第131話
「うぉぉぉぉ! 雨が目に入る!」
「パンダうるさい!」
:年下の女の子に罵倒されながらタンクをするパンダに涙が止まらない
:いや、実際にうるさいから仕方ない
:草
:パンダ、もうちょっと静かにタンクやれ
:まだ上層なのにいちいち騒ぐな
:しょうがないだろ元々ビビり過ぎて怪我したくないから盾構えて自分の守りを最大まで固めてる奴なんだから、初めていくダンジョンでこうなるのなんて目に見えてた訳で
:それでもまだ上層だぞ?
:もう下層探索者なのに上層でビビり散らかしている男がいるらしい
「堂々さん、視聴者に滅茶苦茶煽られてますよ」
「うるせぇ! 俺はこういうスタイルで今まで生き残ってきたの!」
「うるさいのはパンダの方だよ!」
「ごめんなさい!」
:草
:いや草
:なんで年下の女の子にそんなボロクソ言われてんのに勝てないの?
:パンダ、あまりにも弱すぎる
:立場が弱すぎるパンダで本当に笑えてくるからやめろ
:動物園にいれば食って寝てるだけでチヤホヤされていたものを……
:ガチパンダで草
:このパンダは食って寝てるだけだとただのニート扱いで社会のゴミになるぞ
天王寺さんと堂林さんがお笑いみたいな事やっている間に、淡々と斧を振り回しながらモンスターの首を刈っている宮本さんには、誰もなにも言わない。多分、視聴者もなんとなく触れ辛いんだろう……だって怖いし。
:カナコンちゃんとナイト君は喋ってないね
:ナイト君、カナコンちゃんのフォローで忙しいから
:カナコン……如月君のせいでバーサーカーに
人のせいにするのやめてもらっていいですか? 言っておきますけど、宮本さんは俺が指導する前から上層の敵に対してはいつもあんな感じでしたからね? 俺がなにかしたからああなった訳ではなく、元々モンスターに対してはあんな感じですから。
堂林さんが先頭に立ってモンスターの攻撃を受け止めたら、それに合わせて宮本さんが飛び出していき、それをフォローする形で蘆屋さんが弓を構える。そして撃ち漏らしを、天王寺さんが仕留める。中々に連携が取れた動きだと思う。個々人の戦力で言うと、宮本さんが1人抜けている感じはするけど。
「にしても、さっきから鳥みたいなモンスターしかいないな……槍が当たりにくいんだけど」
「そう? 私は適当にピュっって短剣振れば当たるけど」
「そもそも刃で攻撃してないだろ」
天王寺さんは、スカルドラゴンの武器になったおかげなのか、今まで以上に魔力を飛ばす精度が上がっている。とは言え、俺のアドバイス通り完全に近距離主体の魔力アタッカーとなった訳だ。以前は遠距離から放っていたせいで減衰していた魔力放出の威力も、武器の性能も合わさって格段に強くなっている。
宮本さんは……もう言うことないんじゃないかな? 正直、スカルドラゴンの斧にしてから動きが目に見えて良くなりすぎて……俺から言えることはもうない。
「怪我無いですか?」
「え、えぇ……まぁ」
モンスターの血に濡れた大斧を、片手で振って血を飛ばしながら近づいて来た宮本さんに、天王寺さんと堂林さんが完全に圧されている。まぁ……確かにあの動作をされるとどうしても怖くなってくるけどね。斧が真っ黒だから余計に敵キャラっぽく見えるんだよな。
:カナコンちゃん……立派になって
:どこが? 胸?
:胸は元からだろ
:変態まみれで草
:前は揺れる胸に視線を取られていたけど、今はあの大斧を見ていると男心が……
:玉がキュってなるから、もうカナコンちゃんをそういう目で見れない
:斧が怖いねんな
:これでもまだカナコンちゃんにガチ恋できる猛者がいるのか
:そら、顔しか見てない奴はそうだろ
宮本さんは身体強化しかできないという部分で評価しにくいって所もあると思うんだけど、実力的に言うと深層でも活動できないこともない、ぐらいだ。だから、本来ならばBでもおかしくない。
「順調そうなのでこのまま中層行きますよ」
「は、はい!」
「岸谷さん、そこまで緊張しなくても大丈夫です」
「そうだよ。面倒なのが出ても私が消し飛ばすから!」
:助手強い
:助手発言が怖い
:助手(準最強)が途轍もなくやばい人みたいに見えてきた
:Aは充分やばい奴だよ?
:如月君に騙されるな
:如月君の強さで目を焼かれちゃって、AとかSとかよくわからなくなっちゃった
:おいおい、如月君は責任取れ
「なんの? 今日は殆ど探索者やってないんですから、適当なことを言ったら普通に反応しますからね?」
:マジ?
:今日は如月君とゆっくりお話しできるダンジョン配信だったか
:マジかよ最高じゃねーか
:ちゃんとダンジョン攻略してる部下を映せw
失礼な……映像は映しながらもコメントは俺が勝手に見てるから、ひたすらに雑談できるってだけの話だ。ちゃんと映像は映してるからいいのだ。
「上層でも風強いなーとか思うのに、更に強くなるのか……嫌だな」
「もー、ストールあるんだからいいでしょ? しかもこのストール可愛いし」
心配性の堂林さんと、明らかに楽観的な天王寺さん……中々相性がいいな。蘆屋さんは基本的に自分から発言することは無いけど、天王寺さんが積極的に声をかけて行くし……やっぱり陽キャパワーは凄い。
:パンダ一回ストール外してみて
:草
:風除け外したらどうなるのかな?
:風の影響受けてないんでしょ?
:全く無くなる訳じゃないけどな
「嫌だよ。絶対風強くなるじゃん」
堂林さんはやっぱり配信慣れているだけあって、攻略しながらもコメントを見る余裕があるんだよな。そこら辺は宮本さんも配信慣れしているけど、天王寺さんと蘆屋さんはまだまだって感じ。俺は式神に任せてよくコメント拾ってるけど。
「えい」
「ナイト君てめぇ! うわっ!? 風強いって!?」
:草
:いいぞナイト君
:ナイト君、実はノリがいい
:わかってるなナイト君
:僕らのナイト君
:EX俺たちとは違う、本物の俺たち
おい、誰がEX俺たちだ。絶対俺のことだろそれ。というか、いつの間にか蘆屋さんまで俺たち認定されてるし……いや、確かに蘆屋さんはどちらかと言えば陰キャよりではあると思うけど、配信外での普段の生活見てると余裕のある大人って感じしてるから、絶対に俺たちではない。これだけは断言しておく。
「ストール返してぇ!」
「あははは! キッシーナイスゥー!」
「ど、どうぞ、返します」
「くそ……ナイト君め……かっこよく決めた髪型が崩れたじゃないか」
「え、それ決めてたんですか? てっきり寝癖かと」
「ワックスで決めてきたんだわ!」
そうなのか……髪が普段より逆立ってたから、ホテルの枕で寝癖でもつけて来たのかと思った。
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