第110話

「おはよ司君……寒いね」

「……まぁ、雪降ってますし」


 マフラーを触りながら挨拶してきた朝川さんが、なんとなく寒そうにしている。雪降ってんだから当然と言えば当然なんだけども。

 現在、2月の頭で……高校も今日から自由登校ってことなので、色々と学校でやることを片付けたら俺も卒業までは学校に来るつもりはない。高校一年生になった時、EX探索者となってまともに学校に通えなくなってしまったが……それなりに思い入れはある。初めての友達である朝川さんみたいな大事な人もできたし。


「それより、もう立ち上げたって聞いたけど本当? 会社」

「まぁ……まだ形だけですけどね」


 取り敢えず色々な手続きは済ませたので、後は俺が学校を卒業して人を雇うだけだ。そういう話もしたくて朝川さんがいる学校に来たってのもあるんだけども。


 一緒に歩きながら教室に辿り着いたが、当然ながら教室内はかなり人が少ない。今日は自由登校初日ってこともあって多い方だと思うけど……それでも半分以上の生徒が来ていない。みんな受験で忙しいとか、既にAO入試が決まったから学校に行く必要が無いとか色々あるんだろうな。


「じゃあ次は面接?」

「そうですね……特に、所属してくれる配信者を探さないといけないですから」


 今のところ、企業に所属してくれることが決まっている配信者は3人。1人は当然ながら俺。2人目は俺の目の前で一緒に会社の話をしている朝川七海さんこと、アサガオ。そして3人目が……宮本佳奈さんこと、カナコンさん。


「それにしても、カナコンさん? よく受けてくれたね」

「あの人は元々OLやってましたし、基本的に今と変わらないことをしてくれればいって話をしたら、普通にオッケーしてくれましたね」

「そっかぁ……でも細かいところを色々と考えないとね」

「あー……投げ銭による収益とか色々とありますからね」


 会社って形を成している以上は、配信者が動画などで手に入れた収益をそれなりに徴収する必要がある。俺は金に興味が無かったから今まで投げ銭機能なんて使ったことがなかったんだけど、流石に本当の配信者として活動するとなるとつけざるを得ないかな。配信者以外の事務員とかも募集する予定だし。


「法人税のあれこれとか考えると税理士とか雇いたいですし、色々と考えることはあるんですよね。別に全部俺のポケットマネーで誤魔化してもいいんですけど」

「それはどうなの?」

「ですよね……ちょっと考え方ゲーム的すぎましたね」


 この間のことで金が色々と入ったこともあって、ちょっと扱いが雑になっている感じはある。と言うのも、数ヵ月前に俺が名古屋ダンジョンの最奥で発見した魔力を吸収するクリスタルなんだが……随分と機構が複雑だったらしく、未だに研究に回されているらしい。日本の魔力研究者たちが匙を投げたぐらいよくわからない代物らしく、俺が日本に貸して、そこから更に国際機関に貸している状態だ。つまり、魔力を研究する全ての国の研究者が血眼になって研究している訳だ。

 ここが問題なんだけども……あくまであのクリスタルの所有者はまだ俺のままである。別に俺は返してくれる必要もないんだけど、あくまで貸しているだけなので当然、時間ごとに金が発生している。つまり……そういうことだ。さぁ……あの研究はいつ終わるのだろうか。

 と、まぁ……俺は予期せぬ所で不労所得を手に入れてしまった訳だ。


「具体的にだけど、どれくらいの人を想定してるの?」

「配信者の数ですか? 将来的にはそれこそ50人ぐらいの大企業になると嬉しいなーぐらいに考えてますけど、最初は5、6人くらいじゃないですかね。そこにプラスしてダンジョン配信者以外の人も雇いたいですね」


 たとえば、バーチャル配信者とか。

 バーチャル配信者って最近は凄い人気あるから……自社で人気を確保できればそれなりの収益になると思う。とは言え、やっぱりダンジョン配信をメインにしたいから、雇ってもそこまでの数にはならないかな。


「こっちから有望そうな人に声をかけるってのもありなんですけど、やっぱり普通に広告出して面接するのがいいでしょうね。そうすれば、新規で始められる人も増える訳ですし」

「あー……声をかけるってなると、もう既にダンジョン配信してる人に限定されちゃうから」

「そういうことですね。まぁ、募集は俺の配信で大々的にすればいいんですけど」


 こういう時に自分のチャンネル登録者数が滅茶苦茶多いのはメリットになるな。募集しても応募者0人みたいなことにはなりにくいと思うから。



「と、いう訳で……2月末に書類選考して3月の頭に直接面接する予定で、ダンジョン配信者募集します。ちなみに、バーチャル配信者も2、3人募集してます」


:バーチャルもやるんか?

:普通にダンジョン配信が安定してからでよくない?

:バーチャルにも手を出すのか

:ダンジョン配信だけだとどうしてもね


「あ、基本的には好きに配信してもらうので、東京周辺に住んでいる人じゃなくても大丈夫です。国内だとありがたいですけど」


 別に東京までの旅費なんて経費として出せばいいから、沖縄に住んでようが北海道に住んでいようが有望そうなら普通に雇う予定だ。


:マジ? 面接をリモートにしてくれたら受けるわ

:リモート面接でよくない?

:交通費出ますか?

:ちょっと俺も応募しようかな

:応募するだけしてみるといいんじゃないかな

:俺は如月君がこの先も普通にダンジョン配信するならなんでもいいぞ


「リモート面接ですか……まぁ、それもいいかもですね」


 確かに、面接ぐらいなら完全なリモートでもいいか。会社は渋谷ダンジョン近いからって理由で渋谷駅周辺のビルにねじ込むつもりだけど、所属配信者に集まってもらう用事なんてそう多くないだろうし。


「じゃあ完全リモート面接に今から変えます。書類選考は履歴書と、既にダンジョン配信をしている場合はそのチャンネルのURL……それから探索者資格のコピーをネットで送ってもらえれば大丈夫です。わざわざ書類郵送するの面倒だと思うので、全部ネットにしました」


:草

:若者やな

:いいな……

:まぁ、確かにわざわざボールペンで清書したりするの面倒ではある

:個人情報の保護って観点で言うと紙はいいんだけどね

:燃やせば残らないからな


 後は、ついでに事務員の募集要項も出しておこう。税理士は俺がよく頼ってる人のところにフリーの人とか紹介してもらうのでもいいしな。


「とにかく、今年の4月から本格的に企業としてやっていくので、ダンジョン配信に興味のある方は是非……あ、現在の所属予定者は俺と、アサガオさんとカナコンさんですね」


:マジかよ俺も応募する

:カナコンちゃんとリアルで会えるってマジ? 応募するわ

:出会い厨もいます

:書類で落とされそうな奴らがいっぱいいますね

:お祈りしています

:やめろ〇すぞ

:お祈り過剰反応兄貴は就職して

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