第118話

「うぉぉぉぉ! ゴブリン相手なら無双できるぜぇ!」

「楽しそうですね」


:うーん、この

:弱者相手にイキリ散らすかませ犬特有のムーブ好き

:パンダ……お前って奴は最高だぜ

:弱者相手にイキってるパンダも、強者相手にビビり散らしてるパンダもどっちも好きだよ


 大盾を構えながらゴブリンに対して突っ込んでいき、雄叫びを上げているとは思えないぐらい槍でチクっと刺すだけ。これが堂林さんの戦闘スタイルだ。ゴブリン相手に対してすらも絶対に盾を構えるのは最早病気じゃないのかと疑うぐらいだけど、あの防御力は凄まじいという一言で片づけられない。

 俺はEXの人たちとは関りが深いけど、それ以外のSランクの人たちとかとは関りが薄いので全然知り合いなんていない。なので、あんな風に盾を持ってタンク役みたいなことをしている人の中で、堂林さんがどれぐらい凄いのかはわからない。相沢さんもタンク役やってるけど、あれはゲーム風に言うと回避盾だから比較にならない。


「どうよ!」

「地味」


 防御力は凄いと思うけど、どうって言われたら地味。ゴブリン数匹に対してそこまで時間掛けるか? 一応はDランクなのに。


:一 刀 両 断

:速攻でダメ出しされてて草

:実は性格の相性いいだろパンダと如月君

:クソみたいな戦闘からの速攻のダメ出し

:うーん、妥当な評価


「じ、地味……でも、俺の戦い方はとにかく怪我を負わないようにって戦い方だから! これでいいの!」

「いや、別に戦闘スタイルはそのままでいいと思いますよ、地味だけど。防御力に特化したタンク役ってのを見たことがないので、判断基準には困りますが、防御力そのものに問題はないですし、咄嗟の判断力も悪くないと思います、地味だけど」

「2回も言うほど地味だったかなぁ!?」


 いや、地味だったでしょ。色々と褒めたけど、やってることはゴブリンに対して盾構えて、盾の横から槍をチクチクと突き出して1匹ずつ倒しただけじゃん。天王寺さんや蘆屋さんみたいに派手なことなにもしてないし。


「じゃあ社長もやってみてよ!」


:あ

:おい

:やめろって

:渋谷ダンジョンの最上層で怪物を解き放つな

:ちゃんと自制させろ

:おいおいおい


 ゴブリンが3匹ぐらい遠くに見えたので手からビーム……魔法を放って消し飛ばした。


「はい」

「ナマ言ってすいませんっした」


:即落ちパンダ

:笹食って寝てろ

:速攻で負けるな

:なんでEXと張り合えると思ったのか

:やっぱり社長は最高だぜ


 逆に、ゴブリン相手に対してチクチクとやっている方がおかしいまである。ゴブリンってこれくらいの相手だからね?


「取り敢えず、全員の基礎的な戦闘スタイルとこれからの課題はわかりました。後は……配信外でちょくちょく指導するぐらいですかね。婆ちゃんにちょっと道場借りるかな」

「婆ちゃんって……神宮寺楓さん!? 私会ってみたい!」


 おぉ……やっぱり女性探索者はみんな婆ちゃんのことを憧れの人って感じるのかな。朝川さんも婆ちゃんのことを尊敬してるみたいだったし、天王寺さんもそんな反応するんだなって。


「今日は基礎的な話はこれまで……後は上層に行ってひたすらにモンスター狩りますか。そうすれば今日中にEまでは余裕で行けると思います」

「おぉ……確かにあの実力なら余裕でEだと思う。というか、もはやDでもおかしくない」

「そこら辺は協会側にも色々とありますから」


 ちょっとモンスターを多く倒せたからって、すぐさまDまで上げちゃうと中層で死んじゃう可能性だってあるし、どうしてもね。



 最上層から上層へと移動すると、ゴブリンもちょっと強くなる……らしい。俺には全く違いなんてわからないけど。それでも、天王寺さんも蘆屋さんも難なく上層のゴブリン相手にしても余裕で戦えているし、なんならスチールアントも危なげなく倒している。そんな姿を見て、堂林さんは自分がGランクだった頃はゴブリン相手にすらビビって逃げまくっていたとぶつぶつ言っているが……正直その怪我したくないの精神だとそうもなるだろうと。


:将来有望な新人だなぁ

:正直、まだ如月君がなにも教えてないのにスチールアントを一方的にボコれる時点でやばいだろ

:確かに如月君はまだなにもしてないな

:日本的にも将来もしかしたらSランクとかになってくれるかもしれない人間を、EXの如月君が育ててくれてるんだからいいことだらけだな

:人材育成って国がやることじゃないの?

:ダンジョン探索者の育成まで国がやったら国が壊れちゃう


 2人がどこまで成長するかわからないけど、下層までは必ず通用する探索者になると思う。そこからAで止まるのか、もしくはSまで行けるのか……あるいはなにかを掴んでEXになり上がるか。

 自分で言うのもなんだが、EXというのは本当に規格の外側へと飛び出さないとなれるものではない。単純に強いとかではなれるものではない。なにか……飛び抜けた特性を持っていないと駄目だ。

 まぁ、探索者としての個性って部分で言うと、天王寺さんと蘆屋さんはかなり特殊な個性を持っていると思うけど。片や魔法が使えないのに魔力を放出して戦い、もう片方は弓からでしか魔法を放てない代わりに自由自在な魔法を扱う。個性派と言えるだろう。配信映えもしそう。


「社長」

「如月君でも如月さんでもいいんで社長だけは……って何回目ですか?」

「まぁいいじゃん……社長は、なんでこの会社を立ち上げたのかなって」


 2人が戦っている姿を後ろで見ていた堂林さんが、俺に話しかけてきた。

 会社を立ち上げた理由……理由か。


「単純に、ダンジョン配信が流行っていたってのはあります。でも……ダンジョン探索者が、探索者だけでは生きていけないから配信やブログの副収入に頼っている人が多いと聞いて、安定させられたらなぁとか思ってのが始まりです。まぁ、結局配信者の救済に走って、探索者の救済にはなってないんですけど……後は俺の趣味です」

「最後が一番の理由でしょ」

「はい」


 なにを今更。


:草

:趣味で立ち上げられた会社

:成功してるからいいんだよ

:そら、社長が既に100万人のファンを連れてるからな……成功しない訳がない

:言うてこの配信も見てるだけで面白いだろ?

:確かに

:如月君は新人育成って部分で見ると滅茶苦茶貢献してるよ

:カナコンちゃんとか?

:せやな


 まぁ、自分の企業に所属している探索者なら育てやすいと思ったのも嘘ではない。なんだかんだ言って、俺も一緒にダンジョンを探索する仲間が欲しかったのかもしれない。

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