第100話
34階層から更に進んでいくと、どんどんと暗くなっていく。予想通り40階層に到達する時には周辺は全て暗闇に閉ざされ、光が無ければまともに見通すこともできないだろう。俺は影響を受けていないからそこまで自覚が無いけど、水中なだけあって音の伝わり方も地上とは違うからちょっと慣れない。とは言え、水中で音の伝わる速度は空気中の5倍程度なのだから、音が聞こえないことはないだろう。
ダンジョンと言うこともあって普通の深海とは違って、足元がしっかりしていることが救いか。底なしの世界に堕ちていくような感覚はなく、ただ本当に暗闇を歩いているだけだ。
:マジで海洋恐怖症とかだとこの画面見ただけで発狂するだろ
:海洋恐怖症じゃなくても怖いんですけどそれは
:海洋恐怖症舐めんなよ
:マジもんの海洋恐怖症は既にこの配信からリタイアしていると思われ
:人間なんてみんな軽度の海洋恐怖症だろ
:重度の人が酷いって話なんだよなぁ
:深海を探索するゲームやったことあるけど、マジでこんな感じで怖い
:天后さんがカメラ持ってるから、マジで三人称のゲームみたいだな
:でも、蛍光灯片手に水中歩いているのはシュールでちょっと笑う
たまに聞いたこともないようなアレルギーを持っている人がいるように、聞いたこともない恐怖症を持っている人も存在する。海洋恐怖症は常人では理解できない世界だけど、本当に海洋恐怖症の人は海に潜らなくても怖いと言う。色んな人間がいるものだ。
まぁ、俺だって一切の恐怖心を持っていない訳ではない。実際、こうやって真っ暗闇の海を歩いているとなんとなく恐怖心というものが湧いてくるものだが……配信のコメント欄もあるし、天后が時々話しかけて来てくれるので孤独感は薄い。
未知の世界を探索して、暗闇から何が出てくるかわからない恐怖の方は……ダンジョンなんていつものことなんであんまり気にしてないけど。
:沙悟浄、目どうなってんの?
:よくわからん
:急に反応して暗闇の中に泳いでいったと思ったら、魔石を持って帰ってくるの草
:この深海でどうやって索敵してるんですかね
:雰囲気だろ
:適当言うな
:魔力で感じ取ってるとかじゃないの?
俺にもわからん。多分、水の流れとかじゃないの?
基礎的な身体を作り上げたのは俺だけど、降ろした存在がなにをしているのかは俺にもわからないんだから。
「ん……貝?」
沙悟浄を好きにさせながらしばらく歩いていたら、急に視界の端から大きな貝が現れた。いや、貝は動いていないから俺が勝手に近づいたの間違いなんだけども。
:この貝、中身なくね?
:食われた後じゃん
:なんで水中で食われてんのw
:【悲報】貝さん、ダンジョンでも食糧扱い
「いや、最初から中身が存在していないとかじゃないんですか? だって、食い荒らされた形跡もないですし、そもそも中層のモンスターは他のモンスターを襲わない筈ですが……」
なんて言っていたら、急に貝殻が動き出した。いや、中身ないのになんで動いてるんだよ。中身を覗いていた俺を叩き潰そうと上の殻を閉じてきたが、沙悟浄が間に入って片手で受け止めた。
:貝殻だけで動くモンスターってマジ?
:生物じゃないやん
:いや、ダンジョンなんてゴーレムが存在する世界だぞ?
:それはそう
:今更生物じゃない奴が出てきたぐらいで驚かんやろ
:中身ないのになんで殻で覆ってんねん
:それは知らんw
:適当か?
貝殻を一生懸命閉じようとしているが、沙悟浄の力の方が強いらしく、びくともしない。一度諦めて思い切り貝殻が開いた瞬間に、沙悟浄は三叉戟を下の貝殻に叩きつけてひびをいれてから、思い切りその三叉戟を殴って下の貝殻を粉々に砕いた。
粉々にされた貝殻は一度だけびくんと動いてから、砂のようにさらさらと消えていった。
「……なんか、思ったより脳筋に仕上がったんですけど」
:お前が作ったんだろ定期
:自分の式神だろ
:えぇ……
:貝殻君、そもそも完全敗北してて草
:みんな忘れてるけど、所詮は中層やぞ?
:如月君が中層で苦戦するはずないんだから当たり前なんだよなぁ
まぁ、その通りではあるんだけど……その中層ですら未開の地なんだからゆっくりと探索していきたいって言うのが俺の本音なんだ。出てくるモンスター全てに興味津々だし、もっと頑張ってゆっくりと探索したい気持ちなんだ。
「まぁ、とりあえず進みますか」
:なんか落ちてるぞ
:魔石?
:魔石は沙悟浄が手に持ってるぞ
:石だろ
:石っころだな
「……これ、鉱石じゃないですか? ものすごく小さいから、抽出したとしても殆どないと思いますけど」
手に取った石の端に、本当に小さいが金属光沢が見える。
そう言えば、名古屋ダンジョンの内部には大量のレアメタルが眠ってるとかそんな話してたな。本当に潜ったことのある人がいるからそんな話が出てきたのか、それとも最上層でも確認されたことがあるのか……どういう理由かは知らないけどそんな話だ。つまり、俺はこれからレアメタルを見つける可能性があるってことか。
:名古屋ダンジョンのレアメタル実在したのか
:え!? あれって徳川埋蔵金みたいな噂だけの存在じゃないんですか!?
:マジでただの都市伝説だと思ってました
:都市伝説になるの早すぎないか?
:数十年あれば充分に都市伝説になるだろ
:大量に見つけて持ち帰れば魔石よりも高く売れるのでは?
:深層の魔石だったら深層の方が高いぞ
:じゃあレアメタルなんて持ち帰る必要ないじゃないか(呆れ)
:あるが?
まぁ、レアメタルなんて車、パソコン、携帯、その他なんでもかんでも使うぐらいに貴重だから持ち帰るだけの価値は滅茶苦茶あるんだけど……レアメタルって一言で片づけても色々と種類があるからな。そんなに詳しくないから、原石を見ただけでなんの鉱石かなんてわからないけど。
「まぁ、もっと大きいのを見つけたら持ち帰るか検討しましょう。そこまではダンジョンの攻略をメインに考えて動きます」
:今頃ダンジョン協会は大慌てやろうな
:慌てても如月君しか入れないんだけどな?
:草
:ダイバー装備で入れば行けるんじゃね?
:ここダンジョンだぞ? モンスターはどうするんだよ
:そもそもダイバー装備だけでどうやって水圧に耐えるんだよ
:駄目みたいですね
:だから名古屋ダンジョンは人間が探索するダンジョンじゃないって言ってるのに
:如月君は?
:人間じゃないだろ?
:普通に人間じゃない扱いされてるのは流石に草
:やっぱり人外じゃないか
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