第138話

:如月君だったらどうやって攻略する?


「……どうって言われても、そもそも頭使って攻略する相手じゃないとしか」


 そもそも俺が対面してたらそんなに苦戦する相手じゃないし、どうやって攻略するもなにも、中層探索者が最上層のゴブリンをどうやれば攻略できるかな、なんて考える訳ないでしょ。


:聞いた俺らが馬鹿だった

:あほ

:こいつ本当にさぁ……


 まぁ、それでも敢えて今のあのパーティーの立場で考えるなら……いくつか案はある。


「堂々さんがなんとか受け止めて、攻撃の隙に蘆谷さんが魔法放てば勝てるんじゃないですか? 硬くても通るまで攻撃すればいいだけですし」

「……もっとシンプルに勝てるよ」


 俺が適当に勝てそうな案を答えたら、横にいた朝川さんがそれを否定……した訳ではないけど、もっと簡単な方法で勝てると言った。


「あのライオン、確かに通常時は物凄い硬い鎧に身を守られているから、一見すると攻防一体の強いモンスターに見えるかもしれないけど……魔力総量の問題なのかしらないけど、高速で移動している時と攻撃する時、鎧を守るための魔力がごっそりと別の場所に移動するから……普通の鎧ぐらいに脆くなってる」

「カウンターってことですか?」

「それが一番有効だと思う」


 へぇ……魔力が視認できるからこその弱点の把握。朝川さんが見つめているだけで、モンスターは弱点を丸裸にされてしまっている訳だ。マジでこの人、攻略本を見ながらゲームしてるみたいだな。


:じゃあカウンターすれば普通に勝てる?

:楽勝だな!

:それが簡単にできないから強いのでは?

:あれだけの速度で動いてる敵にカウンターってのはねぇ

:でも、如月君が言ってたパンダが防御してその間に攻撃すればって言うのは合っている訳だ


 さぁ、どうなるかな。

 右足を抉られてまともに高速移動なんてできなくなった宮本さんから、依然として視線を離そうとしない獅子。それだけ宮本さんを警戒しているのだろうけど、宮本さんと獅子の間には少し手が震えている堂林さんが立っている。


「今の作戦で行くぞ」

「でも、それじゃあパンダが」

「防御力だけで中層探索者になったんだぞ? 舐めんなよ」


 獅子よりも先に堂林さんが動き出した。盾を構えたまま突っ込んでいき、シールドバッシュのように盾を突き出したが、獅子はそれを前脚1本でそれを簡単に止めた。


「ぐぅ!? このっ、野郎っ!」


 堂林さんは全力で押しているのだろうが、膂力では全く敵わずに一歩も進むこともできずにただ踏ん張っているだけにしか見えない。しかし、反対の手に持っていた槍を獅子に突き出したことで状況が一変する。

 繰り出された槍を無視することもなく、もう片方の前脚で弾いた瞬間に堂林さんは魔力を全開にして自分を無理やり押し上げて獅子の顎に向かって盾を思いきりぶつけた。当然だが、あの獅子がシールドバッシュを顎に受けたぐらいで怯むはずもないが……どうやら防御のために魔力を集中するのは本能らしい。


「やった!」


 シールドバッシュと同時に、天王寺さんが放った斬撃はさっきまでの攻防が嘘だったかのように深紅の鎧を貫いて獅子に傷を負わせた。

 調子に乗ってもう一度斬撃を放ったが、今度は簡単に弾かれる。この違いが理解できれば……全然勝機はある。


:おぉー?

:アサガオちゃんの言ってたことあたってた?

:そら当たってるだろ

:魔力が見えるんだからそうだろうな

:美美香ちゃんかわいい

:これなら勝てるな


 しっかりとカウンターを合わせられれば、もしくは一部分に攻撃を集中させた直後に他の部位に攻撃できれば。それほど難しい条件ではないが……問題は獅子が高速で動けるという部分にある。怪我が無ければ、宮本さんが同等の速度で動きながら隙を見て他の3人が攻撃するって手もあっただろうけど、先に怪我を負ってしまっているからな。


「……私が、引き付けます」

「え!? 無茶ですよ!」


 右足を庇いながら立ち上がる宮本さんを、蘆谷さんが慌てながら止めようとしているみたいだけど……多分宮本さんは今の一瞬で獅子が纏う鎧の特性に気が付いたのだろう。ふくらはぎの一部が抉り取られているのによく立ち上がるな……驚異的な精神力だと思う。


「もう一度ぐらいなら、私があれと渡り合えます。だから……その間に首を取ってください」

「で、でも」

「このモンスターは、そうじゃないと勝てませんよ?」


 斧を手にした宮本さんが歩く度に、獅子もじりじりと前に出ようとしている。恐らく……宮本さんは自分が獅子と戦うからその隙に攻撃しろって言っているんだろうな。あの2人が戦うことになれば、どうしてもそれは高速のものになる。そうなれば……獅子の鎧は鎧としての機能を失う。というか、正面からやって勝つにはそれしかないだろう。


:カナコンちゃん大丈夫なのかな

:そろそろやばくないか?

:どうなん?

:これ以上は流石に助けに入るでしょ


 まぁ……次の攻防で倒せないなら助けに入るかな。だって、次の一手で倒せないなら多分一生かかっても倒せないし。


「行きます!」


 宮本さんが残った左足で大きく踏み込む直前に、蘆谷さんが獅子に向かって風の刃を放った。それを真正面で受けている間に、宮本さんが一気に接近して斧を振るう。獅子は余裕を持ってその斧を避けて、再び高速戦闘へと突入していく。

 しかし、傍から見ていても宮本さんの動きは悪い。やはり右足を庇いながらでは無茶がある。このまま続けば間違いなく……宮本さんは獅子の牙か、あるいは爪に切り裂かれて死ぬ。そんな考えを否定するかのように、盾を持った堂林さんが割り込んだ。


「ぐぁっ!?」


 恐らく、目で追うのが精いっぱいだったはずの堂林さんは、タイミングを完璧に考えて飛び込んだのだろうが、すぐさま獅子の突進で盾ごと吹き飛ばされる。しかし、その一瞬の隙を逃すほど宮本さんは甘くない。

 大斧が、獅子の後ろ足を刈り取った。にもかかわらず、獅子も宮本さんも速度を緩めない。


「勝ったな」


 だが、その時点で既に獅子の敗北は決定済み。牙と斧が盛大にぶつかり合った瞬間に、天王寺さんが獅子の背中に跨るように乗りかかり、首に向かって短剣を突き刺して魔力を解放した。


「……数ヵ月前の私が1人で挑んで勝てたかな?」

「難しかったと思いますよ」


 倒れていく獅子を目にして、朝川さんが呟く。正直に言ってしまうと、数ヵ月前の朝川さんでは成す術もなく殺されていたと思う。あのモンスターを殺すのに必要なのは、火力ではなく手数……それも同時並行で出せるものだ。そういう点を考えると……式神を召喚できる俺にとってはこの上なく弱い敵であると言える。

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