第120話
魔力をよく通す素材として代表的なものは、木材である。元々が植物という生物区分に位置するからなのか、木材は人間の身体と同様によく魔力を通すことができる。魔力の循環が上手い人間が使うと、下手な鉄製の刀剣より木刀の方が切れ味が良くなったりするぐらいだ。同様に、生物由来の骨素材も木材には少し劣るが魔力を通す素材としてとても重宝される。木材よりも数を用意するのが面倒という欠点はあるが、加工することで骨製の武器として扱いやすいことは歴史が証明している。
ということで、俺は深層のモンスターの骨が欲しい。具体的に言うと、大斧として使用できるぐらいの大きさの骨が。当然、渡す相手は宮本さんだ。
「で、骨を素材として残すモンスターって考えた時に……最初に頭に浮かんだのが、スカルドラゴンだった訳ですね」
:知らんが?
:なんでそこで深層行くのかなぁ……
:また社長が気軽に深層で単独配信してる
:何言ってんだ、深層の単独配信は久しぶりだろ
:名古屋ダンジョン以来だから……数ヵ月ぶりか?
:せやね
:いや、そもそも深層を単独で配信してるほうがおかしいんだって気が付け
:草生える
:最近は新人育成ばかりしてるから忘れてたけど、こいつ頭EXだったわ
スカルドラゴンはそのまんま骨の竜なんだけども、熊本県阿蘇山の麓に存在する阿蘇ダンジョンのマグマの中に存在するモンスターである。宮本さんにとっては、これから長い間使い続けることになるかもしれない大切な武器なので、わざわざ九州まで赴いて来たのだ。
「阿蘇ダンジョンって影薄いんですよね。みなさんも全然知らないんじゃないですか?」
:は? 地元だから知ってるが?
:知らん
:阿蘇山は知ってるけど阿蘇ダンジョンは知らん
:そもそも九州って何処にダンジョンあるの?
:沖縄、熊本、福岡、鹿児島
:阿蘇ダンジョンって深層あったんだ
:そらあるだろ
:ないダンジョンもあるんだよなぁ
阿蘇ダンジョンの影が薄い理由は単純に、旨味があんまりないから。具体的に言うと、阿蘇ダンジョンの内部には骨系のモンスターや、高温に適応したようなモンスターが多いのだが……まぁ、面倒なだけで魔石は大きくない。しかもモンスターの湧き数もそこまで多くなくて、八王子ダンジョンよりはマシだけど、金を稼ごうとすると割と効率が悪いと言わざるを得ないダンジョンだ。しかも、近場にはもっと効率がよくて人気も高い福岡ダンジョンがある。そらぁ……影薄いね。
散々阿蘇ダンジョンのことを影が薄いとか言ってるけど、それは一般的な探索者の間での話。阿蘇ダンジョンは、需要のある人間からは宝の山に見える場所でもあったりする。
「鍛冶師からは人気なんですけどねぇ……」
:わかる(鍛冶師感)
:マ? 鍛冶師おるやん
:そら、如月君の配信なんてなにが出てくるかわからない変な配信なんだから見るだろ
:変な配信は草
:阿蘇ダンジョン産の骨素材もっと市場に流してくれよなぁー
:じゃあ福岡ダンジョン産を流してやるよ
:やめてくれよ……福岡ダンジョンの骨素材とか高いだけじゃないか
:阿蘇ダンジョン産の方が高いのでは?
:高くても質がいいんでしょ、知らんけど
「でも、あんまり俺が1人で市場に流し過ぎると怒られるんですよねぇ……やっぱり、希少価値がーって言う人はどこにもいるもんで」
:は? いいからもっと流せ
:鍛冶師兄貴ブチギレで草
:モンスターの骨製武器とか高くて買えないよ
:如月君の刀とか骨製なの?
「これですか? これは普通に鉱石ですよ。だって俺、あんまり刀に興味ないですし」
:あーね
:知ってた
:こいつさぁ……
:もっと気にしろ
気にしろとか言われても、俺は武器を集める趣味もないし……武器を振るうのだってそんなに上手じゃないんだからいいの。最近なんて特に多人数でダンジョン行くことが増えて、後ろからビームぶっぱしてるだけなんだから。前衛はそういう人に任せればいいのだ。会社で言うと、宮本さんと堂林さんが完全な前衛だからね。
:で、さっきから何してるの?
:見て分かれ
:いや、マグマに向かって石投げてるだけにしか見えないんだが?
:俺にもそうとしか見えない
:誰も知らない
「スカルドラゴンは溶岩の中を泳いでるんですよね……だから、適当に石を投げて出てくるのを待ってます。スカルドラゴンの骨が欲しーとか言ってここまで来ましたけど、数時間粘って1体出るかどうかじゃないですかね?」
結構レアなモンスターだったりする。今は阿蘇ダンジョンの72階層まで来ているけど、ここで座り込んで石を投げ始めて既に1時間が経過している。ダンジョン探索者には忍耐力も求められる訳だ。
「出てこないからって暇で携帯で動画とか見始めると、不意打ちで死んだりしますから絶対にやらないように」
:やらねぇよ
:ダンジョン行ってまで動画見たりしないよ
:そんな命がけの状態で動画見る奴とかいるのか
:いないだろ
「数年前にそれで死んだ人いませんでした? いつの時代も馬鹿はいるってことですよ」
まぁ、俺の場合は式神に周囲を見張らせているから別に問題はないんだけど。
ちなみに、マグマに向かって石を投げ込んでるけども、これ自体に意味はない。ただ暇だからなんとなく投げ込んでいるだけで、普段は武器の手入れしたり、式神を撫でてたりする。特に雷獣とか。
「お?」
:どうしたどうした?
:もうかかった?
:引いてる?
:釣りみたいに言うな
:草
:実質釣りだろこれ
:溶岩で釣りとか新しいな
今、マグマが不自然に揺らめいたけど、まさか1時間でスカルドラゴンに出会えるとは思ってもなかった。今日は滅茶苦茶ついてるな!
そんなことを考えていたら、マグマの中からこちらを狙って大口を開きながら……蛇が飛び出してきた。
「は?」
全身が骨で出来ている蛇なんだが……スカルドラゴンかと思ったのに全く違う物が飛び出してきたイラっとした。ので、突進を避けてから頭を掴んで思い切り地面に叩きつけ、頭の部分を踏みつけて粉々に砕いてやった。
:ひぇ
:目的じゃなかっただけでくそ可哀そうな殺され方されてる
:安心しろ、スカルドラゴンも殺されるのは同じだから
:名前も知らない蛇君……合掌
:なんか股間がきゅってなった
:なんでだよ
:怖い
:如月君ってヤンキー混じってないか?
:剣使えよ
腹立つな……まぁ、もうしばらく待って出てこなかったら次の階層行くかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます