第102話
貴人は変態だが実に有用で、わりとなんでもできる式神だ。唯一の欠点と言えば攻撃力特化の十二天将に比べるとどうしても魔法の威力が落ちてしまう所だが、彼女はそこら辺も上手く立ち回ることができるので大した問題はない。つまり、変態でさえなければ完璧なのにという感情がある訳だ。
『くぅ! 鰐如きがスピードで調子に乗って!』
「なんで沙悟浄に対抗意識燃やしてんの?」
『そういう方です故……』
沙悟浄のスピードに対応しながらもしっかりと遠距離攻撃での支援や、沙悟浄の三叉戟に魔力を纏わせてバフをかけたりとハイレベルなことをしている。性格が残念なのは式神の能力としての欠点にはならないから問題無し……なはず。
:貴人さんはやっぱり強いねぇ
:露骨に攻略速度上がったな
:変態だけどな
:それはいつものことだろ
貴人を召喚してから、ゆったりとしていた攻略速度がかなり速くなった。万能な式神なだけあって、俺の手持ちにいるどんな式神と組ませても上手く機能するのが貴人の最も強い点と言えるかもしれない。本人の性格は、ノーコメントで。
『後ろから来ます』
「ん」
天后の忠告通り、背後から数匹の魚型モンスターがやってきたが、そこまでの速度はないので適当に突進を避けながら蛍光灯にしていた刀で腹を捌く。離れられすぎると一切敵が見えなくなるけど、近寄ってこられると流石に反撃も容易い。
階層としても、まだまだ深層ではなく50階層中盤なのでモンスターの強さはそこまででもない。
:水中で魔法使えるの?
:使えなかったら光らせてないのでは?
:光るのは魔法じゃないだろ
:魔力を光らせてるだけだから魔法ではないと思うけど
:魔力って光らせられるの?
:それは如月君に聞け
:魔法使えないならかなり面倒なダンジョンでは?
「魔法は使えますよ。ただ、属性を付与した基本的な魔法はかなり使いにくいので、必然的に魔力だけで構成された魔法に限られますが」
例えば、ゴルフボールぐらいの魔力弾を生み出して弾き出すとか。炎とか雷なんかはやっぱり水中では上手く使えないので、結局は身体能力任せになる。まぁ、それも水中だからできることは限られるけど。
『左から1匹……背後からも3匹来ます』
「多いか……頼める?」
『では』
天后は両手でしっかりと持っていたカメラを左手の上に乗せ、右手に魔力を集中させる。天后の能力は俺に水難避けを付与するだけでなく、水を自在に操ることができる。つまり、完全に水中であるこの名古屋ダンジョンは天后にとって掌の上であると言える。
俺に向かって突っ込んできていた4匹の魚は、天后が引き起こした渦に阻まれて近づくことができず、体内から破裂するようにして死んでいった。
「…………えぐ」
『水中ならばこれくらいは』
水中に限れば、間違いなく天后は最強の式神だ。
それにしても、沙悟浄と貴人がツーマンセルでひたすらにモンスターを駆除しているのにも関わらず、こうしてこちらにまでモンスターが飛んで来ると言うことは、既に対処しきれるレベルではないぐらいに階層そのものが広がっていると考えていいだろう。
「沙悟浄、貴人、戻って来てくれ」
『お呼びとあらば!』
呼んだ瞬間に背後から現れた貴人と、ゆったりとした動きで俺の近くにやってきた沙悟浄。やってくる速度の違いは性格の違いかな。
「ここからはガンガン進んでいきましょうか。ダンジョンそのものが暗くなってきて、なんだから周囲の確認もイマイチできませんし」
:いいと思うよ
:さっさと最下層まで行こう
:ここまで大体3時間ぐらい?
:如月君にしては時間がかかったな……
:せやね
:3時間で誰も知らないダンジョンの50階層まで来ている時点でやばいからな
:如月君の前では一切の常識を捨てろ
:神曲かよ
:この配信を見る者は一切の常識を捨てよ
:この配信は地獄ってこと?
:深層が地獄だしそんなもんでしょ
名古屋ダンジョンの深層……正直、どうなっているのか俺でも想像できない。もしかしたら、明るくなってるかもしれないし、本当にこのまま深海のようになっているのかもしれない。あるいは、それ以外のナニカが待ち受けているのかも。
実際の深海にも何が潜んでいるのかわからないのと同じだろう。誰だって、知らないものは知らないのだから。
「じゃあ、行きますか」
深層までは後もう少し。ここに来るまでそれなりに時間をかけてゆっくりとやってきたけど、まさかこんな根源的な恐怖心と好奇心をくすぐられるダンジョンだとは思わなかった。もっと早く攻略しておけばよかったなとも思うし、配信しながら攻略できたからこれくらいの時期に攻略できてよかったなとも思う。
:レアメタルは?
:そう言えば忘れてた
:モンスターか深海って部分しか見てなかったw
:視聴者も忘れてたこと言い出さないで
「いや、それなりに探そうかと思ったんですけど……金属探知なんてできないですし、そもそも暗すぎてよくわからないので運任せです」
:草
:そらそうなるわな
:まぁ攻略すること自体が大切だから
:ええんやない?
:まぁ、仕方ないよ
:如月君だって初めて入るダンジョンな訳だし、いいんじゃない?
うーん……EXとしてはそういう仕方ないって妥協を失くしていきたいんだけど、こればかりは人間の視力の限界を感じるので厳しい。どれだけ視力が良くなっても、俺は人間の可視光線しか見れないんだから。それこそ、朝川さんのように魔力でも視認できたら別かもしれないけど……俺には無理だ。
:国から頼まれてる訳でもないし大丈夫だって
:仕事で潜ってる訳じゃないしな
:ダンジョンに潜ってるって意味と海に潜ってるダブルミーニング
:は?
:急に意味わからんこと言わないで
:ちょっと何言ってるかわからない
:潜水してろお前
「まぁ、歩いていて足になにか当たるような感覚もないですし、俺には発見すること自体が不可能だと言うことでご了承ください」
それにしても、ちゃんとダンジョンなだけあって完全な深海状態でまともに光が無い場所でも、ちゃんと足場はしっかりしてるんだよな……コンクリートみたいな感触というか。もし、この階層全体を明るくしたら急に古代都市のようなものが出てきたとかだと、浪漫あるよね。俺はそういうの好きだよ。
「水中都市の浪漫を追い求めて、続き行きましょう?」
:なんて?
:急に変な設定生やさないで
:意味わからないの草
:思考ぶっ飛んでんな
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