第167話

「おぉ……なんというか、多分画面の向こうには伝わってないと思うんですけど、やっぱり海外のダンジョンはそれ特有の雰囲気があるんですよね。オーストラリアならオーストラリア、アメリカならアメリカって感じで」


 言葉にするのは難しいんだけど、確かにそういう風に感じる何かがあるんだ。


:知らん

:そもそも海外旅行とか行ったことないからわかんない

:なんとなくわからないくもないけど、やっぱりわからない

:どっちだよ

:観光目的の人が多い感じなのかな?

:写真撮ってる人多いし、観光目的多そうだね


「海外旅行いいですよ。オーストラリアは治安もかなりいいですし、ダンジョン出現以降に大国になったのもあるのか、新しいことはガンガンと取り入れていくスタイルで楽しいです。たまにそれで意味のないことしたりもしますけど」


 ダンジョン観光案内ツアーとか意味わからなさ過ぎて逆に好きだけどな、俺は。まぁ、このニューカッスルダンジョンは特徴として、最上層に殆どモンスターが出現しないから観光として使い易いんだろうけど。それでも一応はモンスターが出てくるのだから探索者資格はいるんだけどね。


「オーストラリアは15歳になったら探索者資格試験を受けるのが義務付けられていますから、普通の感覚でダンジョン潜ったりしてるみたいですね」


:義務ってマジ?

:義務化しても受からない奴いるだろ

:あくまで義務化されてるのは試験だけだろ

:取りたくない奴はわざと落ちたり……しないか

:みんな持ってるのになんとなくで落ちたりする奴はあんまりいないだろうけど、取るだけ取ってダンジョンなんか知らねってなる人は多いだろうな


 とにかくオーストラリア政府はひたすらにダンジョン政策を推し進めているから、与党の支持率は高いらしい。実際にオーストラリアの景気はどんどん良くなっているらしいので、国民の支持は間違ってないと言えるだろう。

 最近は戦争も起きてないので、どこの国も保守的な内政向きの指導者が多い。オーストラリアもそのうちの一つと言うことだろう。日本はいつも通り事なかれ主義の首相だけど、まぁそれが今の世界情勢には合ってるからいいんじゃないかな。


「ちょくちょくこっちを見ながらなんか言っている人がいるんですけど、なんなんですかね」


:日本人が珍しいんだろ

:海外の人って日本人と中国人と韓国人を見分けるの難しいらしいから

:そりゃあ、日本人だってヨーロッパ人って一括りにするだろ

:確かに

:【¥5,000】有名になったってことだよ


 いや、たかが100万人の登録者で海外で噂されるぐらい有名になる訳ないだろ。せめて1000万ぐらいになってからじゃないとそんなこと言えないわ。

 まぁ……魔石製の浮遊カメラを追従させながらこのダンジョンを歩いている人が、珍しいんだろうなと予想する。だってこのダンジョン、明らかに配信向けではないもん。星空だって延々と続くからあんまり長く配信しても意味ないし。


「あ、ゴースト」


:やめて

:怖いって!

:無理無理無理

:【¥1,000】悪霊退散

:もっと金用意しろ

:【¥5,000】金で除霊だ

:霊感商法かな?


 現れたのは足を引きずりながらゆっくりと近寄ってくる、血まみれの男性のような姿をしたモンスター。このダンジョンはゴースト系のモンスターが多いってことで、基本的に人型が多いからちょっとびっくりするよね。普通に血まみれの男性がダンジョンにいたら、モンスターじゃない限りは助けてあげようね。今回はモンスターなので、遠慮なく消し飛ばしてあげよう。

 ゴースト系には2種類の存在がいる。物理攻撃が効くか、効かないかだ。ちなみに今回の半分透けているようなゴースト系は、基本的に物理攻撃が効かない。特定条件下で実体化するような奴もいるけど、基本的には効かないと思った方がいい。で、物理攻撃が効くタイプは、大体鎧みたいな感じ物を着ていることが多い。空っぽの鎧の騎士とかゲームとかで見かけるでしょ? あれみたいな奴は、物理攻撃が効くゴースト系。


「ほい」


 物理攻撃が効かないタイプのゴースト系はどうやって倒すかと言うと……相手が発している魔力以上の魔力で押し潰すのが一番早い。

 指を弾く様に魔力を押し出せば、血まみれの男のような姿をしたモンスターは抵抗することもできずに消しとび、どこに隠し持っていたのかもわからない魔石だけが落ちていた。


:うわつよい

:草

:ゴーストなんて怖くねぇよ!

:【¥10,000】なにが幽霊じゃ勝ったなガハハ

:【¥50,000】これで安心して今夜も熟睡できる

:あ、殺人鬼!

:周囲から拍手が起こってて草


 日本で適当にモンスターを倒したってなんだあいつみたいな目で見られるだけなのに、海外だとこうやってモンスターを倒すと周囲の人が拍手してくれる。特に、今は最上層と上層の間ぐらいだから……普段はダンジョン探索なんてしない人ばっかりだからね。

 軽く周囲に会釈しながら、俺は先に進む。このダンジョンは中層にも行ったことが無いのでどうなっているか楽しみだな。


:星が綺麗だな

:星じゃないけどな

:【¥1,000】

:ロマンがねぇなぁ

:綺麗ならなんでもいいんだよ

:でも君たち外出ないよね?

:絶対に許さない

:草

:お前ら、8月のペルセウス座流星群ぐらい見たら?

:ペルセウス座流星群ってお盆だろ? ちょっと見てみるかな

:あ、今年のペルセウス座流星群は新月と被るから滅茶苦茶観測条件がいいぞ


 いつの間にか流星群の話になってるし。星が綺麗なのは認めるけど、そこから何故流星群の話になったのか……全くわからん。

 俺はこれからゴースト系のモンスターと戦っていかなきゃいけないって言うのに、なんとも暢気なコメント欄だ……と思ったけど、所詮は他人のダンジョン攻略を画面越しに見ているだけなんだからそれぐらいの気持ちで見てくれていいのか。


「ペルセウス座流星群は毎年極大日は1時間に50から60の流星が見えるらしいので、是非とも観測して見るといいですよ。俺もちょっと山の方まで行って観測しに行くのもありかもしれないですね」


:山がいいの?

:周囲が暗い場所がいい

:【¥10,000】海もいいぞ

:明るくない場所なら海でもいいと思う

:でも夜の海は怖いじゃん

:山も怖くないか? 熊とか

:山、関係あるか?

:熊が山関係ないとかお前北海道住みだろ

:草

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