第142話
雨だ。6月に入って梅雨の時期になってから、2日ぐらい続けて雨が降ったと思ったら次の日は晴れる訳でもなく曇りのままぐずぐずとする、みたいな天気が続いている。
ダンジョンに潜っている人間にとって地上の天気なんて殆ど関係ないけど、洗濯物が干せないってのは中々のストレスだと思う……クリーニングで済ませてしまうか。
ダンジョン配信の方はかなり上手くいっている……どころか、上手くいきすぎて困惑しているぐらいだ。確かに、ダンジョン配信を中心とした企業なんて他にないから、独占状態で上手くいくってのはなんとなくわかるんだけど……まさかここまで伸びるとは思ってもいなかった。
富山ダンジョンの下層まで行ったみんな何かしらの成果を得たのか、宮本さんだけではなく全員の動きが変わったのは確認済みだ。5月から単独での配信が多くなったが、全員が当然のように下層に潜って配信していた。なんなら、朝川さんは渋谷ダンジョンの61階層でちまちまと毎日頑張っている姿も見られる。よほどあの巨鳥を倒せなかったことが悔しかったと思われる。
そんな中で俺だが……ちょっとプロの人に教えを受けながら動画編集をしてダンジョン内の様子を短く纏めた動画を出している。視聴者の反応は上々と言った所で、他にやっている人が少ないジャンルではあるが俺としてはかなり楽しいことをしている。
「社長、コラボ依頼が幾つか来てますが」
「あー……各自判断に任せます。コラボが決まった時にまた教えてください」
「はーい……いや、社長にも来てるんですけどね」
「各自判断で」
企業として有名になってくると、こうして色々なコラボ依頼が個人企業問わず結構来る。まぁ、そこら辺は特に制限なんて設けてないから、個々の判断に任せてコラボして貰えればいいんだが……なんで俺に来るのが一番多いのかな。
この企業内で探索者としての実力は確かに俺が一番だけど、配信内容に一番花がないのも俺だと思う。だって俺の場合は単純にモンスター倒して先に進むだけの配信が多すぎるから。
堂林さん、宮本さん、朝川さんは元から配信をしていたからなのか、色々な企画とかをマネージャーと考えながらやっている。堂林さんなんてこの前、視聴者参加型ダンジョン攻略とか言う謎の企画してたからな。なんだよ視聴者参加型って。
「社長は企画配信みたいなことなさらないんですか?」
「企画配信ねぇ……オフ会とか?」
「深層で? 無理ですよ」
「俺のことどう思っているのかは伝わってきました」
なんでもかんでも深層で考えている人間だと思ってるだろ? 流石にオフ会やるんだったら上層でやるわ。
とは言っても、オフ会配信なんてしたってなにかすることがある訳でもないしなぁ……なんも思いつかないな。
「単独で配信するなら、ちょっと海外行ってみたとか」
「スケールが違う」
「日本ダンジョン巡りとか」
「やっぱりスケールが違う」
まぁ、冗談抜きでそろそろ海外のダンジョンでも配信しようかなとは思ってる。俺の場合は元々海外からの視聴者も多いから。最近は配信者らしいコラボ配信みたいなことばかりしているから見かける回数は少なくなったけど、以前は深層に潜ってモンスターと戦っているだけで様々な言語がコメント欄で飛び交っていたからな。今でも、アーカイブのコメント欄には色んな言語飛び交ってるけど。
特に人気なのは、やはり名古屋ダンジョンを攻略した時のアーカイブかな。あれは世界的なニュースになったこともあって、あのアーカイブだけ再生回数が10倍くらいある。
「んー……有名な所で言うと、ドバイとか攻略すると面白いかもしれませんよ」
「あの……そもそも海外のダンジョンでどこが有名とかあんまりわからないんですけど」
「え」
嘘でしょ? みんな海外のダンジョンってここにあるんだーとか考えないの? 俺は子供の頃から世界中のダンジョン分布が載ってるような本ばかりクラスの端っこで読んでたけど。
でも、確かに日本国内のダンジョンですらまともに知らない人って結構いるよな……掲示板とかSNSとかでも、俺の配信で初めてそんなところにダンジョンあるの知ったとか、ダンジョンあるのは知ってたけど中身は知らなかったとか色々とあるから。
「…………まずは簡単なダンジョン紹介動画でも作りますかね」
「それ、多分社長がやるべきことではないと思います」
そうかな? そうかも……マネージャーさんの言う通り、俺がやるべきことではないかもしれない。
「じゃあやっぱり企業用のチャンネルでも作って」
「そんなにやりたいんだったら私たちが作って社長のアカウントで投稿した方がいいかと。資料さえ持って来てくれれば我々で作れますから」
先回りされた。
でも、そういうダンジョン紹介用の動画とか作ってみるのもありだな。やっぱり色んなダンジョンのこととか知って欲しいし、そういうのって中々ないと思うんだ。
「ちなみに、サイトに上がっているダンジョン紹介の動画は基本的にエアプ扱いされるようですね。まぁ、知識がネットで調べれば出てくるような中身の薄いものが多いらしいですから」
「……そんなに興味ないんだ、みんな」
「興味がないというよりは、わざわざ足を運んで全ての資料を集めようとしている社長がおかしいだけです」
そっか……余計にダンジョン紹介動画作りたくなってきたな。
「機械音声でいいから動画作って投稿しよう。人手が足りないなら新しく雇うから、いくらでも言ってね」
「はい……それはいいんですが、本当に全部自分の足で資料集めするんですか?」
「大丈夫。お試しの第1回は渋谷ダンジョンにすれば、潜っている5人で充分だから」
それに俺のアーカイブもあるし。
よーし……渋谷ダンジョンの次は何処にしようかな……やっぱり近いから八王子ダンジョン? それとも奇抜な名古屋ダンジョン? 色々と候補が合って迷っちゃうな。
「わかりました。じゃあ資料集めておきますね……社長って本当にそういうの好きですね」
「好き、だね」
昔はそういう知識とかは本で手に入れてたんだけど、やっぱり配信してるなら動画も投稿したいよね。プロに教えて貰って投稿した俺の動画はダンジョン探索に関する話で、ダンジョンそのものに関する話じゃなかったからね。
いやー……新しい趣味が増えて楽しみだな。
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