第179話

 高速移動をする敵に対して全く手段を持たないみたいなことを言っていたけど、八王子ダンジョンに出てくるモンスター程度なら、相手が動くよりも先に潰しているんだからあんまり説得力はない気がする。そもそも、深層だってそんなに速い敵が多いって訳じゃないんだから。


「ふぅ……どうですか?」

「取り敢えず、斧から衝撃波を飛ばすことでモンスターを圧倒していることは理解しました」

「実力派の探索者になれていますか?」

「カナコンさんの実力で実力派を名乗れなかったら、日本は一瞬で世界を征服出来ちゃいますね」


:冗談では済まされない

:いや、マジで洒落にならないから

:カナコンちゃん、つにそんなレベルにまで……なってたわ

:いやぁ……はっきり言ってパンダたちとは比べものにならないぐらいに強くなってるからね

:やっぱり貪欲さに違いがあるのかな……

:こう言ったらなんだけど、他の3人はダンジョン配信の為にダンジョン探索者やってる感じがあるけど、カナコンちゃんは如月君とアサガオちゃんに似てて、ダンジョン探索するためにダンジョン探索者やってる感じあるからね


 ふむ……ダンジョン探索をするためにダンジョン探索者をやっているとは、鶏が先か卵が先かみたいな話だな。

 ところで、この実力でまだ宮本さんはAランクにならないのだろうか。正直、単独では厳しいかもしれないが……既に深層まで行けるんじゃないかって性能をしていると思う。後は鎌倉ダンジョンの七海さんのようにきっかけ一つあれば、一気に化けると思うんだが。


「ふふ、如月さんに褒められるとなんだか自信が湧いてきますね」

「俺に褒められなくてもしっかり自信持ってください。俺なんて適当言ってるだけなんですから」


:自覚できて偉い

:そうだよ

:如月君は適当だから話半分でいいからね


 いや、社長としては話半分だと困るんだけど……でも、ダンジョン探索者としての話は話半分でもいいかな。だって、俺なんてランクをまともにあげることもなくEXになってるから、そこまで偉そうになにか言える立場ではないんだよ。


「ところで……さっきから写真を撮ったりしているのはなんでですか?」

「え? 八王子ダンジョンの動画を作成するのに使えるかなって……でも、同じ風景が続くダンジョンですからあんまり意味はないかもしれないですね。精々、どういうモンスターが出てくるのかって話だけですから」

「あぁ……あの、ダンジョン紹介用動画の」

「それです」


:あれ、続き待ってるぞ

:渋谷の深層も上げてくれ

:取り敢えずダンジョン紹介系の動画を潰していこうな

:札幌とかもガンガン作ってくれよ


「いや、現地まで足を運んで作らないといけないので……鎌倉ダンジョンの下層を絶賛編集中なので待っていてください」


 動画作成は不知火さん他スタッフに任せて、時折俺も参加してるって形だからどうしても時間がかかってしまうのだ。まぁ、恒常のコンテンツだからって考えて、投稿速度よりも動画の丁寧さを優先しているからってのもあるけど。

 俺がコメント欄に目を向けた瞬間に、宮本さんが走り出してゴブリンの集団を殲滅していた。既に下層なんだが……モンスターは瞬殺が続いている。


「……魔法を使うのが苦手で、魔力は身体の中で循環させることによって、身体能力を上げていることにしか殆ど使ってないんですよね」

「は、はい。ダメですか?」

「いえ……それが余計な魔力を消耗しない、圧倒的な継戦能力を生み出していると考えれば……途轍もない才能だと思います」


 元々の貯蔵量に差があるから、一概には言えないけど……同じ魔力量でどれだけ継戦できるかを比べたら、恐らく俺よりも遥かに長い間戦い続けることができると思う。俺は式神を召喚するのに魔力を消費するし、七海さんはド派手に魔法を使うので基本的に消費量が多い。他のEXで言うと婆ちゃんは高速移動に、神代さんは大火力を出すことに、相沢さんは一番宮本さんに近いけど、あの人も火力を出すために魔力を飛ばしたりしているので、やはり宮本さんの方が上だろう。

 逆に言えば、循環させる魔力さえ確保することができるならば他の全ての魔力を、膂力以外に向けることができる訳だ。これは滅茶苦茶強いのでは?


「方法はなにか考えないといけないですけど、高速戦闘に対応するとかそういうレベルじゃない話ですよこれは。マジでカナコンさんも怪物になっちゃうかも」

「え? 歓迎ですけど」

「ですって」


:うーん……カナコンちゃんが望んでるなら?

:お前、アサガオちゃんといいカナコンちゃんといい……他人を怪物にする能力でも持ってるの?

:草

:もう他人を改造する悪役じゃん

:如月君は悪役だった?


 いや、本人が望んでやっていることなんだから、俺は悪ではないぞ。宮本さんが望んでいることを否定してやることの方がどっちかと言えば悪だろ。俺はあくまでも、宮本さんが望んでいることをしているだけなんだからな。な?


「じゃあ……まずはカナコンさんがどうやって火力を手に入れるかって話ですね。魔法が苦手でも魔力を使って火力を確保する方法は……特に思い浮かばないんですけど」

「そうなんですよね。私も、ただ魔力を飛ばすだけぐらいならできるんですけど、それ以上ってなると……どうしても詰まってしまうと言うか」

「根本的に考え方を変えるとかしないと駄目なんですかね。たとえば……遠距離を完全に捨てて、近距離だけに全てをかけるとか」


 これなら無駄に魔力を飛ばす必要もなくなるし、循環させるだけの魔力があればずっと戦い続けることが可能にもなる。しかし、火力を確保するって話の解決には全くならんな。


「魔力を循環させれば身体能力が上がる……あの、もっと多く循環させちゃ駄目なんですか?」

「最悪、身体が耐え切れなくなって破裂しますよ?」


:マジ?

:ひぇ

:本当かよ


 これはマジな話だ。自分の身体から生み出されるはずの魔力だが、体内で循環させすぎると身体が破裂する……らしい。実際に破裂した人間を見たことがある訳ではないが、危険だから絶対にやらないようにって話は聞いたこともあるし書物に書かれているのも見たことがある。


「……破裂するギリギリを見極めればいけるはずです」

「ゆ、勇気ありますねぇ……」


 確かに、理論上で言えば循環させる量を多くすれば身体能力は上がるはずだけど、実際にそんな劇的に変わったりはしない筈だ。命をかけてまでやるべきことではないと思うが……まぁ、本人が挑戦したいと言うのならばやらせてあげよう。

 最悪、頭以外なら破裂したってすぐに治せばいいんだから。

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