第157話
既に鎌倉ダンジョンの深層まで来ている訳だが、本格的に朝川さんが動けなくなる前になんとかしようと貴人を召喚し、どうにか魔力を視認する目について色々と教えてやって欲しいと思っていたんだが……忘れていたことが一つ。
『だーかーらー、自分の中にある魔力を視ようとする部分と、光を見ようとする部分を分けるんですよ! どうしてこれがわからないんですか!?』
「わかる訳ないじゃん! そんな感覚的なこと言われても!」
『はー、これだから野蛮な女は……是非とも、如月司という尊いお方から離れてくださいませんか?』
「ムカつくなぁ……式神の癖に!」
この2人、犬猿の仲みたいなもんだったわ。
:どっちが悪いの?
:如月君判定頼む
「……2:8で貴人が悪いんじゃないですかね? 先に煽ってるのも貴人だし、感覚的なことしか言ってないのも事実なので」
:草
:貴人の負けw
:【¥500】
:頑張れアサガオちゃん
:【¥40,000】犬と猿の罵りあいってこんな感じなんだなって
:いやぁ……女の戦いは凄まじいですね
:キャットファイト
:あの2人が戦ったらキャットファイトじゃないんですけどね
え、あの2人が本気で戦ったら……大怪獣バトルでは?
2人がギャーギャーやっている間に、こちらに向かって走ってくる大きなトカゲの腹を蹴り上げて風の魔法でバラバラに斬り刻む。地面に放ったら反射するかなーと思って上に向かって魔法を放ってるんだけど、魔力を反射ってどれくらいなんだろうって思う。100%ってことはないだろうし……どうなんだろう。
そろそろ70階層が見えてきたってぐらいの場所、具体的に言うと68階層まで来たんだが……どうやら未だに朝川さんと貴人の話は終わっていないらしい。
『見過ぎなんです! 普通の人間は虹彩を調整して光の量を調節しているでしょう? 貴女は魔力に対してだけ開いたまんまなんですよ! それを閉めろと言っているんです!』
「こ、虹彩の動きなんて自分で制御してないよ!」
ふむ……虹彩が伸び縮みするのは瞳の中に光が過剰に入ってこないようにするためだ。明るい所では虹彩を縮めて光の量を制限し、逆に暗い場所では虹彩を広げてより多くの光を得ようとする。それは人間が意図して動かしている訳じゃなくて、元々身体に備わった機能な訳だ。
貴人の言い分が正しいのならば、人間には虹彩のように魔力を視認する際に開いたり閉じたりするようなものが存在すると。それを調節することができれば、誰でも魔力を視認できたりするのだろうか。それとも、特別に備わっている人間には開けたり閉じたりできるってだけなんだろうか。
「はぁ……眠くなってきた」
:おい
:なんでだよ
:おかしいだろ
:ダンジョン攻略配信中に眠くなってくる男、如月司
:しれっと深層で眠くなってくるとかいう謎の言葉
:深層のことなんだと思ってる
:金が稼げる場所
そんなこと言われても、襲ってくるモンスターは正直滅茶苦茶強い訳でもなく、周囲が砂漠で遮るものがないから死角からの攻撃ってのも殆どない。おまけに背後からはBGMとなる喧騒が聞こえてくる訳だから……ちょっと眠くなってくるのもわかるだろ。
なんて考えていたら、俺の前に広がる黒砂の砂漠に大量の足跡が現れた。ダンジョンだから地下ではあるが、このダンジョン内にも結構な風が吹いている。つまり……砂漠の足跡は結構簡単に消えてしまうと言うことだ。ならば大量の足跡はどこに消えたのか。
「下か?」
真っ先に考え付くのはまずモンスターが近くまできていた地面の下に潜った説。ただし、これは痕跡を残さずに砂の中に潜る必要がある。つまり……残る可能性はそもそも足跡を残したモンスターが、視認できていないということ。
「司君!」
朝川さんがなにかを叫ぶ前に、俺の目の前に新しい足跡が作り出された。ので、直感だけで腕を伸ばして敵の腕を掴んだ。
「……迷彩?」
:お?
:え?
:どういうこと?
:わからん
直感だけで掴んだ部分が空間に浮かび上がるようにして景色の中に出てきた。つまり……正体もわからないモンスターみたいなこの連中は、迷彩を纏っていると。
「私にははっきり見えるよ!」
『小鬼風情が……潰す』
俺が不思議な感覚に首を傾げている間に、朝川さんと貴人が同じタイミングで飛び出し、同じタイミングで魔法を放ち……俺の目の前に合った砂丘を消し飛ばした。
「……魔力が一定以上の密度だとどうやら黒砂でも反射しないようですね! だから今の攻撃はどっちも砂丘に当たったのに砂丘の方が弾け飛んだと」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 周りに透明になってるゴブリン、みたいな奴がいっぱいいる!」
:透明の敵八王子ダンジョンにもいなかった?
:それとはまた別でしょ
:迷彩って言ってたから、ただ透明になってるゴブリンってだけでしょ
:どっちにしろクソ厄介では?
:下の足跡だけでなんとか判別……無理だな
:足跡多すぎないか?
あぁ……なんとなく敵は小さいのかなって思ってたけど、迷彩を纏ったゴブリンなのか。そりゃあ気が付かないわな。
透明であることがわかれば対処方法はあるんだけど……砂漠に残る足跡は滅茶苦茶多くなっているから、正確にどこにゴブリンがいるのかはわからん。
「貴人、目を貸してくれないか?」
『貴方様が望むなら、喜んで差し出しましょう』
おい、なんかその言い方だと貴人の目をくり抜いて渡されるみたいじゃん。俺はただ、貴人が見えている景色を一瞬だけ共有して欲しかったんだけどな。
少し集中する必要はあるが……なんとか貴人の視界を共有して魔力を視認する。
「……確かに気持ち悪いわ」
魔力が視認できる状態にいざ自分がなってみると、夜道を歩いている時にハイビームの車がやってきた時みたいな視界になる。説明がわかりにくいかもしれないけど……とにかく眩しくてまともに判断できない。ただ、理由はわかった。
「これ、上の魔力水晶からの魔力が乱反射してるんですね……つまり、マジで全面ガラスの世界みたいな?」
「そうなの! わかってくれるでしょ?」
でも車酔いみたいになるのはわからんわ。目が痛くなるだろうなとは思うけど……酔うってのはかなり独特な表現だと思うぞ?
「来るよ!」
しょうがない……ちょくちょく貴人の視界を共有してもらって、迷彩ゴブリンを倒していくか。
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