第106話

「貴人さんやい」

『なんでしょうか?』

「なにか見えた? この遺跡を動かしてる存在とか」


 もし、そんな存在がいないのならば……この遺跡そのものが俺を襲ってきたことになるんだけど。


『特になにかが見えたと言うことは……私にも、この遺跡そのものが意思を持って貴方様を攻撃したようにしか見えませんでした』

「……じゃあ潰すか、この遺跡」


 この遺跡そのものがモンスターのように襲ってきたのだとしたら、潰したってなんの問題もないだろう。仮に、この遺跡が襲ってきた訳ではなくモンスターがどこかから動かしているのだとしても、遺跡がダンジョンの一部ならば勝手に修復すると思うから大丈夫でしょう。平気だって……多分。


:貴重な遺跡なんじゃないんですかね?

:命の危険には変えられないやろ

:まぁ、遺跡そのものが敵の可能性もあるから仕方ないけど

:無機物系の敵ってこと?

:知らんわそんなの

:マジでなにからなにまで理解不能な古代都市(仮)だよなぁ

:そもそも名古屋ダンジョンが水没しているのに60階層から先は別に水没してないってのが一番意味わからないんだけど、そこはいいんですか

:そこはもう過ぎ去った話ってだけで誰も理解はしてないから安心しろよな

:なにに安心するんですか…?


「こういう時は頼りにしてるよ貴人。なんだかんだ言って、十二天将最強は君なんだから」

『っ! はい!』


 変態性は置いておいても、俺が式神の中でも彼女のことを最も信頼していることに違いはない。まぁ……十二天将の中で最も俺の好みに近い女性として作ったからってのもあるんだけど。中身があれじゃなきゃなぁ……とか思ったりするけど、今の貴人も別に嫌いではない。変態ってだけだ。

 残っていた最後のガトリング砲を沙悟浄が破壊してくれた。次はどこから襲ってくるかわからないが、空中にいると的にしかならないので一端地上に降りる。


『囲まれています』

「マジ?」

『はい……どこから現れたかはわかりませんが』


 天后は周囲の水分の動きから敵がどこに存在しているのか感じ取っている、らしい。いや、水分の動きってなんだよと思うんだけど、水を張って動いた存在の波紋から存在を感知してるとかなのかな。ただし、天后の危機予測が外れたのを見たことが無いので理屈は理解しなくても敵がいることは事実な訳だ。


「……ゴーレム?」


:ゴーレムにしては小さいな

:ゴーレムって言うか機械兵みたいな?

:まだ謎の文明要素出してきたな

:もはやそういうコンセプトでダンジョン作ってるだけだろこれ


 周囲の通路や建物の中から現れたのは俺と同じぐらいの身長を持つ、石で作られた兵士たち。全員が手に剣や槍、弓を持っている姿を見るに、戦闘用の存在のようだが……もしかしてこいつらがさっきの兵器を動かしてたのか? だが、そもそもこれだけの数を上空から眺めていて1体も発見できないなんてことがあるのか?

 雑に数えても50ぐらいはいそうな数の石の兵士たちは、全員が武器を構えながら一定の距離からじっとこちらを見つめている。


「天后」

瀑布ばくふ


 一定の距離から一切動こうとせずに包囲してくるみたいだけど、こっちはそんなことに一々付き合ってる意味はない。

 天后が魔力を頭上の海へと放ち、そこから大量の水を一気に落とした。瀑布とはつまり、ただの滝のことだ。俺を中心に降り注いだ暴力的なまでの水と言う質力の塊は石の兵士を砕き押し流し、そのまま石造りの街を破壊していった。ちなみに、俺は天后の能力で水の影響を受けないのでなんの問題もない。


:水ってすごいんだな(小並感)

:まぁ、水の力だけで簡単に人は殺せるよな

:何トンの水を降り注がせたのかわからんな

:水って意味のわからん単位のトン使うときあるよな、数兆トンとか

:数兆トンあったらダンジョンが簡単に崩壊してると思うの


 大量の水によって石の兵士を押し流したことで敵はあらかた片付けたと思ったら、空中を滑空してこっちに突っ込んでくる兵士が見えた。ジェットパックでも背負ってんのかと思ったけど、どうやら魔力で飛んでいるらしい。

 なんか……本当にそういう機械兵士が戦うアニメみたいだな。武器がちょっと原始的だけど。


『はっ!』


 自爆特攻でもするつもりだったのか、こちらに向かって減速せずに突っ込んできていた空飛ぶ敵は、俺の所まで戻ってきた貴人が先ほどのガトリング砲のように魔力弾を大量に放って撃墜していた。


「で、結局このダンジョンはなんですか……全く意味が分からないんですけど」


:わからん

:さっきから出てくる敵の文明、とか?

:レールガンがあると思ったら原始的な武器使ってるしこれもうわからん

:わからないということがわかったわ

:無知の知定期

:真面目にここだけ切り取っても結構やばい難易度のダンジョンであることしかわからない


 周囲は天后の瀑布によって水浸しになっているけど、今度は一切敵の存在を感じなくなった。突然現れたり、突然いなくなったりとせわしないことだが……やっぱりこの都市そのものが敵な気がする。


「……中心で大爆発起こしたら全部解決するかな」


:なんて?

:今とんでもない独り言呟いたね君

:名古屋ダンジョン壊れる

:名古屋ダンジョン「え!? ここから入れる保険があるんですか!?」

:ないです


 簡単に都市を崩壊させるならそれがいいか。それこそ神様でも降ろしてみるかと思ったけど、大爆発起こして物理的に破壊するのが一番早い気がしてきたからそれでいいか。協会になんか言われても、命の危機だったんです的なこと言っておけば反論できないだろ。よし、完璧な理論武装だな。

 そうと決まれば目指すべきはあの中心の、よくわからん城みたいな場所。まだ建物の中には入ってないけど、あそこにはきっと何かがいると思うから……注意しながら進むとしよう。


:え、本当に爆破するの?

:マジでやろうとしてるだろこれwww

:流石に草

:脳筋攻略最高や!

:うぉぉぉぉぉ! やっぱりダンジョンは爆破するに限るぜ!

:いいぞやれ!

:ダンジョン起爆賛成派のチンピラ具合がやばい


 なんでもそうだけど、圧縮しすぎると爆発するものだから魔力だって圧縮すればとんでもない大爆発を起こすだろう。神代さんだって札幌ダンジョンで階層を丸ごと破壊するようなことしてたから、それと原理は一緒だな。

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