第183話
ハワイ。地理的にはオセアニア州に属しながらも、行政的にはアメリカ合衆国の領土とされている、火山によって形成された島々の総称である。アメリカ合衆国において最後に加盟した州であり、州都はホノルル。ハワイ島、マウイ島、カホオラウェ島、ラナイ島、モロカイ島、オアフ島、カウアイ島、ニイハウ島の8つからなる諸島で構成された州だ。ちなみに、日本人が想像するハワイの風景は、州都ホノルルも存在するオアフ島の南部に位置しているワイキキという場所だ。ホノルル国際空港からもそれなりに近いしな。
「ハワイに来たらワイハーって言うのがルールなんだっけ?」
「それ、頭の悪い高校生しかやらないね。というか人生初のハワイって訳でもないのになんでそんなにテンション高いの? 修学旅行で来たじゃん」
「修学旅行は修学旅行なの! 今回は普通にプライベートで来たからいいでしょ?」
いや、知らんよ。
ホノルル国際空港で飛行機を降りた時から滅茶苦茶元気なんだけど、七海さんって時差とか飛行機とか全く気にならない人なんだよな。タフだよなぁ……飛行機は俺もあんまり気にならないけど、流石に遠くまで行くと時差は結構くるぞ。
「ハワイなんて久しぶりだなー。つーくんは最後に来たのいつ?」
「……修学旅行だって言ってるんじゃないですか」
俺の右側を歩く七海さんとは逆方向の、左側でキョロキョロ周囲を見ている神代さんの言葉に、俺はため息を吐きたくなってきた。
俺が次はハワイに行くって話をした時に、いきなり自分もついてくるなんて言い出して困惑したんだけども……同行者である七海さんが許したので俺も許すことにした。
「今回は一緒にダンジョン探索、楽しみましょうね。神代さん」
「ふ、ふふ……つーくん、この女は今、私に向かって挑発したってことでいいのんだよね? このまま空港ごと吹き飛ばしてもいいってことなのよね? ねぇ?」
「落ち着いてください。魔力漏れてますよ」
神代さんを中心としてわずかに風が吹いていたので、すぐに彼女の魔力が漏れ出ていることに気が付いた。全く……なんて野蛮なんだ。
本当に3人で潜っても大丈夫なんだろうか……不安だ。
「あ、3人ですね? ではここにお名前をご記入ください。それから探索者資格を証明の為にご確認させていただきますね」
「バリバリ日本語だ……」
「日本人多いですからね。ハワイは」
そう……ハワイは日本人観光客が多いので、とにかく日本語を話す人が多い。外国人観光客が多い地域で店を開いている人が、結構英語を喋ることができるのと同じだな。
まぁ……多いのは日本人の観光客であって、日本人の探索者って訳ではない。なにせ、このダンジョンは1階層からそれなりに強力なモンスターが出てくるってことで、かなり国際的にも嫌われてるからな。
「確認しま……す?」
にこやかな笑顔で応対してくれていた受付さんの表情が、俺たち3人のダンジョン探索者カードのランク欄に書かれているアルファベットを見て固まった。
数秒間の沈黙の後、再起動した受付さんはにこやかな笑顔で探索者カードを返してくれたが……手が震えていた。
「ど、どのようなご用事で本日はこのハワイダンジョンに?」
「普通にダンジョン探索ですけど」
「うん。最下層まで攻略しようかなって」
おい、余計なことを言わないでくれ。受付さんの笑顔が引き攣ってるだろうが。
「そ、それは、大変です、ね……が、頑張ってくださいね」
引き攣った笑みのまま顔を青褪めさせた受付さんに対して、俺だけがちょっと同情的な視線を送っておいた。七海さんと神代さんに関しては受付さんのことなんてどうでもいいのか、全く気にしてなかったからな。
配信用カメラの電源をつけて、ハワイダンジョンの光景を映し出す。同時に配信開始ボタンを押して、ダンジョン配信を始めると、幾つかのコメントがつく。
:お?
:ハワイと聞いて
:青い海は見れますか?
「見ることはできません。だってもうダンジョン内だから」
:知ってた
:なんで見れると思ったのか
:草
:青い海がみたいなら自分でハワイ行けや
:だって海外旅行って高いじゃん
:その金はダンジョンで稼げばいいんだよ
いや、海外旅行するためだけにダンジョンで稼ぐとか普通はしないでしょ。そんなんだったら、海外旅行したいからちょっとずつ貯金するとかの方がまだ理解できるわ。
「えー、ハワイダンジョンはとにかく単調なダンジョンですが、誰も攻略したがらないので俺が攻略しようかなって、思ったので……今日は来たんですけど」
「私もいるよ!」
「つーくん、先に1階層攻略していい?」
「……自由人が2人います」
:えぇ……
:なに、この過剰戦力
:ハワイのダンジョンを攻略するんじゃなくて消滅させるの?
:【¥50,000】神代ちゃん、配信では久しぶりに見たな
:アフリカにいるんじゃなかったの?
七海さんが一緒にいることは想定内だった視聴者は多いけど、神代さんが一緒にいることを想像していた人はいないらしい。まぁ……俺と七海さんも想像してなかったからな。
まさかEX3人でダンジョンを探索することになるとは思ってもなかったけど、このボスラッシュダンジョンを1人で攻略するのは退屈だろうし、丁度いいかもしれないな。問題さえ起こしてくれなければ。
「1階層からちゃんと映したいんで、勝手に倒さないでくださいよ」
「うーん、わかったー」
「本当にわかったのかな、あの人」
:勝手に倒すとかもう笑える
:確かボス系のモンスターが1階層ごとに出てくるタイプのダンジョンだっけ?
:だから国際的にくっそ不人気なダンジョンなんだよな
:面倒極まりないからな
:金も稼げないし
:【¥2,000】神代ちゃんがガン無視してさっさと敵を倒す、に2000円賭けるぜ
:【¥10,000】アサガオちゃんがぶっ倒すに10000賭けるぜ
「投げ銭なんで賭けても帰ってこないですよ」
:急なマジレスに草
:【¥1,000】如月君が適当に倒すに1000円
:もっと賭けろ
:賭けて返ってこないぞ
視聴者はなにがしたのかわからないけど……まぁ、楽しんで見ることができるならなんでもいいか。
とりあえず視聴者と戯れてないでさっさと1階層に行こうと階段を降りたら、1階層の中から爆発音が聞こえてきた。
:ほらな?
:はい
:やっぱりな
:誰が勝ったかな?
はぁ……本当に仕方ない人たちだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます