第112話

「どうも、如月司です。今日は事務所予定地から色々なことを喋るだけの配信になります」


:おはよ

:書類で落とされたぞ(憤慨)

:俺も落とされた

:俺はそもそも探索者資格持ってなかった

:如月君企業おめ

:事務員で募集しようかと思ったけど面倒だったからやめた


「書類で落とされたと言っている人はお祈りしておきます。実のところ、9割以上を書類で落としているので、合格者以外は基本的に面接してないです」


:マジか

:そらみんな落とされたって話してるわ

:面接してたのか

:書類でわかるもんなの?

:選考基準があったってだけじゃないの

:まぁ、如月君が好きに運営する会社だしいいんじゃね?


 うむ……応募者の魔力値とか経歴とか見てて、設定した足切りラインを超えてくる人が少なかっただけとも言う。まぁ、リモートの面接でも落とした人は何人かいるけど。


「そもそも、面接受けて入社が決まった人数は3人なんで、そもそも枠が少なかったってのもあると思います」


:3人!?

:すっくな

:ダンジョン配信者でってこと?

:せやろ、だってまだ事務員の募集はしてる最中だろ

:俺もダンジョン配信者に成りたかったなー

:なるだけなら簡単だぞ。探索者資格取って、カメラ買って配信すればダンジョン配信者やん

:せやな

:なるだけならな


 送られたきた大量の履歴書を見ていて思ったんだが、探索者資格は一応で持っているけど、ダンジョンに潜ったことのない人って滅茶苦茶多いんだな。応募者にはこっちから質問シートを送ってたんだけど、返ってきた回答としては、資格は持ってると履歴書に書けるから持っているがダンジョンは未経験って答えた人、全体の8割ぐらいいた。

 大量に存在するGランクの探索者ってのは、こういう層なんだろうな。最上層で留まっているどころか、そもそもダンジョンにすら入ったことが無い人たち。


「受かった人の紹介は4月にでも……再来週ですね」


:おー

:楽しみや

:ついに如月君も企業所属配信者に……

:起業配信者な?

:草

:企業所属って言うか、自分で企業立ち上げてんだけどな

:流石に笑った


「バーチャル配信者はまだ募集始まってませんが、6月ぐらいに予定してますので……応募する気概のある人はそれまで腕を磨くなりしてください」


:なんの?

:配信の、やろ

:えぇ……

:腕を磨くと言うか喉を磨くと言うか

:喉って磨くものなのか?


「それで、なんですけど……一番迷っているのは、どうやって所属してくれる配信者の方々を、地獄に連れ回そうかって話なんです」


:は?

:受からなくてよかったわ(掌返し)

:なんで連れ回すこと前提なんですか?

:そういう配信だったのか……

:合格者さん、ご愁傷様


 所属してくれるとなったら、実質俺の傘下みたいなものじゃないか。だったら、俺がちゃんと探索者として生きていけるぐらいには面倒を見てやらないといけない訳だ。そして、強くなるのにもっとも効果的なのは地獄に連れ回すこと。少なくとも俺はそうやって婆ちゃんから育てられた。まぁ、深層まで行けとは言わないけど、安定して下層ぐらいは攻略できるようになって欲しい感はある。

 下層の安定した攻略って言うと無茶のように聞こえるけど、配信者として今の世の中を生き残って数字を残していくには、他者との差をつけなければならない。そうなると、中層で配信しているだけでは駄目だ。最近は俺の配信を見て中層に行ってみたみたいな人が多いと聞いたけど、下層まで行ける人はやはり少数。ダンジョン配信者として安定した人気を手に入れるには下層の安定攻略が絶対条件だ。


「ちゃんと面と向かって顔を合わせて、ダンジョンを攻略している様子を見ないとアドバイスもできないんですけど……そこら辺はゆっくりやっていくって感じですかね。取り敢えず『early bird』としては、全員を下層探索者にするつもりなんで……そのうちやるつもりの2期の面接に応募する方は覚悟しておいてください」


:下層探索者ってそんな簡単に慣れるもんなんですかね?

:まぁ……所属の配信者が如月君とアサガオちゃんだしな

:カナコンちゃんはまだ下層行けないよね?

:カナコンはまだ中層だけど、実力的にはそろそろ下層もありえるんじゃないですかね

:アサガオちゃんみたいに火力が足りないみたいなことにならなきゃね


「カナコンさんの火力に関してはこっちでなんとかする目途が立っているので、そう遠くない時期に下層に進出できると思います」


 魔力を魔法として形にするのが大の苦手で、魔力を武器と身体能力へと極振りしている宮本さんは、丁度武器を探している最中だった。数ヵ月前に俺が相談されてから、色々と聞いてまわったりしているみたいだけど、未だに武器は決まっていないらしい。

 ただ、宮本さんが『early bird』に所属してくれることになった時に、武器はこちらで用意すると伝えてある。その為の素材をちょっと取りに行かないといけないんだけど、今は忙しくて行けてない……そのうち、配信で取りに行くかな。


「アサガオさんは自前の素材で槍とか普通に作ってますけど、あの人あんまり言うほど槍使って戦わないんですよね……最近、戦法が神代さんに似てきたと言うか」


:わかる

:今まで魔力不足を補うために槍使ってたけど、魔力が豊富になって威力も上がってきたからいいやみたいなところある

:なんか魔力ゴリラみたいになってきたよな

:槍、いらないんじゃないかな


 うん……魔法以外のサブ武器としては充分に優秀だとは思うんだけど、如何せん朝川さんは魔力が視認できる特異な目があるせいなのか、魔力の回し方が非常に上手くてあんまりいらないんじゃないかな感が凄い。


「まぁ、そんな感じで所属してくれる配信者の方々はこちらで色々とバックアップしていくので、ガンガン潜って欲しいんですよね。当然、配信には投げ銭機能とかも実装するので、気に入ったら投げ銭もしてあげてください」


:君は?

:如月君の投げ銭機能は?

:投げ銭させろ

:如月君推しだから投げ銭させろ

:如月君に金を投げつけたい奴多くて草

:こいつ金持ってるから金で殴っても楽しくないぞ

:それはそれとして金は投げつけたいんだよなぁ


「俺の配信は基本的に投げ銭無しで行こうかと思ってたんですけど……やっぱりありのほうがいいですかね? 一応、月額の有料会員的なものはやるつもりですけど……限定配信みたいなのもあんまりする気ないですよ?」


:いいからやれ

:なんでもいいからしろ

:限定配信なんてしなくても大丈夫よ

:投げ銭した金は全部会社に入れていいからつけろ

:社内設備の費用の為に投げ銭実装しよう

:如月君の視聴者規模なら余裕で金集まるから投げ銭機能つけよう


 うーん……みんなそういう金を投げる機能がついていると嫌がると思ったんだけど、実はそうでもないのかな? なら、一応4月からつけておくかな……その方が企業所属の配信者っぽいし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る