第133話

 富山ダンジョンのゴツゴツとした岩場を歩き続けるような足場の悪さは、攻略に影響を及ぼす。平地での戦闘と比べて足場が悪いと言うだけで動きは固くなり、どうしても自分のパフォーマンスを100%発揮することはできない。余計なことに意識を割いてしまえば、それだけ集中力は下がって行く。

 突風、雨、モンスター、足場、全てに気を付けて戦わなければならないのが、富山ダンジョンという場所だ。まぁ、今回は突風をそよ風程度にしか感じないアクセサリーがあるから大分マシだと思うけど。


「あ、小さいけど綺麗な宝石」

「わ、本当に落ちてるんだ……」


:社員が中層で頑張っている姿を撮影しながら、助手と石拾いをしている社長

:石拾いしてるの笑う

:宝石落ちてるのやばいな

:岩と岩の間に転がってるんでしょ

:マジでちっさいな

:でも、よくテレビとかで見る宝石そのものだな


 宝石とかそういうアクセサリー系なんて興味が出たことが無いので、本物の宝石に触れるのは初めてだけど……なんというか、思ったよりもワクワクするな。だからこそ宝石というものはただの石でありながらも、人を惹きつけてやまないのかもしれない。金持ちがジャラジャラつけてるのは印象悪いけど、美人さんが指輪だけでつけてたりするとすっごい綺麗に見えるよね。これがわびさびってやつか。


「本当に綺麗だね……ちょっと光当てて見たいな」

「携帯使えばいいんじゃないですか?」

「そっか」


:宝石鑑賞会してて草

:社員頑張れ……

:その宝石って売ったら普通に金になるの?

:ダンジョン産の宝石であの大きさだったら二束三文だろ

:ダンジョン産の宝石は基本的に安いぞ

:一応、ダンジョン産でも出やすい宝石と出にくい宝石があるんだけどな

:へー、そうなんや

:出にくいって言われるとすごいゲームのドロップ品みたいだな

:似たようなもんだろ

:ちげーよ


「これはトパーズですかね? 宝石鑑定師じゃないからわからないんですけど」

「そもそも宝石の種類とかダイヤモンドとルビー、あとサファイアぐらいしかわからないや」


 一言でトパーズと言っても、色々な種類が存在するんだよね。有名どころで言うとインペリアルトパーズとかあるけど、詳しくは知らないからこれがどんなトパーズなのか、そもそも本当にトパーズなのかもわからないけど……こうやって宝石を拾うのは確かに楽しい。

 ちなみに、昔から宝石には特別な力があると考えられてきたけど……魔力を通したり込めると言う点で考えると、普通のそこら辺の石ころの方が通りは良かったりする。というか、宝石なんて高いものにわざわざ通すぐらいなら、木材にでも通した方がマシである。


「ん?」


 すっかり夢中になって朝川さんと宝石拾いをしていたら、4人が戦っている方から爆発音が聞こえたので視線を向けたら、なんかいつのまにかデカい象のようなモンスターと戦っていた。


「マンモス?」

「象じゃないですか?」


:適当か?

:似たようなもんだろ

:くそデカくない?

:言うほどクソデカくないだろ

:普通の象と比べて1周りでかいぐらいだからそこまで……いや、充分デカいけど

:助けにいかないの?


「別にあれくらいならなんとかなるでしょう……まだ中層ですし」


 多分、渋谷ダンジョンで言う所のワイバーンみたいな立ち位置なんじゃないかな?  中層で最強のモンスターであり、あれを倒せなければまともに下層なんて行ける訳がない……みたいな? 多分、ここではあれを1人で複数体圧倒できればランクが上がるんじゃないかな? 俺はあくまで渋谷ダンジョンの基準しか知らないけど。

 何とかなるとは言ったけど、見ただけでわかる中層最強クラスのモンスターを相手に、4人がどうやって戦うのかは見てみたい。ワイバーンに関しては俺と朝川さんが色々と対策方法を教えたので危なげなく倒せていたけど、あの象は俺もなんも知らん。


「巨大なモンスターって大体質量で押し潰してくるか、身体に見合った魔力量を持っていて大規模な魔法を放ってくるかですよね。深層になるとまた違いますけど」


:違うのかよ

:深層のモンスターは見た目に騙されるなって言うだろ?

:深層なんて誰も知らないが?

:言われてんのみたことないよw

:ワイバーンって中型だから強いみたいな話なかった?

:中型だから速いってのはあるけど、中型だから強いってのはないだろ


 そこら辺は人の戦闘スタイルによるだろうな。ガン盾してる堂林さんみたいな人は、逆に象みたいな一撃が重たい代わりに動きが遅い象みたいな奴の方が得意だと思うけど、天王寺さんみたいなテクニカルな戦い方をする人にとって、高耐久の象は苦手な部類だと思う。

 不安定な岩場を苦にせず、象がその長い鼻を振り回している。もしかして魔法使わないタイプかな、なんて思っていたらおもむろに鼻の先から水流を放った。


「おっと!」


 宮本さんの前に出た堂林さんが盾で水流を受ける。弾かれた水流が周辺の岩に鋭利な物で切り裂いたような痕をつけていることから、生身で当たれば四肢が吹っ飛びそうな切れ味だ。ただ、スカルドラゴンの魔力を吸収すると言う特性をそのまま受け継いだ大盾を持つ堂林さんには有効打になり得ない。


:かっこいいぞパンダ

:やるやん

:女の子を守るタンク役の鑑

:やっぱりダンジョン攻略にはタンク役がいるとめちゃくそ楽だよなぁ……俺もイツメンにタンク役加えてぇ

:タンク役いると攻略めっちゃ楽だぞ

:誰もやりたがらないけどな……死ぬ確率が一番高いポジションでもあるから

:なんでビビりのパンダは死ぬ確率が高いタンクやってるんですか?

:そら、元はソロだからよ


 タンクが死にやすいってのは、まぁ攻撃を最初に受ける人なんだから当然なんだけど……実際にはパーティーメンバーの活躍次第だろうな。タンクが許容できる範囲内でさっさとモンスターを倒してしまえば、別に何の問題も無い訳で。

 蘆谷さんと天王寺さんが中距離から攻撃を放っているが……皮膚が硬いのか大したダメージになっていなさそう。


「長期戦になりそうですね……鍵は、カナコンさんですね」

「……やっぱりカナコンちゃんのこと気に入ってるよね?」

「なんで俺が詰め寄られるんですか?」


:草

:笑い取ってないでちゃんと助けに入る準備ぐらいしとけ

:いや、助けって式神出すだけじゃん

:確かに

:納得するな

:アサガオちゃん、頑張れ

:如月君の様子を伺うアサガオちゃんで草まみれや


 俺は事実に基づいた戦況分析をしたはずなんだけどなぁ。

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