第143話
まずは簡単に渋谷ダンジョンのネタ集めにやってきたんだが……よくよく考えると渋谷ダンジョンって階層ごとに環境がバラバラで纏めにくいんだよな……そもそも最下層まで攻略されてないし。なので、一先ずは下層までを纏めて紹介しようかなと思う。その為に、カメラを使ってモンスターを録画したり環境を色々と写真撮ったりと活動することが結構ある。
下層までとは言ったけど、最上層と上層は出入りしている人が多いので最低限でいいだろう。出現するモンスターや、ダンジョンの構造を記した地図を用意しておけば全て片付く。あまり知られていない中層からが重要だろう。地形の特徴、出てくるモンスターの細かい解説、準備しておいた方がいいこと、攻略する上での心構え。渋谷ダンジョンを攻略するなら必要になるありとあらゆる情報を載せていく。そうすることで……初めてダンジョンを紹介したことになると思う。
「地図っと……渋谷ダンジョンの地図なんて簡単に手に入ると思うけど、載せておいた方がいいですよね。実際にどこでモンスターと出会ったとか、後は……どこにギミックがあるとか」
:ギミックとかあんの?
:渋谷ダンジョンってそんな複雑だっけ
:如月君が勝手に言ってるだけだろ
暇だったので資料集めをしている様子は月額料金を支払っている会員限定で配信している。どんな動画が出来上がるのかはまだ未定だけど、月額払ってる人は作業を見ることができる……みたいな。なので、今日のコメント欄は比較的大人しくなっている。まぁ、同時に宮本さんと堂林さんが配信しているから、そもそもの視聴者数が少ないってのも理由にあるだろうけど。
地図を見ながら本当に地図通りの道があるのかを確認していたら、急に草陰から犬が飛び出してきた。が、俺が何かする前に周囲を飛び回っていた烏天狗が速攻で叩き潰した。まぁ……所詮は中層よ。
「食虫植物みたいなモンスターもいますけど、あれって本当なら動くだけで莫大なカロリーを消費すると思うんですけど……なんでモンスターだと動き回ってるんですかね」
:食虫植物って言うか、ただの植物型モンスターでは?
:動き回っているなら食虫植物じゃないだろ
:いや、見た目はハエトリグサみたいな姿してるからな
:食虫植物ってのはその場で待って捕まえるものじゃないの?
「そういう定義とかは知らないですけど、はっきり言って意味不明ですよね」
植物の癖にドスドスと歩き回りながら蔓を伸ばして襲い掛かってくるあのモンスター、植物なのかすら怪しいレベル。いや、モンスターだけど。
今度はバッタが襲い掛かってきたので燃やす。中層なんて適当に魔法を放っておけば倒せるぐらいのレベルだから、資料集めも楽でいいな。
「……なにしてんの、社長」
「ん? あれ、パンダがいる。新種のモンスターかな?」
「いや、がっつり顔見てから言ったよね?」
:新種のモンスターじゃん
:捕まえろ
:中国に返還しとけ
:あっちのコメント欄で、中層に魔王がいるって言われてるぞ
:クソゲーじゃん
:中盤にラスボスが出てくるRPG
:ラストボスなのに中盤なのか……
おーおー、向こう側のコメント欄も盛り上がってるみたいだな。けど、こっちは月額限定配信してるから、あんまり人が流れて込んでくることはないだろうな。そもそも、俺が月額限定配信するの実は初めてだしな。
「え、社長限定配信してんの?」
「そうですよ。動画の為に資料集め中です」
喋っている途中に数匹のモンスターが迫ってきたので、大百足で丸ごと引き潰した。足が沢山ある生物が苦手な堂林さんが、その百足を見て顔を引き攣らせているいる。
:百足嫌いすぎか?
:でも大百足は怖いだろ
:ただの百足ですら怖いのにな
:実際、こんなのダンジョン内で見かけたらちびりながら逃げるわ
いや、俺も大百足に関しては割と自分で生み出しながら気持ち悪いなぁとか思ってたけど、図体による引き潰し攻撃の性能が高かったから、愛用してたら慣れた。生き物系動画投稿者とかいるけど、ああいう人たちが平然と虫を触ってるでしょ? あれと一緒。
「……なんの動画かは聞かないけど、こんな中層でそんな式神ばっかり召喚してんの?」
「階層関係あります?」
堂林さんが見上げた空では、烏天狗が複数匹の鳥系モンスターを八つ裂きにしていた。
そもそも渋谷ダンジョンの中層はモンスターが結構湧く場所なんだから、こうして喋っている間にモンスターが襲ってくるのは普通のことだ。そのモンスターを俺が式神で対処しているだけで……いや、普通の探索者から見たら異常なことは認めるよ?
:もっと言ってやれパンダ
:地図流し見しながら適当にダンジョン攻略してる奴にもっと言え
:資料集めだからだらだらと、とか言いながらモンスター蹂躙してるからなこいつ
:動画投稿の為に何匹のモンスターが引き潰されたか
:やはりパンダは常識人か
「堂々さんはこれから下層ですか?」
「おう……」
「頑張ってくださいね。怪我しても事務所寄ってくれれば治すんで」
「おかしいよね、なんか」
:うん
:せやな
:安心しろ、今に始まったことじゃない
なんか納得しないって感じで首を傾げながら、堂林さんが下の階層に繋がる階段に向かって歩いて行った。実際、病院行って色々と処置してもらうより俺に治してもらった方が早いんだから事実でしょ。
「さ、資料集めですね」
大体中層に関する情報は集め終わった。後はワイバーンに関してだけなんだけど……こういう時に限ってあんまり出会えないのが嫌いだ。
:物欲センサー
:ワイバーンを求めて歩いてるダンジョン探索者って結構いるよな
:まぁ、下層には行けないけど中層で稼いでるってパーティーは探してるんじゃない?
:本当か?
:いや、パーティーでもワイバーン倒せるなら下層行けよ
それは俺も同意する。下層にはなにがあるかわからないから怖いって意見はわかるんだけど……ワイバーンを問題なく狩れる実力があるなら、全然下層でも戦えると思うけどな。まぁ、確かに対処が面倒なモンスターとかも中にはいるけどね。
それこそ、朝川さんみたいに運悪くフロストワイバーンと出会ったとか。でも、フロストワイバーンなんて探し求めても見つからないようなモンスターだから、常識なら考慮にも値しないような危険だ。ダンジョンでは命を大事にって言うけど……冒険もできないのに金を稼ごうなんて無理な話さ。まぁ……命があるのは前提だけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます