第123話

 今日は全員が事務所に集まっての配信である。今回はダンジョンに潜る準備段階だからな。


「と言う訳で、じゃん。スカルドラゴンの骨から作られた武器です」


:通販かな?

:お値段なんと?

:数億円!

:お買い得ですね(白目)

:うぉぉぉぉ! 如月君のお陰で市場にスカルドラゴンの素材流れてたぞ! めっちゃ高かったから買えなかったぞ!

:草


 今回、スカルドラゴンの素材を持ち込んで宮本さん用の両手斧、天王寺さん用の短剣、堂林さん用の大盾を用意してもらった。残った素材は全部売っぱらって市場に流したんだけど……素材が貴重過ぎてオークションになるって聞いた時から、視聴者にいた鍛冶師兄貴は買えないだろうなーと思っていた。


「い、いいんですか? こんなものを貰ってしまって……」

「……配信見てたけど、マジで深層のモンスター狩ってきたのかよ。怪物か?」

「わぁ!」


 なんとなく高い武器に怖気づいてしまっている宮本さん、何故か俺のことを怪物呼ばわりしてくる堂林さん、そしてあんまり気にしていない天王寺さん。


「カナコンさん! 私たちの為に作ったものなんですから、使わないと素材がかわいそうですよ! どうせ社長は大して気にしてないんですし!」

「うん。素材持ち込みだったから短剣は4桁万円いかないぐらいで済んだし」

「4桁万円!?」


 あ、堂林さんが卒倒しそうになっている。

 まぁ、素材指定して取りに行かずに買ったら確かに数億円はかかってたかもな……そもそも素材が滅茶苦茶高いし。でも、その素材を現地調達してきたから、後はそれぞれ使いやすい形をオーダーメイドしただけなので、合計でも1億いってない。深層でもバリバリ通用する武器3つをオーダーメイドして1億しないってすごいことだよ?


:あかん、数字がインフレしたネトゲみたいになってる

:草

:なーんだ短剣一つで10Mしないなら安いな(ネトゲ脳)

:これ、社長のポケットマネーってマジ?

:マジ


 ポケットマネーって言うか……スカルドラゴンの素材を売った金だけでお釣りが来るぐらいだぞ。だからそこまで気にしなくていいんだけど……まぁ、中層探索者の宮本さんと堂林さんには途方もない額に聞こえるんだろうな。逆に、俺としては今まで上層素材の武器だけで中層を戦っていた宮本さんが異常なだけだと思うけど。


「わぁ……いいね」

「いいね、で済ませるんですか?」


:ナイト君ナイスツッコミ

:アサガオちゃん……

:アサガオちゃんもちょっともう狂ってるな

:EXって全員金銭感覚がこんな感じなのかなって思うとやばいな

:如月君はダンジョンに関することだけだから大丈夫だって

:それ大丈夫じゃない


 ダンジョンってのは深く潜れば潜るほど、儲かる代わりに出費も嵩むのだ。まぁ、出費より遥かに稼げるからみんなやってる訳だけど。

 ちなみに、コメント欄でナイト君呼びされているのは蘆屋さん。岸谷堂満と言う名前なんだが、きしという部分だけで騎士ナイト呼びされているらしい。なんか……こういう渾名がつくの面白いな。凛々からパンダみたいな。


「で、そろそろ2人にはDランクになって欲しいんですよ」

「この間、Eにしたばっかりだよね?」

「いつまでも上層に留まってる訳ないじゃないですか。あ、アサガオさんとカナコンさんはまだしばらく自由時間と言うことで……まぁ、個人的にはパーティーを組んでカナコンさんに下層を体験してもらいたいんですけど」

「おっけー!」

「え、もうですか?」


 うん、朝川さんは相も変わらず元気な返事。当の本人である宮本さんはまさか自分が今すぐ下層に行けなんて言われると思っていなかったみたいだけど、自己強化だけなら余裕で下層でも通用するので、後は武器に魔力を馴染ませるだけだと思う。実力的には既に下層帯だ。

 朝川さんははいつの間にか自分で新調していた槍を片手に、宮本さんと喋り始めた。となると、こっちはさっさと行って協会に実力でも示すのが早い。


「目標はワイバーンの首を刈ることですね」

「え」


 当然、俺はついて行っても手を出せない。だって俺が手を出したら2人はいつまで経っても昇級できないから。なので、蘆屋さんと天王寺さんには堂林さんの引率でワイバーンを狩ってもらいたい。


「カメラは高性能なものを買っておいたので、堂々さん……引率頑張ってください」

「嘘でしょ?」


 大丈夫だって。仮にワイバーンと戦うのがきつかったとしても、何体か倒せれば今度は堂林さんのランクがDからCに上がる。そうなれば堂林さんも下層探索ができるようになるし、それに追従して2人のランクもCにしてしまえば全員で下層に行ける。そうなったら……本格的に引きずり回せるというものだ。


:草

:頑張れ

:パンダ、急にワイバーン狩りの引率を任される

:なお、パンダはワイバーンを狩ったことが無い模様

:そうなの?

:中層探索者ってワイバーン狩ってるもんだと思ってた

:深刻な中層探索者への風評被害が見えますね

:お前ら中層探索者の基準アサガオになってないか?

:そいつ中層探索者ちゃう、下層探索者や


 平気だって。俺の戦力分析能力を信じて欲しいものだ。今の3人ならワイバーンの2体ぐらいは一捻りだって。まぁ、同時に3体出てきたら確かにきついかもしれないけど……そんな時には逃げればいいのだ。ただし、もし蘆屋さんが式神術……影法師を十全に使えるなら、ワイバーンなんて5体いても勝てる……と思う! 影法師の最大値なんて知らないから適当だけど!


「あ、それはそうとアサガオさんはちゃんと昇級してくださいね」

「……手続き面倒くさいよー」

「本人じゃないとできないですから、事務員さんに手伝ってもらうとかできませんから。今の貴方ならAランクにもなれると思いますから、さっさと手続きしてください」


 役所行って何回も名前と住所書くのは確かに面倒だろうけど、ちゃんとやらないといつまで経ってもCランクのままだからね。ランクが上がれば減税される量も増えるんだからいいじゃないかと思うんだけど、朝川さんって割と金の為に潜ってないからなぁ……どうしようか。

 うーん……あ、そうだ。


「ランクがAになったら一緒に深層行けますから。まだ2人きりですけど」

「今すぐ申請してくる! 司君と深層2人なんだよね!?」


 えぇ……簡単すぎないか?

 そんなに深層行きたいの?

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