探索者にとっては当たるだけで死にそうな地獄であることは間違いない。


:ひぇ

:これで本気じゃないの?

:本気だったら、とっくの昔にダンジョンは崩壊してるんじゃないかな

:草

:駄目だろ

:【¥20,000】ハワイダンジョン逃げて

:【¥1,000】ハワイダンジョン「俺のことはいい……お前ら、逃げろ」


「もう頭来たっ!」

「こっちもですよ!」

「『青龍』」


 一気に2人の身体から放たれていた圧力が強くなったので、そろそろだろうと思って青龍を召喚して樹木を生やし、身体を拘束した。


「遊んでないで行きますよ」

「ちょ、ちょっとつーくん!?」

「こ、これ解いてくれないの!?」

「は? それぐらいなんとかなるでしょ」


 全く……アホの相手をすると疲れる。それがたとえ恋人であろうとも、だ。


 階段を降りて改めて2階層までやってきた俺の目の前には、なんかどっかで見たことあるような姿をした鳥。バチバチと全身から雷を放ってはいるが、明らかに富山ダンジョンで出会った巨鳥の色違いでしかないぞ。

 富山ダンジョンの深層で出現したモンスターの色違いって聞くと、2階層に出てきていいモンスターじゃない気もするけど……そこは大丈夫なんだろうか。


「あ」


 巨鳥が口を開いて帯電していた雷を一気に放出したが、適当に神代さんが手から放ったビームとぶつかって拮抗することもなく巨鳥が一方的に殺された。


「よわ」


:いや、絶対に強かったよね?

:お前らの基準でダンジョンを語るな

:これだからEXは……

:一発の火力は断然神代ちゃんの方が高そうだな……やっぱりアサガオちゃんは手数で勝負か

:いや、そのアサガオちゃんも今となっては普通の探索者なんてゴミ同然のような火力してるんですけどね

:敵の体力が消し飛ぶならカンストダメージも体力ギリギリのダメージも同じ価値だよ

:じゃあアサガオちゃんの方が弱いなってならないのがEXなんだよなぁ


 絶対に弱かったでしょ。明らかに富山ダンジョンで見かけた巨鳥よりも弱かったし、そもそもあれだけ帯電しておきながら口からビーム吐くだけとか……深層行けばビーム吐いて来るモンスターなんて大量いるぞ。



 ハワイダンジョンに踏み入ってから約1時間が経過した。現在の階層は既に40を超えている。驚異的なペースでの攻略になっているが、これは40階層までの最上層、上層、中層のモンスターが弱すぎて話にならなかったからだ。

 俺はカメラを構えているだけで、モンスターが動こうとする前に神代さんか七海さんが魔法をぶっ放して消滅させる。これを40回繰り返してきただけで……こんな所まで来てしまった。


「おー……トーテムポール?」

「なんでハワイダンジョンにトーテムポール?」


:トーテムポールだな

:意味わからない

:誰かが置いてったの?

:いや、明らかにモンスターだろ


 細長い筒のような形をした木造彫刻は、確かに奇抜なデザインも含めてトーテムポールを想起させる……というか、トーテムポールそのものだろう。ハワイダンジョンなのにトーテムポールな理由は知らない。

 トーテムポールは北アメリカ大陸に住んでいたインディアンの文化で、魔除けや豊穣の願って作られていたはずのものだが……ハワイダンジョン43階層の中層に立てられている理由はわからん。というか……まずモンスターだろうな。

 七海さんが興味本位で一歩を踏み出した瞬間に、トーテムポールの側面に存在した顔のようなものが全てこちらを向き、一斉に口から魔力弾を放った。


「うわっ!? ちょ、ちょっと!?」

「なにあれ?」

「……ミサイル?」


:草

:モンスターがミサイル撃ってて草

:魔法ってなんでもありだな

:あんな細かい動きって魔法でできるの?

:できるだろそれぐらい


 尾を引きながらひたすらに七海さんを狙って追尾する姿は、魔法というよりも自動追尾の誘導ミサイルだ。俺と神代さんが同時に手から魔法を放って、七海さんを追っていたミサイルを攻撃すると、爆散したので……やっぱりミサイルじゃないかな?


「こっち向いたよ?」

「……いや、それより顔が増えていることの方が問題では?」


 さっきまで一つにつき一つしか顔が無かった癖に、いつのまにか大量に顔が浮き出ている。しかも、その顔全てが一斉に魔力弾を発射してきたのだ。対空迎撃用のミサイルのように連続で発射される光景なんて、ダンジョンで見るもんじゃないよな。


「自動追尾弾ぐらいだったら私でも再現できるよ」

「え? 本当ですか?」


:マジ?

:神代ちゃん、やっぱりすごいな

:普通に言ってるけどそれはおかしいからな?

:再現できるって言うか……え?

:魔法ってそんな簡単に性質変化できるもんなんですかね

:無理


 神代さんの発言、普通におかしいことだと思うんだけどどうですかね?

 俺は魔法にそういう細かい条件を付け足すのとかそんなに得意じゃないんだけど……神代さんとか七海さんは平然とそういうことするからな。

 宣言通り、神代さんが手から放った複数の光の筋は、複雑に動きながらミサイルを貫通してトーテムポールの顔に直撃した。


「いや、自動追尾弾にしては速度がおかしくないですか?」

「雷魔法だからね」

「それで全部済まされると思ってます?」

「よくもやってくれたなー!」


:あ

:あーあ

:草

:流石に笑った

:神代ちゃんとアサガオちゃんってやっぱり似てるよね……根本的な部分が

:似てるって言ったら絶対に怒るぞ

:同 族 嫌 悪


 あ、まだ動きそうだったトーテムポールが七海さんの魔法で消し飛ばされた。

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