第171話
幽霊船から放たれたビームを勾陳の結界で受け止めたら、その衝撃だけでかなり後退ってしまった。同時に、勾陳の結界がびしりと音を立てたので、速攻で魔力を送り込んで更に強固な物へと変質させた。
勾陳は実体を持たない式神だが、他の式神同様に俺が魔力を送り込むことで意図を理解して色々なことをしてくれる。今回も俺が魔力を送り込んだら結界を即座に強固にしてくれた。
「……威力だけならマジで今まで見て来たモンスターの攻撃で一番かもしれないですね」
:マジ?
:幽霊船がビームとかいう謎の攻撃、最強だった?
:【¥50,000】でも君、最強の攻撃を防いでるじゃん
:【¥1,000】草
:たかが草を生やすのに1000円使うな
ただ……ビームを放ってから急に幽霊船の動きが悪くなった。さっきみたいにそこら中を浮いたりするわけでもないし、木砲を撃ってくるような気配もない。もしかして……自分の魔力を最大まで放ったってことなのか?
なんて考えていたら、急に幽霊船の中から大量のスケルトン型モンスターや、よくわからない幽霊らしきものが飛び出してきた。マジで……もう他に手が無いって感じだな。
「『雷獣』」
飛び出してきたモンスター程度に、わざわざ魔力を消費して十二天将を召喚することすら無駄だろう。そういう意味では、雷獣はコストパフォーマンスが優れているので俺は結構好きだ。白虎には劣るが、他の十二天将にも負けない速度を持ち、シンプル故に扱いやすい雷の魔法と物理攻撃。なにより……犬なので可愛い。
水面を揺らしながら走ってくるスケルトンの群れに向かって、雷獣は雷撃音と共に突っ込んでいった。
:びっくりした
:急に外で雷鳴ったのかと思ったら画面の中からだった
:【¥20,000】僕は猫派です(半ギレ)
:俺は犬だな
:猫の方が飼ってて楽しいぞ
:は? 犬も飼ってて楽しいが?
「別に俺は雷獣を飼ってる訳じゃないですけどね。単純に魔力消費が少なくてそれなりの戦果を出してくれるので、雷獣が好きってだけで」
確かに、犬か猫って言われると……俺は犬派だけど。ほら、一緒に散歩したりすると楽しいじゃん?
雷撃音を響かせながら、雷獣は次々にスケルトンを蹴散らしていく。そんな様子を俺はぼーっと眺めていたのだが……雷獣に蹂躙されているスケルトンが消えていくのに、魔石が全く落ちていないことに気が付いた。
「『朱雀』」
倒しても魔石が出てこないと言うことは、あのモンスターたちはなにかしらから魔力を供給されて動いているだけの存在で……そうなった場合にあのモンスターに魔力を供給する存在なんて一つしかない。
「本体は幽霊船そのもので、乗組員は幽霊船が召喚しているようなものってことですね」
:実質式神使いじゃん
:式神術のミラーマッチだったってことか
:そんなことある?
:いや、勝手に言ってるだけだから
:【¥4,000】頑張れ俺たちの幽霊船
:勝手に俺たちのにするな
:でも幽霊船ってかっこいいよな
:わかる
:如月君は今すぐに式神術で幽霊船を作り出すべき
「船とかに命が宿って、そのまま動いていることがあんまり想像できないので無理です」
式神術は術者が想像できるのか、できないのかが一番大切だ。俺にとって、式神術で召喚できる存在はあくまでも生物的なものばかり。勾陳のような実際にモデルが存在するものなら、実体がないものも想像できるんだが。それでも、勾陳は実体がないだけで蛇であるっていう情報はあるからな。船は……無理だろ。
召喚された朱雀は炎を纏いながら上空へと飛び上がり、降ってきた隕石を口から吐き出したビームで破壊してから大きな鳴き声で存在をアピールしていた。
:口からビーム吐いたぞ
:式神の教育はどうなってんだ
:【¥1,000】
:【¥30,000】かっこいい
:いいな
「朱雀は割と、目立ちたがり屋というか……あんな風に力を誇示するのが好きなんですよね」
以前に召喚した時は、富山ダンジョンで一瞬だけだったから、それも気にしてるんじゃないかな。十二天将は降霊術によって降ろしてきたものが、俺の作り出した身体に入っている状態だから、俺の関与しないところで勝手に性格ができたりするから。因みに、白虎は言われたことを確実にこなす仕事人、青龍は付き従ってくれる寡黙な従者、玄武は言われたことしかしない面倒くさがりだ。
地上で雷獣がスケルトンと戦っているのを尻目に、朱雀は燃え盛る大きな翼を揺らして、大量の火球を幽霊船に向けて放った。自身が攻撃されていることに気が付いた幽霊船は、当然の如く反撃する為に錨を飛ばすが……朱雀に近づいた瞬間に空中で融解した。
:空中で鉄が融解するってどういうことなの……
:高温すぎるだろ
:木造船に対して炎の朱雀を召喚する如月君は地味に鬼畜
:マジかよ如月君、見損なったわ
なんでだよ。モンスター相手に手加減する理由なんてないだろうが。モンスターに対する同情心とか、探索者にとってもっとも必要ない部分だぞ。そんな甘い考えしてると、渋谷ダンジョンの中層で植物に擬態してるモンスターに食われるぞ。
朱雀の火球が幽霊船の帆に直撃して、炎上し始めた。同時に、幽霊船の内部から飛び出してきたスケルトンの一部が何もしていないのに消え始めている。
「魔力のリソースがあって、錨を飛ばしたりした魔力の分だけスケルトンが消えたってことなんですかね? ちょっと余裕のある人はメモしておいてくださいよ。ニューカッスルダンジョンの攻略情報ですよ?」
:海外のダンジョン攻略情報とか見てどうするんだよ
:【¥1,000】海外までダンジョン攻略とか行かないんですが
:普通の人間はオーストラリアまで行ったら観光とかするのよ?
「観光って何処にですか? オペラハウス?」
:シドニーじゃねーか
:草
:お前、オーストラリアの観光する場所オペラハウスしか知らないのか?
失礼な。俺はオーストラリア大陸の砂漠だって普通に歩いたことがあるんだぞ? グレートバリアリーフだってこの目で見たことがあるんだからな。オペラハウスと同じ世界遺産だぞ?
「あ」
コメント欄と愉快に喋っていたら、炎上してもまだ抵抗する幽霊船に業を煮やした朱雀が、口から極大のビームを放って幽霊船を貫通させた。さっきまでは普通に炎上していた幽霊船が、一気に内部から爆裂して……そのまま周囲にいたスケルトンたちも魔力の供給源を失ったことで消滅した。
やっぱり朱雀は目立ちたがり屋だな。
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