第169話
「……あの、一ついいですか?」
:言わなくていいよ
:俺らにも見えてるから言わんでいい
:なにを言いたいかはわかったからいいよ
:なんでだろうね
:やっぱりダンジョンって不思議だねぇ
「なんで深層入った瞬間に空から定期的に隕石が降ってくるんですか?」
:言わんでいいって言ったろ!
:草
:そういう場所んなんだよ(適当)
:星が墜ちてくるとか中々にロマンチックな場所だね(白目)
物理的に星が墜ちてくる場所は駄目でしょ。深層に入っても景色が変わらないなーとか思いながら歩いてたら、急に風切り音と共に前方に隕石が落ちてくるのを見た瞬間、勾陳で結界張ったね。
ニューカッスルダンジョンは深層まで存在が確認されているけど、まだまともに攻略されてないって話を聞いたけど……こんなの攻略される訳ないだろ。馬鹿なのかな?
「しかも、さっきから視界の端で超スピードで飛び回ってる蜻蛉いるし」
:マジ?
:それは見えなかったぞ
マジだよ。大きさ的には頭から尻まで1メートルぐらいの大きさの蜻蛉が、周囲の暗闇に溶け込みながらこちらに襲い掛かる隙を探っている。このダンジョン、ゴースト系のモンスターしかでないって聞いたんだけど、それも下層までの話だったんですかね?
一瞬動きが止まったと思ったら、急速に近づいて来たので手刀で羽を千切ってから燃やした。
:キッショ
:トンボはお化けだった
:トンボ幽霊説出たな
:流石にちょっと……
:なんでゴースト系の敵じゃないの湧いてるんですかね
:ゴーストも湧いてるぞ
蜻蛉を燃やした光で周囲がちょっと明るくなったと思ったら、結界のすぐ近くまでやってきていた騎士のような鎧を着たゴースト系のモンスターが斬りかかってきた。まぁ、当然ながら勾陳の結界に阻まれて剣が止まるので、無防備な胴体に向かって火球を叩き込んだ。
「まぁ……なにはともあれ、さっさと進みます──」
カメラに向かって俺が話しかけた瞬間に隕石が落ちてきた轟音によって、俺の声が掻き消された。
:なんて?
:うるさすぎwwwww
:世界の終末でも多分こんな酷くないよ
:なんで隕石が無限に墜ちてくるんですかね
:そもそもどっから来てんだよwwww
:流石にちょっと不憫に思えてきた
ほら……俺の配信なのにかわいそうってコメントが付くぐらいにはとんでもないダンジョンだぞ。日本のような島国にはない、海外風のびっくりダンジョンってか? 絶対に許さんぞ。
しばらく進んでいても、全く隕石が止まる気配なんてないが……モンスターは結構出てきたり出てこなかったりを繰り返している。ウェーブ性のゲームみたいに波があるって言えば分かり易いかな?
出てくる時は一気に10体ぐらいパパパッと襲ってくるし、波が収まるとしばらく全く出てこなかったりする。
そんなよくわからないダンジョンのモンスターで、ムカつくことが起きた。
:あ、隕石
勾陳の結界によって隕石を防いでいるんだが、実体のないタイプのゴーストモンスターの身体に隕石が直撃したのだ。なんだが……物理攻撃が効かないから当然すり抜けてこちらに近寄ってくる。
隕石もゴースト系のモンスターには関係ありませんってのが非常にムカついたので……俺が立っている場所から半径数十メートルを一瞬で凍らせた。
:はぇ?
:えぇ……
:せめて式神使ってくれ
:どうなってんだよお前はよ
せめて式神を使ってやれと言われたが、こんなのは自分の体内から魔力を一気に放出してからそれを変質させて周囲を凍結させるだけだから、滅茶苦茶簡単だ。どれくらい簡単か説明すると、空中を歩いたり飛んだりすることの100倍は楽だ。まぁ、こういう魔力の使い方って、周囲に人がいると使えなかったりするのでソロ探索者の特権とも言える。
そんな八つ当たりにも近いような範囲攻撃を使いながらダンジョンを進んでいると……65階層でダンジョンの性質が変わったことを理解した。なにせ……足元が水に浸かっていたのだ。
「また水没ダンジョンか? オーストラリアの探索者がどこまで行ったのか正確には知らないんですけど、どうなんでしょうね」
:wikiには最高到達階層が62って書いてあったぞ
:えぇ……
:もう超えてて草
:さらっと最高到達階層を更新していくスタイルを日本国外でもやるのか……流石に笑うわ
:流石、日本が誇る歩く戦略兵器
誰が歩く戦略兵器だ。そんな渾名をつけられるほど酷いことはした覚えがないぞ。
「一般的に言う戦略兵器ってのは、簡単に言うと自国内もしくは相手国の周辺から放って、相手国の重要施設みたいなのを破壊できる兵器のことを言うんですよ?」
:あってるじゃん
:うん
:せやね
「いや、流石に日本国内から敵国に向かって攻撃できるだけの超長距離攻撃は持ってませんよ」
:でも君には足があるよね
:歩く、戦略兵器やからね
:お似合いの名前だと思いますよ
クソが。
コメント欄と遊んでいる間にも、水面に向かって隕石が堕ちてくるので、薄暗いダンジョン内に大量の水飛沫が上がっている。
ほら……また大量の水が下から巻き上げられた。
「……ちょっと待ってくださいよ」
水飛沫が上がるのは理解できる。だって隕石なんだからな……地面を抉るような破壊力がある隕石が堕ちてきたら、大量の水飛沫が上がるのは当たり前だろう。でも……それは結局上から隕石が堕ちてくるからだろ? 当然地面に激突するような爆音と共に水飛沫が上がる訳で……さっきの水だけが弾けるような音にはならないのでは?
俺が疑問を持った次の瞬間には、勾陳の結界を削るような音と共に黒い塊が複数個、激突した。
:なになに!?
:!?
:どうした?
:隕石か
:また隕石がぶつかったんか?
「いえ……どうやらいつの間にか捕捉されてたみたいですね」
勾陳の結界に阻まれた黒い塊は、その場で爆発した。まぁ、塊も爆発も全てが結界に阻まれてはいるが。
攻撃してきた相手を確認するために、周囲を見渡してみると……ゆらゆらと水の上を揺らめくそれが、俺に視界に入ってきた。
「あー……確かにゴースト系のモンスターではある、のか?」
:モンスターって言うの?
:ゲームとかだと結構モンスター扱いだったりするよ
ぼろぼろの布を掲げながらもゆらゆらと動きながら、こちらに狙いをつけているのは……複数の砲門。
「幽霊船かぁ……」
そこには、幽霊船と言われて誰もが思い浮かべるような、ボロボロになりながらも水面ぎりぎりの空中を浮いている大航海時代の象徴……木造のガレオン船の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます