第107話

 中心へと近づこうとすると、やはりさっきまで影も形もなかった兵士たちがそこら中から湧いて来る。なんとなくだけど、こいつらは俺が中心に行くのを阻止しようとしてるのかもしれないと思った。その中心になにがあるのか知らないけど、ちょっとワクワクしてくるな。

 勾陳の結界を張りながら俺は兵士を極力無視して、沙悟浄、貴人、天后に任せる。

 神格の違いなのか、沙悟浄は3人の中でも攻撃力が飛び抜けており、三叉戟から放たれた水流は爆音を放ちながら兵士と共に、古代都市を破壊している。水辺だと力が増すとかなのかな。


『野蛮な鰐が一番役に立ってるなんて……私も!』

『水龍』


 なんか叫んでる貴人をガン無視して、天后が頭上の海から再び水の龍を呼び出していた。しかも、今回はかなり大きめのサイズを3体。

 頭上から巨大な水龍が現れたことを察したからなのか、それとも俺が中心にどんどんと近づいているからなのかはわからないが、中心の脇から大きさが10メートルぐらいありそうな巨大なロボットが出てきた。まぁ、ロボットと言っても周囲にいる石の兵士が大きくなってちょっと武装が変っただけにも見えるけど。


:怪獣大戦争でもしてんの?

:草

:マジで怪獣なんだよなぁ

:これがダンジョン攻略配信ってマジ? なんかの映画でしょ

:人間位の大きさだとソルジャーって感じだけど、あれだけでかいとやっぱりゴーレムって感じだよね

:知らんわなんだよその感じって

:どっちも石なんだからゴーレムだろ


 天后の水龍のうち1体が巨大なゴーレムの方へと向かって飛んでいったが、顔と思わしき部分についていた目から、赤色のビームを放って水龍を消し飛ばした。地上の遺跡に当たって爆発を起こしてるんだけど……守護者っぽい見た目なのに街を破壊していいのか?

 水龍を消し飛ばしたゴーレムは、こちらに向き直って拳を叩きつけようとしてきたが、即座に反応した沙悟浄が飛び出していき……迫って来ていた拳を三叉戟から放たれた水の槍が貫いた。


:強すぎて草

:なんてもん作ってんの?

:如月君はマジでなにしてんのよ

:なんで怪物をこうポンポンと作り出せるんですかね


「えぇ……知らないです」


 俺の中での深沙大将のイメージはあくまで水中を自在に移動し、三叉戟を使って敵を排除するってイメージでしかないんだけど……まさか天后のように水を自由自在に操ってあんな巨大なゴーレムを一撃で屠るような奴になるとは思わないじゃん。それだけ、イメージとして降ろした「ナニカ」が強かったのか……神降ろしにはわからないことが多い。

 なにはともあれ、沙悟浄が巨大ゴーレムを一撃で屠ってくれたので俺は容易に中心の城らしき場所までやってこれた。入口を沙悟浄に任せて、天后と貴人を連れて中に入ると、まぁ予想通り中にの兵士の群れ。


「蹴散らす!」


 俺が雷、貴人が炎、天后が水を放って兵士を蹂躙しながら中心に進んでいく。しばらく建物の中を疾走しながら兵士を蹂躙していると、突然開けた場所に出た。玉座らしきものがあり、そこには見たこともない紫色の水晶が重力に逆らって浮いている。


:小説とかでよく見るダンジョンコアってやつでは?

:マ? ダンジョンコアとか破壊したらダンジョンが無くなるのか?

:ついに現実のダンジョンにもコアが!?

:いや、まだ憶測だから

:そもそも本当にダンジョンコアかもわからんのに


「取り敢えず攻撃」


:は?

:草

:脳筋発想やめろ


 なにか分からないものには取り敢えず攻撃してみるってのが、ゲームの定番だろ。なので、仮称ダンジョンコアに向かって雷ビームを指から放ったんだけど……弾かれる訳でも破壊できる訳でもなく、まるで吸い込まれるようにして雷は消えた。


「んー……魔力を吸収した、のか?」

『そんな風に見えましたね。ですが、貴方様の魔力を一度に簡単に吸収できるとなると……破壊するのは困難では?』


:なんで破壊すること前提なの?

:破壊したらダンジョン崩落するかもしれないだろ

:これでぱぱっと崩落したら笑う

:魔力を吸収するクリスタルとか滅茶苦茶怪しいのでは?


「なら次は触れてみる」


 破壊できないなら触れてみるのが定石。

 手を伸ばして触れてみると、僅かに熱を帯びているらしくほんのり温かい。

 それにしても、さっきまであれだけ大量に現れていた石の兵士たちが、この部屋にやってきてから1体も現れないのは何故? やっぱりこの水晶になにか秘密があるのだろうか。


「よくわからないから、これ戦利品として持って帰るか」


:いいのかそれで

:まぁいいんじゃない?

:終わり! 名古屋ダンジョン終了!

:最下層にしては呆気なかったですね

:呆気なかった(兵器、兵士大量出現)

:お、そうだな(適当)


 持ち上げてみるとそこまで重くない。やっぱり浮いてるからかな……大きさとしては、俺の身体より大きいから2メートルぐらいは余裕でありそうなんだけども。持ち上げて動かした瞬間に、アラームが鳴って大量に敵が出てくるとかないよね?


「ん?」


 クリスタルを少し移動させた瞬間に、周囲の音が一気に消えた。


『敵の動きが、止まっています』


 廊下で見張ってくれいてた天后がひょっこりと顔を出して教えてくれた。え、つまりあの敵は全部このクリスタルが原因で動いてたってことなのか? それにしても随分とあっさりした話だけど……いいのかこれで。


:あっさりだったな

:ダンジョン攻略がいつだって感動的なラスト迎えると思うなよ

:何者だよ

:まぁあっさりクリアされるダンジョンだってあるでしょ

:あっさり(水没)

:そもそも如月君以外は踏み入ることすらできない定期

:定期できるのはえーよ


 それにしても魔力を吸い取る水晶か……なにかに使えるのかな。たとえば……魔力を貯め込んで巨大な発電機代わりにできるとか。

 今時は魔石の魔力から発電する時代だからな……魔石は使い捨てで大量に必要とされてるけど、この水晶ならそれを貯め込んでおけるのでは? まぁ、貯め込んだ魔力をどうやって抽出するのかは知らないんですけどね。

 なにはともあれ、人類には攻略できないとか言われ続けていたダンジョンだって、こうやって攻略できたんだから大丈夫だって。まぁ、マジで敵が無限に増え続けるならこの都市ごと大爆発でも起こしてやろうかと思ったけど……これで解決したから無問題モーマンタイ

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