第122話

 牛鬼がスカルドラゴンと戦っている余波だけで、大量の瓦礫が飛んでくるんだが……これだけなら大した問題は無い。一番面倒なのは、瓦礫と共にマグマが飛んでくるのが鬱陶しい。


「んー……何処の骨が斧に使えるんだろうか」


:そこ気にする?

:骨ってちゃんと全部残るの?

:モンスターって塵になって消えるんじゃないの?

:消える奴と消えない奴がいるんじゃないの? 最下層のボスは消えないんだから、そういうモンスターがいてもおかしくないでしょ

:そうか?

:それは最下層のモンスターだけってならんか?


 実際、世界にある全てのダンジョンで、全てのモンスターを倒した訳じゃないので俺も知らない。けど、スカルドラゴンは資料によると切断した骨は残るらしい……理由は不明。こういうのを解明したら、ダンジョンの事がよく分かるのかも知れないけど、そらは俺の仕事じゃないし。

 でも、切断した骨が残るなら……全身バラバラにしたら全部残るのでは? 滅茶苦茶気なってきたな……バラバラにするか。


「牛鬼!」


 こちらに向かって突進してくるスカルドラゴンを、牛鬼がぶん殴って吹き飛ばす。精々3メートルぐらいの大きさしかない牛鬼が拳だけで、15メートルはありそうなスカルドラゴンをぶっ飛ばす姿はちょっと面白いけど、今はそれを観戦してるだけじゃ駄目だな。


:やっぱり式神術ってド迫力でかっこいいよね

:正直、使える人間が限定されること以外はマジで欠点ないんじゃないかな?

:欠点は術者が弱いと式神も弱いことだろ

:それってかなり使い手限定されませんかね

:元々限定されてる定期

:そもそも使えないからオッケー

:オッケーか?

:使えない術の話されたって誰もわからないだろ


 牛鬼にぶん殴られて吹き飛んだスカルドラゴンは、起き上がろうともがいていたので高速で近寄って思い切り刀を頭に向かって叩きつけてやったが……とんでもなく硬いものを叩いたような音と共に、手が痺れるぐらいの衝撃が返ってきた。


「うぇっ!?」


 しかも、こっちを視認したと同時に今度は口からマグマを吐き出してきやがった。思い切り後ろに飛んでも、追いかけるようにして口からマグマを吐きながら地面を這っている。牛鬼が間に入ってマグマを受けてくれているが、苦悶の声を漏らしていることからも……マジで見かけだけじゃなくてちゃんとマグマらしい。

 と言うか、完全に身体は全部骨で口から先にはなんにもないはずなのに、どうやってマグマ吐いてんだよ。あれか? 魔法でマグマを口の中で生成してから吐いてるとか? その理論が本当だったら俺も真似できるかもしれないぞ、やらないけど。


「ふっ!」


 牛鬼がマグマを受け止めているお陰で、スカルドラゴンの視線が俺から牛鬼に移った。その瞬間に牛鬼の背中から飛び出して、今度は魔力を込めて硬度を上げた刀で前脚を切断するつもりで振り下ろしたんだが……やはり硬い音と共に痺れが腕に伝わってくる。


「くっそ硬いくせに……刀に纏った魔力まで吸っていきましたよあの骨」


:結構苦戦してる?

:苦戦してるっていうか……骨を切断するのに苦労してる感じ

:倒そうと思えばって感じには見えるけどな

:どうやろ

:如月君が腕痛そうにしてるとか結構レアでは?

:やはり如月君は近接職ではない


「身体の全体で魔力を吸収する特性を持ちながら、斬撃もそこまで効いている様子もありませんし……クソモンスターか?」


 マジかよ完全なクソモンスターじゃないか……ナーフしろ。


:魔法に強くても物理には強いぞ

:草

:スカルドラゴン、実は強いな

:深層のレアモンスターだし、強いだろうな

:流石やでスカルドラゴンさん

:スカルドラゴンのファン湧いてないか?


 さて……面倒な相手だが……どうやらさっきの斬撃は全く効いていない訳ではなさそうだ。あくまで効果が薄いだけで……魔力で強化した斬撃を叩きつけた前脚に小さなひびが見える。あれを殴れば、いけるんじゃないか?


「牛鬼、囮頼む」


:囮w

:うーん、肉壁

:そらぁ、自分で召喚した式神なんだから肉壁にぐらいするだろ


 攻略方法は思いついたから、後は実践するだけだ。

 俺の指示に対して特になにか反応を示す訳ではない牛鬼は、雄叫びをあげながらスカルドラゴンの注意を惹きつけて殴り合いを始めた。さっきから見ていて思ったが、スカルドラゴンは攻撃してきた方に反射的に目を向けている。まぁ、分かり易く言うと……馬鹿だ。

 牛鬼が囮になっている間に回り込み、ひびを入れた前脚とは反対の前脚にも魔力を込めた斬撃を叩きつけてひびを入れる。

 スカルドラゴンが斬撃に反応して顔を向けた瞬間に、牛鬼が顔面を殴って再び吹き飛ばした。


「よし、今度は俺が囮になる」


:やっぱり戦い方が割と脳筋

:師匠に似たのでは?

:その師匠、ダンジョンを引きずり回しただけで基礎的な体術しか教えてないですよ

:でも師匠も同じ動きするじゃん

:あれは高速で動いてるから大丈夫なんでしょ


 高速で近づき、頭を蹴ってやればすぐにスカルドラゴンの目はこちらへ向く。その瞬間に、俺が牛鬼に追加で魔力を譲渡することで牛鬼を強化して、上から質量で押し潰させる。天井を蹴って勢いよくスカルドラゴンの背骨へと蹴りを叩きつけた牛鬼により、ひびを入れられていた両方の前脚は砕け、背骨が地面と牛鬼の足に挟まれてバキッと折れた。こうなれば、もう終わりだろう。衝撃が全身に伝わるように粉々になって行き、頭だけが牛鬼の質量から逃げ出すように跳ねる。


「なんで本当に頭だけで動けるんですかね」


 頭だけなので動きは遅かった。俺が上から踏みつけて、切っ先に魔力を集中させて頭へと突き刺すと……多少の魔力は吸収されたが、頭だけになったからなのか全ての魔力を吸収しきることはなく、頭骨に刀が刺さった。

 うーん……シュールな見た目だな。海賊系の映画とかでよく出てきそう。


:頭だけで動くのは草

:頭が本体だったから?

:魔力で動いてるだけだから、多分本体なんてないんじゃない?

:じゃあ魔力を吸収するのは単純に魔力で動いてたからってこと?

:そんなのは知らん

:草

:知らないなら言うな


 刀をぶっ刺した頭は塵になって消え、身体の何処にあったんだよって大きさの魔石を残したけど、牛鬼が下敷きにしている粉々の骨は残っている。まぁ、粉々と言っても流石に15メートル級のモンスターだったのでかなりの大きさで残っている骨も多い。というか、さっきの倒し方は骨を切断した扱いでいいのかな? よくわかんないけど、倒せたからいいか。

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