第159話
「えい」
探索者としてなにかを掴んだ朝川さんは、簡単な掛け声と共に数十の魔法を同時に展開する。しかも、一つ一つの威力も今までとは桁違いで、できないと自分で言っていた大量の魔法を同時に圧縮する方法も身につけていた。
具体的に朝川さんの中で何が切り替わったのか、俺にはさっぱり理解できないが……なにかしらのリミッターが外れたと考えるべきだろうか。
『……目が開いているんですね』
「目が?」
『はい。魔力の乱反射に対して私は閉じろと言ったはずなのですが……限界を超えて開いてしまい、戻らなくなったんでしょう』
それって……やばいんじゃないの?
『ですが、言い換えればそれは今までなら見えなかったものまで見えていると言うこと。彼女が乱反射する魔力をどう見ているのかはわかりませんが……魔力を視ると言うことに関してだけで言えば、私ですら遠く及ばない次元に行ってしまったのかと』
へぇ……やばいね。
具体的になにがどうなっているのかわからないけど、多分朝川さんは魔力の本質……ようなものに触れたんじゃないかな。やっぱり人間、極限状態になるとなんでもできるようになるもんだ。
:アサガオちゃんが名実ともに怪物になった
:覚醒ってリアルにもあるんだなって
:漫画かよ
:アサガオちゃん、これはもう近いうちにEXになるのでは?
:まだEXほどの凄まじさは見えてこないけどね
:そうか? 充分イカレてるだろ
こちらに向かって突っ込んでくる数十のモンスターの群れを前にしても、朝川さんは大して気にした様子もなく腕を振るった。キラキラと光って見えるような粒子をばら撒いたと思ったら、その粒子が数秒後に爆発した。
「……人間兵器かな?」
アニメでもみないような連続爆撃にちょっと驚いちゃった。でも、それ以上に凄いなと思うのは……さっきからあの規模の魔法をバンバン使っているのに一切魔力切れを起こしていないこと。以前から魔力を視認できる朝川さんは、魔法に対する魔力のロスが少ないとは思っていたけど……今はもはや消費しているのかも怪しいレベルだ。
「すっごく気分がいい……司君も一緒に楽しもうよ!」
「EXになったらダンジョン内で楽しくならないといけないって縛りでもあるんですかね? 人のことを言えない立場なのは理解してますけど、ちょっと怖いです」
「えぇ? でも、ようやく司君と同じ景色が見れている気がするの」
なんか、前から言ってたな。気持ちを打ち明けるのは俺と同じ場所に立ってからにしたいって。だとしてもだよ? まさかその時期がここまで速いとは思っていなかった訳で。
朝川さんの覚醒もあって、70階層から先に進んでも攻略するスピードは一切落ちることがない。広範囲の魔法を大量に展開できる今の朝川さんにとって、障害物もなく見晴らしもいいこの鎌倉ダンジョンは、相性がいいとかそういうレベルじゃない。もはや朝川さんが覚醒した時のために存在しているのかと思うようなダンジョンだ。
「司君は、私に弱いままでいて欲しかった?」
「まさか」
そんなこと思うはずがない。ただ……今のイキイキとしながらもどこか自分の万能感に酔ってしまっている状態は、ちょっと気がかりだ。それに、俺から見て一切の課題が消えた訳でもないので……まだまだ朝川さんは朝川さんだ。
:イチャイチャすんな
:はい炎上
:【¥10,000】炎上するぞ
:【¥4,000】録画した
:これはもう如月君アンチスレに書き込んでおかないといけませんね
:草
:【¥5,000】
:アサガオちゃんと如月君のカップリングこそが至高なんだよなぁ
:は? 如月君はカナコンちゃんとなんだが?
:はい宗教戦争
:宗教なのか(困惑)
「は? 如月君は私とカップリングなんだけど?」
:入ってくるな
:おいおい
:本 人 参 戦
:生モノCP妄想に本人が入ってくるとかいう地獄
いや、別に俺はなんとも言わないけど……宮本さんや朝川さんに迷惑かけない範囲でやってくださいね?
『如月司×貴人は?』
「ないよ」
:ないです
:【¥1,000】
:ちょっと式神と主人の恋愛は……インモラルで興奮しますねぇ!
:興奮すんな
:如月君が自分で創った肉体と恋愛を!?
:お前はブラフマーか
:いやいや、ブラフマーとか言われてもわからんて
:【¥50,000】インド神話の創造神ブラフマーは、自らが作った最高の女であるサラスヴァティが綺麗すぎて、ストーカーもびっくりな方法で追い詰めて結婚したんだぞ
:光源氏もびっくりだな
:いや知らん知らん
:五万払ってまで言うことがそれか?
朝川さんと貴人がコメント欄を巻き込んでくだらないことを言っている間に、俺は次の階層への階段を発見した。70階層から……13個降りて来たから次が84階層かな?
普通に階段を降りようと足を踏み出したら、階段の奥から異様な気配を感じた。俺のはあくまで直感でしかないけど、魔力を視認できる2人にはなにかが見えたのか、さっきまでの元気な声は鳴りを潜め……不愉快そうに顔を顰めていた。
「ドロドロして気持ち悪い魔力……なんか、マジで無理」
『怨念、いえ……そんな高尚なものではないですね。これはもっと低俗でくだらない人の業』
いや、怨念は高尚じゃないだろって突っ込んだ方がいいやつ?
でも、鎌倉ダンジョンを最下層まで攻略するってタイトルにした訳だし、この階段を降りない訳にはいかないよね。こういう時に先に降りるのが、社長だろう!
:かっこいいぞ社長
:頑張れ社長
:社長いいぞぉ
冷やかしてるだろ。
階段を降り切ると、そこにはさっきまでのなにも変わらない黒い砂漠だけ……2人が感じた不愉快な魔力と、俺が感じ取った異様な気配は何処から? そんなことを考えながら砂漠を見渡していたら……遠くにボロボロのマントを着た人影が見えた。
「司君っ!」
瞬きした瞬間に、人影が忽然と姿を消した。同時に朝川さんが俺に警告の言葉を発し、それよりもワンテンポ早く俺と件の人影が振るった刃がぶつかった。
「速い、んじゃなくてワープしたのか?」
ただ速いだけなら、俺が見逃すはずがない。なにせ、目の前に出てきた瞬間に俺の命を刈り取ろうと振り抜かれた刃の軌道を、俺は完全に目で追っていたからだ。
俺が相手の動きを見失ったってことは……それが単純な移動ではないということだろう。まぁ、ワープを使うモンスターを見たことが無いって訳じゃないからな。
ボロボロのマントの中から顔を出したのは、白くてボロボロの……骸骨。目の空洞部分は不自然なほど暗く、赤色だけが鈍く光っている。ファンタジーものの小説とかゲームでよくみる骸骨だな。
「流石に強そうだな……ちょっと楽しくなってきた」
:お前も楽しくなってんじゃねーか
:やっぱり同類だよ君たち
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