第170話

 ガチャガチャという音と共にガレオン船が動き、装備されている木砲から一斉に砲弾が放たれた。連続した音と共に、俺の前に存在する勾陳の結界に全てが阻まれて爆発していく。

 勾陳の結界は世界を隔てるように存在しているものであり、物理的な攻撃も魔力による攻撃も防げてしまう優れものなのだが……爆炎で目の前が塞がってしまうのはあまりよろしくない。


「飛びますよ」


 視聴者に対して一言だけ忠告を残して、風の力を借りるようにして空を歩く。幽霊船はさっきから水面なんてお構いなしに浮きながらこっちを攻撃してくるので、こちらも立体的な対策が求められると思った。

 まず、確かめなければならないことが幾つかある。

 一つ目は、あの幽霊船にはモンスターが乗っているのかどうか。幽霊船そのものがモンスターという扱いで動いているのか、あくまでモンスターが幽霊船に乗って動かしているのか。この違いはかなりデカい。

 二つ目は、あの幽霊船を破壊したら俺は戦闘で勝利した扱いになるのかどうか。一つ目に被るような話だが、幽霊船そのものがモンスターだった場合は幽霊船を木端微塵にしなきゃいけないし、逆にモンスターが動かしているだけなら別に船は破壊しなくてもいい訳で。

 三つ目は、あの幽霊船には実体があるのかどうか。俺が剣で斬ってなんとなるのか、それとも魔力をぶつけないと駄目なのか。


「は?」


 まずは物理攻撃ついでに中に乗り込んでモンスターがいるかどうかを確かめてやろうと思ったら、そのまま水中に沈んでいった。水が足下に溜まっているとはいえ、それは精々俺の足首程度なはずなんだが……あの幽霊船はそんな水嵩なんて気にもせずに潜行していった。渋谷ダンジョンの深層でワームや鮫が潜るのと同じ理論か?

 1つだけ断言できるが、今みたいに水の中に潜行されたら……俺から攻撃することは不可能だ。つまり、幽霊船が潜水した時点で俺は逃げに徹することを強いられている。クソムカつくってことだ。


:【¥5,000】幽霊船って潜水するイメージあるけどなんなの?

:【¥1,000】

:知らん

:幽霊船だからでしょ

:なんで幽霊は潜水するイメージなんだよって聞いてんだよ

:取り敢えず、如月君が逃げてるだけってことは理不尽なことは理解した


 潜水している状態から錨だけが空中のこちらに向かって襲い掛かってくる。1度躱し、2度弾き、3度目で鎖を切断してやったが全く関係がないのか、再び水中から錨が飛んで来る。

 俺、ゲームとかファンタジー小説に出てくる幽霊船とかかっこよくて好きだったけど、嫌いになりそう。地対空ミサイルみたいな頻度で何度も連続で飛んで来る錨を見ているが、全く浮上してくる気配がない。というか、連続で5個ぐらい錨飛ばしてくるって……何個あるんだよ。


:見てるだけならかっこいいな

:【¥50,000】幽霊船すこ

:如月君、割とイラっとしてないか?

:安置からひたすらチクチク攻撃してるようなもんだからな……そりゃあ誰だってキレるわ

:【¥15,000】チクチクプレイはいいぞ

:害悪プレイで草


 また錨が飛んできたので、今度は避けずに掴んだ。どんな状況になっているのかは知らないけど、錨を飛ばしているのが幽霊船ならそれを掴んで引っ張れば引きずり出せるのでは?

 力いっぱい引っ張ってみると、鎖がピンと張り詰めた状態からこっちが逆に引きずられてしまった。追加で飛んできた錨を避けて、もう一個飛んできたのを再び掴む。


「こうなったら意地だ!」


 俺が錨を掴んだタイミングで、更に3つが追加で飛んできた。それを避けながら錨を引っ張り、俺が避けた3つの錨を召喚した牛鬼、牛頭鬼、馬頭鬼に掴ませて引っ張る。


:釣りかな?

:大きなかぶでしょ

:そんな訳

:えぇ……

:綱引き漁だぞ

:漁(相手は船)


 さっきはこっちが引きずられそうな力を感じたが、今度は3匹の鬼の力もあってこちらが少し勝っている。こっから更に引き上げれば、なんて思った瞬間にもう1個錨が飛んできたが……流石に何度も見せられれば引き上げながら掴むこともできる!

 少しの引き合いの後、思いっきり引っ張ると水面から幽霊船が浮上してきた。どこから錨を飛ばしていたのかと思ったら、マストの部分に謎の歪みができてそこから5つの鎖が伸びていた。魔法じゃねーか!


:【¥1,000】とったどー!

:【¥5,000】デカい!

:流石やね

:いや、なにが釣れるかは最初からわかってただろw

:幽霊船を釣るとかいう意味不明の行為に流石に草を禁じ得ない


 引きずり出した幽霊船は、すぐさま木砲でこちらに狙いをつけてきたが……同時に空から隕石が降って来て幽霊船に激突した。


「……物理的な干渉ができるのか、と思ったけど錨引っ張ってたんだからそりゃあできますよね。そうじゃなかったら引きずり出せてないですから」


:せやね

:そう言えばそうだったわ

:えぇ……

:忘れるな


 いや、思ったより錨連打がイラっとして普通に忘れてた。それにしても、このダンジョンの隕石はモンスターと探索者、同等に攻撃してくるものではないと思ってたけど……幽霊船が物理的な干渉を受けるならイーブンだな。

 横っ腹に隕石を受けた幽霊船は、凄まじい音と水飛沫を巻き上げながら水面に激突したので、追撃する為に一気に近づいて剣を振るおうとしたら……急に幽霊船が透けてそのまま俺がすり抜けて行ってしまった。


「嘘だろ……切り替えられるのか? ならなんで俺が錨引っ張ってた時とか隕石が来たときに幽体化しなかったんですかね。反応わるいんじゃないの?」


:ここぞとばかりに煽っていくスタイル

:今日の如月君は切れ味があるぞ

:剣持ってるからな

:いつも持ってる定期

:流石に安置チクチクモンスターには厳しいか

:いかに優しい如月君でも安置チクチクは許せないってよ


 モンスターに優しくした覚えはないけどな。

 で、幽霊船は幽体化したと思ったら船の内部から数体の骨が飛び出してきたので、適当に蹴り飛ばした。幽体化した船から出てきた骨が物理的な干渉を受ける……脳トレしてるみたいにこんがらがってくるからやめろ。全員魔力で吹き飛ばすぞ、こら。


「ん?」


 ちょっとウザくなってきたのでマジで消し飛ばしてやろうかと思ったら、幽体化した状態のままおもむろにこちらにマストを向けて……幽霊船はビームを放ってきた。

 なんで俺より先にお前の方がビーム撃ってんだよ! お前は俺に撃たれる側だろうが! ガレオン船の癖に近未来兵器みたいな攻撃するな!

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