第119話

 数日間、新人育成をしていた気が付いたことがある。今は婆ちゃんに道場を借りて、朝川さんに魔力を上手く循環させる方法を教えて貰っている……ところを後ろから配信で映しているのだが。


「うーん……岸谷君だけなんとなく感覚が違うのかな?」

「す、すいません」


:うーん

:俺もわからないから安心しろ

:なにに安心できるのかな、それは

:俺は魔力なんて動かせないからな

:健康にいいって聞いて始めたけど全然うまくならないぞ

:やっぱり魔力が動かせるだけ才能なんだなって


「岸谷さん、ちょっといいですか?」

「え……僕、ですか?」


 この人は特殊だ。俺が指導しないといけないだろうな……本格的に婆ちゃんを頼るか。


「え、司君?」

「美美香さんと堂々さんはそのまま朝川さんにお願いします。岸谷さんは俺とちょっと楽しいことしましょうか」


 この目で見るのは初めての相手だ……まさかこんな所で出会えるとは思っていなかった……人間に。

 道場を出て婆ちゃんがいつも茶を飲んでいる縁側にまでやってきたら、予想通り茶碗を片手に持ちながらワイルドに一気に緑茶を飲み干していた。いや、緑茶ならもっとゆっくり飲めよ。


「婆ちゃん」

「なんだい……お前か」

「彼、式神術の素養があるかもしれない」

「えぇ!? 僕にですかっ!?」

「ほぉ?」


 俺の言葉に流石に興味が惹かれたのか、婆ちゃんは湯呑を置いて蘆屋さんの顔をじっくりと眺めた。


「さて、あの本はどこにしまったか」

「いや、一応一子相伝の禁書なんだから……」

「あんな使える奴にしか使えない欠陥魔法なんて禁書じゃないよ」


 ひでぇ……俺はその欠陥魔法を主軸に戦ってるのに。


「そうさね……そもそもお前が読んだのが最後なんだから、口伝しな」

「はぁ? 耄碌したかな」

「ぶん殴るよ」


 はいはい……まぁ、確かに俺が直接教えた方がいいのかな。でも、一応配信中だしなぁ……一応は一子相伝の大事な魔法なんだからネット上のばら撒くのは流石に。


「なに心配してるか知らないけどね、相伝したのはお前なんだから好きにしな。私はあんな欠陥魔法が誰に知られようが知らないよ」

「それ、絶対に先祖様に怒られるやつだからね……」


 まぁ……受け継いできた人こう言ってるんだからいいか。蘆屋さんが式神術をマスターすれば、それこそ大きな戦力になるし。


「おわぁぁぁぁぁ!?」

「あ、すいません……」


:草

:ボロクソで草

:おいおい

:パンダ、それでも男か?

:女3人に囲まれながらボロクソにされるパンダ

:パンダは女にモテるからな

:は? 男の俺もパンダは好きだが?

:知らんわ


 再び道場へと戻ってきた俺の目に飛び込んできたのは、宮本さんによって軽く放り投げられて宙を舞う堂林さんの姿だった。多分、基礎的な部分ができたから組手をしながらしっかり循環させるってことをさせているんだろうけど……まぁ、宮本さんみたいに天性の感覚だけで循環が滅茶苦茶上手い人にはそらぁ……勝てないだろうな。


「お疲れ様です」

「しゃ、社長……俺、年下の女の子に負けた……」

「あはは……アサガオさんの方が更に年下なので気にしなくていいですよ」

「気にする!」


 気にするって言ってもなぁ……宮本さんは魔力の循環に関してだけ言えば圧倒的な才能の暴力だし、朝川さんは魔力が視認できるって特性のせいで、他の人が頑張って勉強してから解いてるテスト問題を、模範解答を片手に解いてるようなもんだし。あの2人に魔力の循環で勝つには、単純に出力で上回るしかないんじゃないかな?

 さっきのテストで例えるなら、宮本さんが天才だから100点、模範解答見てるから朝川さんも100点って言うなら、こっちは無理やり上限1000点でも叩き出せば勝てるでしょって話。頭悪いけど魔力なんて量と出力の勝負だからそれでいいのだ。


「さて、じゃあ岸谷さんは式神術講座ですね」


:式神術講座!?

:岸谷くん式神術使えるようになるの!?

:この放送を見れば使えるようになる奴がワンチャン?

:やったぜ

:これで俺も最強の探索者だ!


 式神術は生まれ持っての素養が必要だが……実は修得すること自体は簡単だったりする。大事なのはイメージ力であって、魔力の質とか量とかは式神の力にしか関係しないから問題ない。


「まず、なんでもいいから生物的なものを思い浮かべて、器を作るイメージで式神の肉体を構築する……って教本には書いてありましたけど、要するに適当に魔力で形作ればいい訳です」

「そ、そうなんですか?」

「試しにやってみましょうか」


 即興で作るなら、小さい妖精みたいな奴が簡単かもしれない。

 イメージするのは体長が数センチ程度の妖精……その妖精の性別は、髪型は、性格は、得意な魔法は、羽の形は、目の色は……色々なことを想像していき形作っていく。後はそれに名前をつけるだけだ。


「『ピクシー』」


 ポンっという名前と共に空中に妖精が生み出される。


「こんな感じ」

「むむむむ……ふぬぅ……」

「力み過ぎですね」


:いやわからんって

:やっぱり無理

:素養があってもできてないんですけど

:君がおかしいだけじゃない?

:こんなところまで如月君のおかしさを見せつけていくな

:やっぱりEXは生まれた時からEXなんだなって……ナチュラルボーンEXか

:ナチュラルボーン草

:でもそっちの方が納得できる


 ふーむ……中々苦労しているみたいだけど……多分、蘆屋さんの想像力が足りない気がする。まぁ、人間が一から生物を創造するって時点でかなり難しいんだろうけど……こういうのは最初は一番難しくて、2回目以降は結構簡単にできたりするんだよね。成功体験が人を成長させる、的な?


「生物に拘らなくてもいいかもしれませんね。逆に俺は生き物じゃないと動いてる姿を想像できないんですけど」

「生き物、以外……」


 お、魔力の感じが変った。


「『影法師』!」


 蘆屋さんが手を合わせながら叫んだ瞬間、足下の影からずるりと音を立てながら人型の影が這い出してきたのだが……


「ちっさ」


:草

:確かに小さい

:うーん

:10センチぐらい?

:これ、戦力として使えますか?

:修行不足やな

:これからこれから


 滅茶苦茶小さい影法師が生み出されたんだけど……多分今の蘆屋さんにはこれが全力。術者本人の実力が伸びれば伸びるほど、式神の力が上がっていくのは式神術のいい所ではあるけど、こういう風に力がまだない術者が召喚すると、弱くなるのは欠点だよな。

 そもそも、影法師とか言って影を動かしているんだから……厳密には式神術じゃない気もするけど。式神術と似た原理ではあるけど、ちょっと亜種的な魔法だよな。まぁ、俺の降霊術も似たようなもんだし……いいか。

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