第127話

 SNSでどこのダンジョンを攻略しようかという趣旨のアンケートを置いてあった。選択肢としては、それなりに攻略しやすい沖縄県の那覇ダンジョン、特異性の塊である徳島県の鳴門ダンジョン、すごく平凡だけど実力がはっきり出る岩手県の平泉ダンジョン、そしてモンスターよりも環境の方が厳しい富山県の富山ダンジョン。

 個人的にみんなを連れて行くなら、普通に平泉かなーと思っていたのだが……折角企業用のアカウントも作っておいて、視聴者の意見を聞かないと言うのもつまらないのでアンケートを設置しておいたのだが……なんと最多得票は富山ダンジョン。そんなにあの暴風雨のダンジョンが見たいのかな?


「と言う訳で、一週間後ぐらいにみんなで富山ダンジョン行くことになりました」

「はーい社長質問ありまーす」

「はい、天王寺さん」


 他の全員が目を白黒させている中、持ち前の頭で思考を加速させたのであろう天王寺さんが勢いよく手を挙げてきた。


「富山ダンジョンって具体的にどんなダンジョンで、どんな対策が必要なんですか? モンスターの種類とか詳しく教えて欲しいんですけど」

「はい。えー……モンスターに関しては別段気にするところはありません。渋谷ダンジョンの下層よりも弱いぐらいのモンスターがちょこちょこ出てくるぐらいなものです。で、具体的にどんなダンジョンかと言われると……」


 どうだろう、暴風雨のダンジョンとは一言で表せているかと言われると微妙なんだが……間違っている訳でもないんだよな。


「ダンジョン内を常に暴風雨が吹き荒れているダンジョン、ですかね?」

「え、それって人間が入っていいダンジョンなんですか?」

「あー、名古屋ダンジョンよりは?」

「比べるところがおかしいと思うよ、司君」


 大丈夫だって……地元のダンジョン探索者は結構慣れた感じであのダンジョン潜るらしいから、別にそこまでの問題には……なるな。なんで地元住民はあんなダンジョン平然と潜るんだろうな。

 ちなみに、テレビとかでよく使われる暴風雨は風速20メートル以上のことを言う。最大瞬間風速20メートルと、風速20メートルは全然違うからね?


「暴風雨って言うけど、仮に20メートルだとしたらどんくらいの影響なんだ?」

「知らないです」

「知らないのかよ!」


 堂林さん、俺は別に気象予報士でもないんだから具体的に風速20メートルがどれくらいの大きさの風かなんて知る訳ないだろ。こちとら普通の高卒だぞ?


「風速20メートルは、車が横転するぐらいの風だよ」

「へぇ……天王寺さん、詳しいですね」

「うん……普通にニュースでやってると思うけどね」


 そうかな?

 そうかも。


「とにかく、常に台風の中にいるようなダンジョンです。対策は……別に問題ないと思いますけど」

「はーい社長、普通の人間は風速20メートルの中を対策なしで歩くのは自殺行為だと思いまーす」

「堂林さん、探索者は普通の人間ではないので大丈夫です」

「大丈夫じゃないから言ってるんだけどなー!?」


 ほら、宮本さんと蘆屋さんが苦笑い浮かべてるでしょうが。


「重石をつけて歩くとか!」

「朝川さん、重石だけで車より重くなるつもりですか?」


 何トンの重りを身体に着けて歩く気だよ。


「あの、地元の人はそのダンジョンを日常的に攻略しているんですよね? なら、必ず方法があると思うんですけど……」

「え? あー……なんか、風除けの御守りがあるとかなんとか聞いたことありますね」

「あるじゃん! 対策あるじゃん!」


 こらパンダ、宮本さんが驚いてるでしょうが。

 でも、宮本さんの言う通り地元の人が攻略してるんだからそういうものがあるに決まってるわな。なかったら多分名古屋ダンジョンみたいに放置されてると思うから。


「風除けの御守り……そんな魔力的なものがあるんですね」

「ね、ちょっと楽しみかも」

「ちなみに司君はそんなの知らずにどうやってダンジョン潜ったの?」

「勾陳の結界で無理矢理突破しました」

「解散っ!」


 おいパンダ、お前中国返還するぞ。

 なんかいつものだなみたいな反応されてるけど、勾陳の結界を調整して暴風だけをシャットアウトするの物凄い苦労したんだからな。だって空気全部をシャットアウトしたら息できなくなるし、かといって普段通り自分に害を及ぼすかもしれない魔力攻撃だけをシャットアウトしてたら暴風は防げない。だから、強い風を追加で設定することでなんとか防げたんだから。その代わり、俺自身がその間だけ風の魔法を放てなくなったけど。


「セオリーとかぶっ壊してダンジョン攻略するのやめない? もしかしたら社長が無理矢理突破した名古屋ダンジョンだって水除けの御守りみたいなのがあったかもしれないのに……」

「ありますかね? 誰も突破したことないのに?」

「いや、そうだけども……」


 まぁ、世界中を探したら見つかるかもしれないけどね。そう言えばダンジョン研究者の中には、富山ダンジョンの暴風とか、名古屋ダンジョンの水没、後は海外にある火の海や光が一切ないダンジョンなんかが存在するのは、ダンジョンそのものに攻略順があるからだとか言い出す狂人もいるからな。肯定する根拠もないけど、否定するだけの根拠もないので、説そのものが完全否定はされていないものの、学会でも「非常に馬鹿げたゲーム脳だ」って言われてた。俺もそう思う。


「今、調べたんだけど……風除けの御守りは薄いストールみたいだよ?」


 携帯を軽やかにタップしながら検索してくれた天王寺さんは、全員にその画面を見せた。確かに、画面の中には薄緑色のストールのようなものが映っている。


「これ、フリマサイト?」

「うん。値段はね……ざっくり100万!」

「普通に現地の人に聞いた方がいいね」


 値段を聞いた瞬間に朝川さんがにっこりと笑った。


「いや、普通に神代さんに聞いてみる。あの人、なんか富山ダンジョンお気に入りとか言ってた気がするから」


 あの人のことだからどうせ気分でそうやって言ってただけだと思うが、それでもあの人が一時期富山ダンジョンにハマっていたのは事実なので、多分だけど手に入れ方を知っていると思う。神代さん本人がそんなものを使っているとは思えないけど。だってあの人だし……どうせ自身から風を常に放出して相殺しながらダンジョン攻略してたとか平然と言いそうじゃん。そういういらない方向への信頼はあるからな。

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