第168話
ニューカッスルダンジョンの中層に辿り着いた訳だが、景色は大して変化していない。何処に行っても薄暗いままだし、天井にはいつだって星の如き水晶が輝いている。それ以外に変わったことと言えば……中層に入ってからぐっと人が減ったこと、その代わりにモンスターが増えたことがあげられる。
まぁ、最上層にはモンスターが殆ど出ないって言ったけど、中層に出ない訳がないんだから当たり前なんだけども。そして、上層から先は、観光目的じゃなくてしっかりとダンジョンとして認識して潜っている人が増える訳だ。
:なんか物凄い重武装の探索者いて草
:海外の装備も見てるとおもろいな
:【¥5,000】
:日本の探索者は誰の影響なのか知らないけど、軽装が主流だからな
:侍スタイル
:侍は鎧着てただろ
「軽装が主流なのは婆ちゃんの影響じゃないですか? あの人、何処に行っても袴みたいな姿じゃないですか」
:あれ実は物凄く硬い素材とかじゃないの?
:モンスターの糸で編まれてるとか
「いや、婆ちゃんは基本的に相手の攻撃なんて受けないなら鎧も必要ないって考え方なので……最速の探索者は伊達じゃないですよ」
正直、どうかと思う。
:ターボババアすごいな
:やばくて草
:【¥10,000】ちゃんと装備着て
:当たらなければどうと言うことはない
:【¥3,000】俺もちょっと装備薄着にしてくる
:死ぬぞ
:みんなはちゃんと重装備にしよう
マジで婆ちゃんの真似して軽い服装でダンジョンに潜るのはやめておいた方がいい。あの人がおかしいだけで、普通の人は被弾を想定した装備を着こむように。
:とか言って如月君も普通のシャツだよね
:せやな
「一応、魔力で編みこまれた服なんですけどね。物理防御は無いですけど、魔法に関してはそれなりに丈夫ですよ」
そもそも、当たりそうな攻撃は全部勾陳の結界で防ぎ、被弾しそうなほど大量の敵に囲まれたら式神を大量に召喚するだけだから、俺もあんまり防御は優先してないんだよな。相沢さんも動きの邪魔になるからって、軽めのプロテクターを身体の一部につけているだけだし、神代さんは自前の服に魔力を通して鋼の鎧のような硬さを維持しているらしい。
なんか……EXってまともに装備着てないな。ちょっと七海さんにはそこら辺がしっかりしたEXとしてなんとか手本に……と思ったけど、あの人も神代さんと一緒で身体に魔力を通せば傷つかないでしょってする人だった。無理だな!
「おー……見ましたか? あの筋骨隆々のおじさん。あんなガタイでムキムキの人、日本じゃ全然見ないですよね」
:あれこそ西洋人の血筋よ
:日本人はほっそいからなぁ
:かっこいいな、あのスキンヘッドのおっさん
:あの馬鹿でかい斧、浪漫だけだと思ってたけどマジで使う人いるんだな
:でもここがゴースト系のダンジョン
:悲しいなぁ
物理が効くモンスターだっているんだから一概に無意味とは言えないけどな。それに、物理攻撃が効かないゴーストだってそのゴーストよりも強力な魔力を武器に纏わせることができるなら、全然通用する訳で。
あれだけムキムキなんだからきっと深層ぐらいまで行ける人なんだろうな。
:ちょくちょく視線向けられてるの笑う
:【¥10,000】
:【¥500】
:そりゃあ、日本で言うとダンジョンに中学生みたいな奴がいるって感覚だろ
:なんとなくわかる
:細い男がダンジョンの中層にいたら見たくなるのはわかる
「多分、冷やかしぐらいに思われてるんじゃないですかね? そもそも海外だとああいう筋肉ムキムキが探索者らしいって思われるみたいですし」
なんかちょっと偏った考えじゃないかと思うんだけど。
:海外だと細い探索者が上層にいたら笑い、細い探索者が下層にいたら離れろって言われてるらしいけどな
:なんで?
:細くて上層にいる奴は雑魚だけど、細くて下層にいる奴は明らかにやばい奴だから逃げろってことだな
:じゃあ如月君はどちらかと言うと避けられているのでは?
は? 俺は別に避けられてなんてないが? ただ、明らかにアジア人が歩いているから物珍しいって思われているだけだが?
ちらりと周囲に視線を向ければ、俺のことを奇妙な物を見るような感じで遠巻きにしている人もいるし、明らかに俺が視線を向けた瞬間に視線を逸らした人もいる。別に俺、この人たちの前でなにもしてないのにそんな風に思われてるの?
「……まぁいいですよ。別にオーストラリアの人たちに何を思われようとも、俺は別になにも関係ないですから」
:ちょっと傷ついてて草
:そりゃあ、遠巻きにされたら誰だって傷つくだろ
:普通に遠巻きにされるぐらいならまだしも、筋骨隆々の探索者にすら避けられてるからな
:やっぱりEXは外でも人間に避けられる運命……EXって本当に人間なの?
中層に入ってからモンスターが多くなったと言ったが、ニューカッスルダンジョンはそもそも1階層が結構狭いから探索者とよくすれ違うし、他の探索者が戦っている姿もよく見かける。
ゴースト系のモンスターに対して、魔法が込められたアイテムを使っている人も見るし、杖から魔法を出している人も見かける。やはりオーストラリアに来たからと言って、みんなが日本人とは違う戦い方をしている訳ではないんだろう。
そんな探索者がいっぱいいる中でも、間を通り抜けて俺の方へと向かってくるモンスターはいる。長髪で顔を隠しながら浮かび上がり、独特の奇声を発しながらこちらに向かってくるモンスターの姿は……完全に和風ホラーゲームのキャラだ。
:無理だって!
:怖い怖い
:マジで怖いのは勘弁してくれ
:【¥50,000】対戦ありがとうございました、漏らしました
:【¥10,000】なんとかしてくれ如月君
コメント欄は物凄い勢いで怖いって意見が流れている。実際、周囲の探索者たちも奇声を聞いて身を震わせている人もいるぐらいに、多分見慣れないモンスターなんだろう。現在の階層は34階層だが、ぱっと見た感じもうちょっと下の層に出て来てもおかしくないぐらいの強さはありそうだ。渋谷ダンジョンで例えると……ワイバーン的な?
奇声を発しながら完全に俺に狙いを絞って近づいてきている訳だが……俺は全く怖いと思っていない。
先に言っておくが、俺はホラー系が大の苦手だ。おどろおどろしい和風ホラーも嫌いだし、びっくりさせてグロ注意みたいな洋風ホラーも苦手だ。でもこのモンスターは全く怖いと思わない。それは何故かと言うと……自力で倒せるからだ。
「うるさい」
奇声が耳にキンキンと響く。流石にやかましいと思ったので、近づいて来るモンスターに向かって手からビームを放った。薄暗い洞窟を明るく染め上げるような光と共に、モンスターが消し飛んだ。
「よし、次行きましょう」
:やっぱりオーストラリア兄貴たちの対応はあってるじゃないか
同じ階層にいた探索者たち全員から避けられるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます