第130話

 全員の申請が通り、朝川さんは無事Aに、宮本さん、堂林さん、天王寺さん、蘆屋さんも同時にCへと昇格した。受付をしてくれた信濃さんには物凄いものを見るような目をされてしまったけど、これで当初の目標通り全員が下層で活動できるようになった訳だ。なので、予定通り富山ダンジョンの攻略配信をしようと思う……全員で。


「いらっしゃいませー」

「最高品質の風除けってありますか?」

「最高品質はないですねー……あれはよほど素材の状態がよくないと作れないので……しかし、中層まで問題なく行ける風除けならありますよ?」

「いえ、下層に行く予定なので」

「下層、ですか?」


 え、なんでそんな「下層に行くとか馬鹿じゃねーのこいつ」みたいな目で見られてんの? 俺が以前に深層まで行った時はそこまでモンスターも強いと思わなかったから、普通に攻略できると思うんだけど。


「いらっしゃいませっ!」

「最高品質の風除けってありますか?」

「ないですっ!」


 元気いっぱい言うな。

 その後、更に何店舗から行ってみたが最高品質の風除けを売っている場所はない。その間に、買い物についてきた朝川さんは楽しそうに色んなものを見て、たまに買っていたりしたけど……俺としては地元に置いてあると言っていた神代さんを早くも殴りたくなってきた。


「らっしゃーせー」

「最高品質の風除け、ありますか?」

「おー、ありますよー」

「そうですか……あるんですか?」

「当たり前っすよー、俺が今朝作ったんで」


 作った!? このやる気のなさそうな店員が!?


「最高品質の風除け、6個」

「おー、丁度6個ありますよ。でも全部でこれくらいですけど、大丈夫ですか?」

「カードで」


 18になってから作ったカードで一括払いしておく。


「え、限度額足るの?」

「足りますよ……ギリギリ」


 高校卒業してから作ったばかりだからカードのランクは高くないんだけども、年収が高いからそれなりに限度額は上げて貰っている。それに、最高品質の風除けだって6個買っても精々が200万ぐらいだ。もっと高くてもいいんじゃないかなと思うんだけど、誰も買わないんだから安くして売るしかないよな。


「いやー、普通は作ったも売れないもんなんすけどねー……買ってくれて助かりますよ」

「いえいえ……ちょっと下層まで行く用事があるので」

「下層ですか? 珍しいですね……旅行者さんがそんな深く潜るなんて。探索者カップルですか?」

「そうです!」


 おい。店員はなるほどってなんとなく俺と朝川さんの関係を察したような感じで頷くな。そして朝川さん、本当に俺と探索者カップルだったとしたら6個は買わないだろ……普通は2個だろ。

 一先ず必要なものを手に入れたので、富山ダンジョンの攻略は大丈夫だろう。ちなみに、買い出しに来たのは俺と朝川さんだけで、他のみんなはホテルに宿泊して好き勝手に観光しているはず。朝川さんも観光してればいいのにと思ったけど、俺と一緒に行きたかったらしい。そりゃあ……すいませんでした。


 翌日、土曜日の朝からパーティー申請をして富山ダンジョンに入り、カメラの電源をつける。


「どうも……強風の中おはようございます」


:おは

:開幕台風のニュースみたいになってて草

:富山ダンジョン?

:風強いな

:富山って今日は風強いの?

:それもうダンジョン内だぞ

:富山ダンジョンは最上層からこんな感じだぞ


 横殴り……とまではいかないが、それなりの強風にそれなりに角度がついている雨が降っているダンジョン。富山ダンジョンは、暴風だけではなく常に雨が降っている視界の悪いダンジョンである。風除けのストールによって暴風の影響は受けなくなっても、当然ながら雨は防げないので風邪には注意。


「今日は全員で富山ダンジョンの下層に行きたいと思います。今回の配信以降はそれぞれ個々人での活動がメインになっていきますので……いや、別に最後の複数配信って訳じゃないんですけども」


:個人での配信になるのか

:まぁ、いつまでも全員ではないよな

:如月君って単独配信元々多くないよな

:アサガオちゃんが如月君と配信したがってるぞ


 まぁ、個人での配信を滅茶苦茶多くしていくのか、コラボを中心にやっていくのかは個人とそのマネージャーに任せるけど……今までみたいに俺が連れて行って、みたいなのは無くなると思う。俺の場合は、育成するのが内容みたいな感じだったんだけどね。


「じゃあ、行きますか。ところで富山ダンジョンに来たことある人って……いないですよね?」

「なーい」

「さ、流石にないですね」

「ある訳ないだろ、社長じゃないんだし」


 パンダさぁ……俺のことを何だと思ってるの?


:そもそも富山ダンジョンってなに目的で潜るの?

:そら地元の人が金目的で潜るだろ

:それ以外だよ

:草

:一応、宝石が取れるんじゃなかった?

:ダンジョン産宝石の産出地だぞ

:へー


 俺は全く興味が無いからスルーしてたけど、ちょっと脇道それて階層を探索すると結構な数の宝石が加工品でゴロゴロ転がっているのだとか。神代さんが言っていたので調べて見たら、ダンジョン産宝石の産出量は世界でも屈指なのだとか。とは言え、見た目はキレイでも潜れば大量に出てくるので希少価値は低く、貧乏人の宝石とか言われてるらしいけど……実際に天然産とダンジョン産の見分けは殆どつかないのだとか。それ、貧乏人の宝石って言えるのか?

 なにが原因で暴風が吹き荒れているのか、どこから雨が降ってくるのかもわかっていないダンジョンらしいけど、難易度自体は高くない……と思っている。一般的にはどうなっているのかは知らん。だって、そういうの調べてもわからないし……そもそも複数のダンジョンに行って色々と比較する人の方が変人って扱いだしな。普通は地元のダンジョンに引き籠るのが普通らしい。


「当然と言えば当然ですけど……俺は今回カメラマンなので、戦闘は参加しないです。朝川さんも基本的には参加しないです」

「私は司君の助手役だからね」


:カメラマン(最強)と助手役(準最強)か

:カメラマンが一番強いとか言う罠

:きゃーカメラマンさん素敵

:草

:パンダ、盾が黒色になって槍が白色だから余計にパンダになってきたな


「……パンダのシールでも貼っておくかな」


 それでいいのか、堂林さん。

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