第178話
「ふふ……久しぶりに如月さんと一緒に配信ですね」
「そうですね。2人きりは随分と久しぶりかな?」
:おは
:こんな早朝から配信とは元気だな、カナコンちゃん
:なんか横に埒外の怪物いるけど大丈夫か
:カナコンちゃん、こいつ呼ぶ時は事前に言ってくれないと……心臓に悪いから
俺の顔を見ただけで心臓に悪いとか言ってる人は、普段から心臓が悪いと思うので病院行ってください。俺はそんな極悪人でもないですし、心臓に悪い顔もしていません。
確かに突発的な参加なので驚く人もいるかもしれないけど、俺は大人しく自分だけで配信しようと思っていたら、何故か宮本さんに引っ張られてそのまま配信に出ることにされたんだから。俺は被害者だ。
「今日は見ればわかりますけど、我らが社長、如月さんと一緒にやっていきます。成長した私の姿をちゃんと見て欲しいので」
「……なんか、近くないですか?」
:おい
:気が付くな
:カナコンちゃんなりのアピールなんだからせめて心の中でとどめておけよ
:みんなわかってて言わなかったのに……
:アサガオちゃんはなんでこんなデリカシーない男と付き合ってるの?
:デリカシーないからでしょ
:アサガオちゃんがそんなこと気にする人間だと思うか?
:カナコンちゃんもそういう細かいことは気にしないぞ、如月君!
なんか……視聴者と宮本さん、両方から圧力を感じる。宮本さんからはマジで宣戦布告のような圧力を感じるし、視聴者からは「お前どうせ気が付いてるんだから、誤魔化さずに断るか受け入れるか判断しろ」って圧力が感じられるぞ。
いや、俺だって色々と決断したいけど、七海さんがそういうの大らかというか……宮本さんと共謀してるんじゃないかってぐらいに匂わせてくるんだよね。
「今日はこの八王子ダンジョンで、ちょっといつもより暴れながらいきます」
「暴れながら……」
黒い戦斧を掲げながら、宮本さんはにっこりと笑った。男からすると、その笑顔のまま斧を振り回されると股間が委縮するんだよね……ちょっと、怖いもん。
急に始まった俺と宮本さんのコラボ配信は、早朝から始まっているにも関わらず着実に時間経過と共に視聴者が増えていた。
八王子ダンジョンのモンスターの少なくさと、道の平坦さによってすぐに下層までやってきた訳だが……俺はここまで何もしてない。コメント欄の視聴者と会話したり、時折宮本さんと雑談しているぐらいである。だって……出てくるモンスターは全部宮本さんが真っ二つにしてしまうのだ。
「あ」
前方からオークのようなモンスターが走って来ていたが、それに気が付いた瞬間に宮本さんは斧から衝撃波を飛ばしてダンジョンの地面に傷跡を残しながらモンスターを真っ二つにする。
「……ちょっと見ないうちに、よくわからない遠距離技が増えてる」
:魔法が苦手なカナコンちゃんが開発した遠距離攻撃だぞ
:勢いと魔力だけで衝撃波を飛ばす脳筋攻撃とも言う
:如月君だって似たような技使えるでしょ
「俺のは魔力を乗せてそれを斬撃として飛ばしているだけなので、あの衝撃波とはちょっと違いますけど……まぁ、ほぼ一緒ですかね。両手斧でそれをできますかって言われたら、ちょっと面倒だと思いますけど」
なにより驚くべきなのは、スカルドラゴンの素材によって生み出されたあの武器を完全に使いこなしていること。光さえも飲み込んでしまいそうな黒い斧を片手に、モンスターを蹂躙する姿は……魔法が使えないからと嘆いていた過去とは重ならないな。
「どうですか? 色々と試行錯誤したんですけど……まだこれぐらいしかできなくて」
「いや……数十メートルぐらいを直進する斧の斬撃って凄まじいことですからね?」
しかもそれが魔法じゃないんだから驚きだ。
富山ダンジョンでの戦闘経験は、ここまで宮本さんを進化させていたってことだな。
「でも……どうしても高速で動く相手への有効な対策が考えられなくて」
「あー」
うーん……それは難しい話だな。
俺の場合は、俺を探索者として導いた人が高速移動の鬼だったのでそこまで気にならなかったし、身体能力だけでなんとかごり押しできるぐらいの自信があるから特別なことはなにもしてない。七海さんは、手数と範囲だけで高速移動に対応できるだろう。
まぁ、本来両手斧を持っている宮本さんのような探索者は、高速で移動するモンスターの対処をする必要ないんだが、ソロでもダンジョンに潜れるようにってことなんだと思う。
「簡単な方法だと……こっちも高速で移動する。もっともシンプルかつ効果的な方法なんですけど……それができないから困ってるんですよね」
「はい」
スカルドラゴンの素材はただでさえそれなりに重いというのに、それを両手斧にしているのだから宮本さんが持つハンデはデカい。それを埋めるような方法って言うと……なんだろう。
「範囲攻撃? 後は……勘?」
駄目だ……全く対策が思いつかない。
:如月君はどうやってるん?
:それをカナコンちゃんにそのまま教えればいいじゃん
「俺の対策方法を? えー……ひたすらに高速移動する敵と戦って目を慣らす、ですかね」
具体的に言うと婆ちゃん。
:無理ですね
:何してんの君
:お前、それ神宮寺楓のことだろwww
:あぁ……
:つまり神宮寺楓とひたすらに殴り合うってことね
それ、いいな。
「そうですね。いっそのこと、慣れるまでひたすら俺と戦い続けた方がましかもしれませんよ」
「き、如月さんと2人きりでずっと付きっきりですかっ!?」
「なんか変な方向に行ってませんか?」
:どうしてこうなるまで放っておいたんだ
:草
:如月君のせいなんだよなぁ……
:まぁ、責任取ってやれよ
:いいじゃん、胸大きいんだし
胸が大きいことは関係ないはず……いや、関係ないだろ。
:今、ちらっと胸みたよね?
:まぁ、アサガオちゃんのよりデカいから
:まるでアサガオちゃんが貧乳みたいな扱いされてるけど、アサガオちゃんも普通の女子高生と比べたらデカいからな?
:アサガオちゃんのは完全に美乳って感じだろ
:神が作りだした至高の芸術品って感じ
:言い過ぎ
:キッショ
:最高にキモイ奴湧いてて草
色々と言いたいことはあるけど……手っ取り早いのは結局、俺と組手をすることだろうな。でも……組手をするってなると手加減する気は全く無いから、ちょっと心配だけど。
それと配信した時の絵面が面白くない。
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