第113話
卒業式……これが終わればもう高校生ではいられなくなる。クラスメイトのみんなが結構別れを惜しんだり、寂しさから泣いたりしている人も多い。最近は地球温暖化の影響か、卒業式前に桜が満開になったり、逆に桜が咲いてないのに卒業式になったりとか色々あるみたいだけど、今年は卒業シーズンに丁度満開になっている。
「あ、いた」
「ん?」
校門でぼーっと桜を眺めていたら、後ろから朝川さんとその友達である野々原さんがやってきた。俺がまともに高校で関わった人って、本当に朝川さんと野々原さんぐらいだけだしな。
「んえぇ……卒業寂しいよぉ……七海も如月君も大学行かないし」
「そんなに?」
「正直、卒業してもそこまで感慨深くなるようなことなかったので」
「修学旅行楽しんだじゃーん!」
まぁ……確かに、生まれて初めて修学旅行を楽しいと思ったのは事実だけども。受験勉強の息抜きにもなったみたいで、みんな楽しそうだったし、やっぱり3年生で修学旅行って行くのがいいんだろうな。最近は高校2年生での修学旅行、多いらしいけど。
「絶対配信見るから……感想メッセージで毎回送るから」
「いや、そこまでは……」
「いいんじゃないですか? 野々原さんの好きにさせたら」
やっぱり最近はみんな大学に進学する人が多いらしい。奨学金を借りてまで進学する人が多いのは、やっぱり大学を出ておかないと就職するのが面倒になってる世の中だからかな。最近は新卒じゃないとーみたいな会社多いみたいだし。
「卒業しても絶対にまた会おうね!? 如月君と七海がどれだけ有名になっても絶対だから!」
「うーん……司君はもう有名だと思うけど」
「そこですか?」
こういう絶対に何年後になっても会おうね、みたいな奴って会わないんですよね。陰キャはそういうの覚えていてワクワクしてるけど、実際に覚えている人は誰もいないみたいな。
まぁ、なんやかんや色々とあったけど……こうして俺の高校生活は終わりを告げた。マジで、3年生になるまで青春らしいことなんてしてこなかったけど、最後に朝川さんと出会って友達になれたのだけは……よかったな。まぁ、4月から一緒に働くんですけどね。
高校を卒業してから数週間もすると、すぐに4月になる。人間は人生の体感時間を、19歳で半分に達すると言われているけど……それは19歳を超えてみないとわからないものなんだろうか。すくなくとも、俺は卒業式からこの4月の初週までかなり速く感じたが。
「えー……おはようございます」
「おはようございます!」
「お、おはようございます?」
必要な物も全て入れて完成したオフィスで、これから働く社員と挨拶をしていた。結局、ささっと雇った『early bird』の社員は全員で12人。配信者として5人、紹介して貰った若い税理士さん2人に、事務員兼任マネージャーさんが5人ほど。俺は社長なので含まれてません。
「まぁ……こう言ったらあれなんですけど……結構緩くやっていけたらいいなと思ってます。会社の規模が大きくなったら色々と考えますけど、今はまだ零細なんで」
規模を大きくするには、取り敢えず所属配信者の人気をアップしていくしかない。とは言え、既に数十万人規模のチャンネル登録者数を誇る朝川さんに、そろそろ10万人に届きそうな宮本さん、数万人の登録者がいる堂林さんと、メンバーは結構豪華だったりする。
「自己紹介、必要ですかね?」
「それは追々でいいんじゃないのかな? 司君のこと知らずに応募した人なんていないと思うし」
朝川さんのその言葉に、全員が頷いた。うーん……確かに、全員と元々面識があったり、ちゃんと面接したような人たちなので、俺はみんなの顔と名前が一致しているし、プロフィールまで知っているけども。社員同士の自己紹介は、勝手にしてくれればいい……のか? こういうの強制されるとキツイだろうなってのは、陰キャである俺の感想なんだけど。
「じゃあ、配信者の方々はサクっと今から自己紹介の配信するんで、よろしくお願いします」
「はーい」
先にSNSでは告知してあったから、週末の昼間だけど見てくれる人は多いと思う。
因みに、配信者はなるべくの頻度で配信してもらい、事務員さんたちは土日休んでもらう。問題が起こったら俺が対処するからオッケー。
渋谷駅近くのオフィスビルは、借りるだけで結構な費用がかかるんだけど……そこをケチってもしょうがないのでちゃんと2つ借りておいた。片方は事務員さんや税理士さんが仕事をする場所で、もう片方は色々な配信に使える広めのスペースだ。
配信用のフロアと、その上の階の2つの階を借りて仕事をしていくことになる。
「はい、どうも……まだ会社用の機材は調整中なので俺の個人カメラからこんにちは」
:こんにちは?
:配信者紹介来た?
:やっと起業系として動くんやなって
:企業系じゃなくて起業系なのか……
:起業したんだから起業系だろ
:ずっと待ってたぞ
「トップバッターは【如月司ch】の如月司……俺です」
:自ら率先してトップバッターをする社長の鑑
:なお日本最強な模様
:知ってる
:そもそもこれが如月司chや
:別でearly bird専門のチャンネル作らないの?
「いります? 別にそれぞれ個別のチャンネルでよくないですか?」
:いるだろ
:適当か?
:そういうところだぞ
:うーんこれは如月君
人を無計画の権化みたいな感じで言うのやめてもらっていいですか?
「じゃあ次は」
「私! アサガオです!」
:アサガオちゃん^^
:やっぱり癒し枠なんだよなぁ
:なお、最近は人外染みてきた模様
:癒し枠を人外に変えた如月司を許すな
:恨まれてて草
「俺、関係ないです。自ら望んで人外になろうとしているのは朝川さんであって、俺は関係ないです。無罪を主張します」
探索者は力を追い求める者ですから、仕方ないです。
「カナコン、です……お面は、外しました」
:素顔きちゃ!?
:カナコンちゃん美人過ぎてちびった
:ついに素顔公開なのか
:お面は持ってないの?
:企業所属になるから顔出しするのかな?
:どえらい美人でやばい
:想像の10倍ぐらい美人な素顔が出て来て流石に絶句してるわ
:俺、ちょっとアサガオちゃんからカナコンちゃんに鞍替えするわ
「あ、その……ありがとう、ございます?」
「鞍替えするって言ってた人は名前覚えたからね?」
:ひぇ
:謝っとけ
:消し飛ばされる
ふむ……ここまでは今までも俺がなんどかコラボしてた人だから、みんな普通に受け入れてるな。ここから先は初めて一緒にやっていくことになる人たちだから、ちょっと手荒くてもいいから歓迎して欲しいな。まぁ、正直視聴者のことをそこまで疑っている訳でもないけど。
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