第160話

「はー……腹減ってきたなぁ……」


:帰ったらラーメン食べよう

:やはり日本のソウルフード、ラーメンか

:ラーメン屋でオフ会しよう

:迷惑だからやめなさい

:【¥1,000】醤油ラーメン大盛り+替え玉

:最近は物価が上がって大盛り替え玉は1,000円じゃ食えないんやで

:マジ?

:知らないのかよ


 俺がせっかくかっこよく楽しくなってきたとか言って、ちょっとやる気を出したのに……俺は砂漠に座りながら帰ったら何を食べようかと思案している。


「はぁっ!」


 というのも、あの骸骨……俺と何回か打ち合ったら勝てないと思ったのか、それとも別のなにかがあったのかは知らないが、ターゲットを朝川さんに変えて戦い始めた。そんで、朝川さんは今日槍持ってないから流石に俺が戦わないとなって思ったら、なんか周囲の砂を固めて槍にして戦い始めちゃった。

 自分にやらせて欲しいってギラギラとした目で語り掛けてきた朝川さんには逆らえず、そのまま放置して砂に絵を描いたりしながら数分間遊んでいたんだけど……流石に飽きてきた。こういう時に話し相手になってくれるはずの貴人は、なんとなく朝川さんのことが気になっているらしくそわそわしながらずっと戦いを眺めている。


「おにぎり食べよ」


 流石に腹が減り過ぎてどうしようもないから、火車を召喚して預けた荷物から取っておいた最後のおにぎりを受け取る。


:これがダンジョン飯ですか

:ただのコンビニのおにぎりだぞ

:食事は食べる場所とシチュエーションによって味が変わるからな

:じゃあここは?

:この世の地獄(深層)で人がモンスターと死闘を繰り広げている瞬間

:味感じないだろ


「は? 梅干しだからちゃんとすっぱいですけど?」


:そうじゃないんだよ

:こいつさぁ……

:自分で強いって言ってたじゃん


 あぁ……視聴者の方々は朝川さんと骸骨の戦いが気になるのか。カメラはずっと向こうを映しているけど、実際にどっちが勝つかわからないって話ね。


「正直、今の朝川さんは未知の領域に足を突っ込んでますから俺には判断できないです。あれ、もうEXの領域まで来ていますよ」


 EXである俺が言うんだから間違いない。

 視聴者の方々は結構まだまだEXには足りない、みたいなことを言っていたけど……朝川さんはその状態で全く本気を出していなかった。というか、今の朝川さんは軽い気持ちで本気を出すとダンジョンが崩壊するんじゃないかなってぐらいの所まで来ている。つまり、神代さんレベルだな。


:マジ?

:じゃあ終わりじゃん

:マジかよ……

:俺たちのアサガオちゃんが……人間を卒業してしまった


 やっぱり死にかけると探索者としてのなにかを掴むって本当なのでは? だって今回も朝川さんが急に覚醒したのは、魔力が乱反射して絶不調のまま鼻血まで出してたからだと思うんだよ。

 そこでなにかしらの力が目覚めた朝川さんが、ああなったと。


 骸骨はワープを連続で発動させながら朝川さんの猛攻から逃れようとしているらしいが……はっきり言って悪手でしかないだろう。今の朝川さんは、高火力を低燃費で連射するバグ状態だ。ひたすら逃げに徹しても攻撃が止むことはなく……最終的には追い付かれる。


「逃がさないよ!」


 爆発の魔法でワープさせる方向を誘導した朝川さんは、驚くべき身体能力を発揮して骸骨の頭を掴み、砂の槍で胴体を貫いた。


「あれ?」


 貫いた……と思ったんだが、骸骨はどうやら脳もないくせに頭が切れるらしく、胴体部分だけをワープさせて攻撃を回避した。ただ、掴まれた状態でワープしたりしないのは何故なのか。もしかしたら、誰かに触れられている状態だとワープできないとか?

 俺の考察なんてお構いなしに、槍を今度は頭蓋へと向けて振るった朝川さんの身体に、分裂してワープしていたはずの骨が襲い掛かった。


「うわぁっ!? ちょっと急なホラーは駄目だって!」


:ホラーか?

:ホラーの基準間違ってないか?

:なんかホラーゲームに怖がってる女性配信者みたいなことして草

:ホラーに怖がっている(槍を片手に爆発魔法を放ちながら)


 爆発の魔法からも逃れて身体をくっつけた骸骨だが……今の攻防だけでも全ての主導権が朝川さんにあったのが見て取れる。つまりなにがいいのか……この鬼ごっこもすぐに終わって、あの骨が朝川さんに消し飛ばされるのも遠くないってことだ。


:お前も働け

:ヒモ

:アサガオちゃんのヒモ

:ヒモ探索者!


「ここまでどうやってきたのか忘れたのかな?」


 仕方ない……正直放置していてもそのうち朝川さんが骨を倒すだろうけど、さっさと帰るには俺が手伝うしかないな。

 朝川さんが戦っている間にこの階層を色々と見て回ったけど……明らかに下に繋がる階段はなかったからな。つまりは、そういうことだ。


 朝川さんに加勢すると言ったが……方法は問われていない。

 ここで俺が注目したのは、朝川さんがしれっとやっていた割と高度な技術。周囲の物体を魔力で固めたりしながら好きに動かすことができる力だ。朝川さんは普通に黒砂を操って槍にしているけど……魔力を乱反射する砂を掴んで魔力で固めるってなると……かなり面倒くさい。

 あくまで感覚的な話だが、一般的な砂を魔力で固めるのがものを素手で掴むことだとすると、黒砂を魔力で固めるのはまるでつるつるすべるウナギを素手で掴もうとするのと同じことだ。コツがわかればできるだろうけど、そこまでが面倒くさいって感じ。


「はい、バインドっと」


 ただ、見本として朝川さんが黒砂を固めているんだから真似すればできる……と思ったので貴人の目を借りてから砂を掴み、即興で鎖を作り出した。

 放った鎖は骸骨の足首に絡みつき、動きを阻害する。ワープして逃げれば別の鎖を放り、再び足首に巻き付ける。

 数回繰り返していたら、追い付いて来た朝川さんの攻撃を防ぐために立ち止まった骸骨の足首につけた鎖を引っ張り、バランスを崩させた所に砂の槍が頭蓋を貫いた。


「これで終わ──」

「──えい」


  鎌倉ダンジョンの最下層を攻略することに成功したとカメラに言おうとしたら、朝川さんが残っている骸骨の手足と胴体に向かって、数十回の爆発魔法を浴びせていた。

 流石のオーバーキルに俺はなにも言えなかった。

 師匠だからってこれも俺のせいにされるってマジですか? 今のは流石に俺じゃなくて朝川さんが悪くないか? なぁ、なんとかして俺を擁護してくれよ。

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