第128話

『え? 富山の風除け? 知ってる……よ?』

「なんですか、今の絶妙に頼りない間は」

『いや、そんなこと言われても……ちょっと記憶整理して色々と思い出すから待っててね』

「はぁ……」


 言うと思った。この人のことだから、使わなかったもしくは使ったけど全く覚えてないのどちらかだと思うけど……この反応は多分使ってたけど富山ダンジョンに興味が無くなったので、思い出せなくなったってことだろう。


「そもそもなんで富山ダンジョンに一時期ハマってたんですか? それを教えてくださいよ」

『それはね……あのダンジョン内で宝石が見つかったからだよ! しかも原石じゃなくて、加工品がゴロゴロと! 不思議じゃない? だって宝石を加工するのは人間なのに! 名古屋ダンジョンのレアメタルは原石だったのに!』


 へぇ……そんなことあったんだ。というか、原石じゃない加工された宝石がゴロゴロ転がってるって……それはそれで怖くないか? なんか、超常的な存在を感じざるを得ないというか。


「その宝石を集めたら飽きた、と」

『え、うん。いらなくなったから二束三文で売った』

「……」


 そういう所だと思うんだけどな。宝石って市場価値を色々と気にするから、年に市場へと流される数も制限されているみたいな話を聞いたことがあるんだけど、それを平然と二束三文で市場に流すところがな。


『天然産の宝石とダンジョン産の宝石は別物扱いにされてたよ。そうじゃないと値段安くなっちゃうからって。でも、ダンジョン産と天然産の違いとかないのにね、ウケる』

「ウケないんですが?」


 どこにウケる要素があったのか聞きたいわ。


『で、本題は風除けの御守りだっけ? 今思い出したんだけど、あれ……普通に地元で売ってたよ』

「店で、ってことですか?」

『うん。なんか、品質によって効果が違うとか言ってたかな……とにかく、私はその店にあった一番高いやつ買ったけど、下層までならそこまで高くなくても大丈夫だと思うよ』


 そもそも品質なんてあるのか……ということは、なにかしらのモンスターの素材を加工して作るとかかな? だとしたらその素材によって品質が違うってのも理解できなくはないけど。


『効果が高いと、本当に風を遮断できるよ。安いやつだと突風であることには違いないけど、一応は歩いていられるみたいな』

「高いやつ買いますかね……情報ありがとうございました」

『うん……今度深層行くときは私も一緒に連れてってね、つーくんっ!』

「嫌です」


 神代さんと深層行くと碌なことにならないのでちょっと遠慮させてもらう。行くなら普通に朝川さんと2人で行くか、そのまま1人で行くわ。速攻で断ってなにか言ってくる前に電話を切る。

 さて、手に入れ方はわかったので普通に配信前に現地で買うかな。ないと攻略できないものではあるが、歩いていられない程の突風が吹き荒れているのは中層からなんだよな。正直、中層から先を攻略するのに必須のアイテムがあるダンジョンって時点でクソだと思うけど。


「電話終わった?」

「終わりましたよ」


 後ろで待機していた朝川さんが何故か物凄いニコニコしていた。なんかちょっと怖いんだけど……どうしたんだろうか。


「ふっふっふっふ……ランクAの申請通ったよ!」

「あぁ、なるほど」


 笑った後に決め顔で探索者資格を見せてきた。確かに、ランクの部分に輝かしくAと書かれている……いつも思うけど、なんでAとSは金字で書かれているのに、俺が持っている探索者資格のEX部分は黒色なんだろうか。Eから直接上がったから?


「これで深層行けるから、一緒に配信しようね!」

「渋谷ならいいですよ。あそこなら俺も慣れてますし、見通しが良い場所が多いので比較的安全だと思います」


 まぁ、その代わりにモンスターが強いんだけど……今の朝川さんなら充分に対抗できるだけの力を持っていると思う。宮本さんとかは流石に深層はまだ無理だろうから……本当にしばらくは朝川さんと俺だけだな。


「やった……これで久しぶりに司君と2人きりのダンジョン探索ができる。最近は佳奈さんとか神代さんに遅れを取ってた気がするけど……これで巻き返しができる!」

「……言うほど宮本さんに遅れ取ってるような気もしないんですけど」

「うふふ……司君は黙っててね」


 うぇ……ものすごく怖い含み笑いを向けられてしまった。

 それにしても、こっち方面ってのは……そういうことか? いや、でも……確かに今まで色々と誤魔化してきたけど、朝川さんは特に……分かり易い部分が多いから。

 探索者としての実力には自信があるし、会社の社長としてはこれからどんどん成長していこうって気持ちがあるけど……そっち方面はちょっと自信ない。今まで友達いなかったからってのもあるし、自分がそういう感情を向けられる人間なんて思ってもなかったから。


「お、社長?」

「……経験無さそうだよなぁ」

「なんで人の顔見て溜息吐いたの?」


 堂林さんに相談しても、この人は絶対にそういうことで悩んだ経験無さそうだからな。どちらかと言えば、この人は自分に自信があるし……アタックする側だと思うから。


「堂林さん……社内恋愛ってどう思います?」

「え、今更?」

「なんですかその今更って」

「いや……正直、配信見てた時から気が付いてたって言うか……朝川さんでしょ?」

「…………そうなんですけど」


 ニヤニヤしながら近寄ってくるな、なんか腹立つな。


「いやー……本気で悩んでいるようでなによりだよ。いっそのこと金に物言わせてハーレムでも作ったら?」

「そうなったら堂林さんはお茶汲みさせますかね」

「パワハラだっ!」


 人に適当なこと言っておいて自分だけ権利を主張するんじゃない。今のご時世、そのパワハラが本当かどうかは問題にされず、パワハラだって人が感じたことの方が問題になるんだからな。ただ𠮟っただけなのをパワハラってなったら目も当てられないだろ。


「まぁ冗談はここまでで……社長が良いなら、いいんじゃない? 性格の相性は良さそうだし、元々同級生な訳でしょ?」

「いや、そんな気が合うから適当に付き合ってみるかーみたいな感覚で言われても」

「社長、アニメの見過ぎ。現実の恋愛なんてそんなもんよ? 俺もアニメみたいな劇的な告白なんてしたことないけど、普通に恋人がいたことは何回かあったよ?」


 なん……だとっ!?

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