第98話
「……声、聞こえてますか?」
:聞こえてる
:ちょっと遠いけど聞こえる
:どうなってんの?
:よくわからんけど凄いからヨシ
:待ちきれないから速く進んでくれ
冷静に考えてみると、名古屋ダンジョン11階層以降の水中の景色っていうのは、俺以外にじっくりと観察したことがある人はいない訳だな。なんかちょっと興奮してきた。
「水の中だからなのか、それとも単純に上層だからなのか……とにかくモンスターの数が少ないですね。いても小魚みたいな奴ばっかりです」
:小魚?
:見るからに数十センチぐらいの魚泳いでるんですけど小魚なんですか?
:このダンジョン、水に潜れても光源はどうなるんだろう
:下に行くと水圧と光の無さで大変なことになったりして
:水圧あるとか言ってたけどそっちは大丈夫なの?
:大丈夫だから34階層まで行ったことがあるのでは?
うん……水圧もきっちり存在するせいで、普通の人間ではまず潜ることなんて不可能だと思う。俺の場合は天后が水に関する事象を全てカットしてくれるので関係ないけど、普通に水圧受けたら圧縮されて死ぬ。
「でも、実は人間の身体って意外なほど丈夫なんですよ。具体的に言うと、人間の身体がゆっくりと適応できるぐらいの速度で圧力が上昇していくと、大体3万ヘクトパスカルぐらいまで耐えられるらしいですよ。30気圧ですよ」
:マジ?
:嘘だろ
:30気圧って言うと、単純に海で言うと水深290メートルぐらい?
:ゆっくりって条件がついてるけど、そんなに耐えられるのか
:知らなかった
:俺の身体そんなに耐えられるの? 嘘でしょ
:自分の身体に自信ないニキはもっと自信持って
まぁ、そもそも人間の身体が適当するぐらいの速度で気圧が上がって行くとか言う訳がわからない前提条件はついているけど、人間の身体って思うより脆くないんだなって。
どこから光が入っているのか知らないけど、11階層ではまだ全体が見通せるぐらいに明るい。海藻がゆらゆらと揺れているのが見えるし、遠くにモンスターがいるのも見える。
ふと、疑問に思ったのだが……この状態で本気で走ったら俺の速度はどうなるんだろうか。水から与えられる影響を無視している状態だけど、本気で走っても水の抵抗は関係なく走れるのか、そして俺が放つ魔法は水中ではどうなるのか……気になる。
:速い速い
:無言加速やめろ
:吐く
:怖いって!
:急な加速はやめるんだ!
:急停止するな
:ジェットコースターでもそんな慣性無視した動きしねぇぞ
:どうなってんだお前の身体
「……水中でも問題なく走れますね。じゃあ魔法は」
:水中でビームを放つ変態
:魚さんかわいそうすぎて涙出てくるぞ
:実験の為に殺された魚さんに敬礼
:ただのモンスター定期
:水中でも普段通り活動できるってこと?
:最強じゃん……もうこのまま最下層まで行こうぜ
:お前以外に攻略できる人間いないんだから最下層まで行け
:まぁ、確かにこれに関しては如月君以外に攻略できる人間はいないと思うから、できるだけ深くまで潜った方がいいと思う
魔法も問題無し、と。
とはいえ、炎系の魔法で床を炎上させたりみたいなことはできないし、電撃を無造作に放って絨毯爆撃みたいなことも水中ではできないだろう。となると、戦闘方法としては刀による物理的な攻撃と、速度を意識したビーム系……後は式神頼りかな。
「じゃあ、上層なんて興味ないんで走りますよ」
:さっきもう走ったじゃん
:酔い止め自前で用意しておこ
:画面から目放しておくわ
:ちょっと離席するぞ
:吐きたくないから逃げるしかない
:俺は画面注視するぞ
:何故自ら死にに行こうとするのか……怖いもの見たさかな?
俺の配信ではよくあること。高速で移動しないとダンジョンなんて広すぎて時間かかりすぎるから仕方ない……まぁ、まだ上層だから広さ的には大したことがないんだけども。下層以降にもなるとそうも言ってられなくなるので仕方ない。
カメラの設定をどれだけよくしても、俺が本気で走ったらついてこれなくなるので、天后に持たせてしまったほうがいいかな。式神は術者である俺の近くを離れないように移動することができるからなんの問題もない……はず。
『うふふ……みなさん、よろしくお願いしますね?』
:撮影係かな?
:撮影係がこんな美人だったら壊れちゃう
:くそ美人だな
:このくそ美人を如月君がイメージだけで作り出したってマジで? 妄想力が高すぎてオタクとしての戦闘力も勝てる気がしないわ
:妄想力www
:いや、確かに式神術の詳細を考えると確かにそんな感じなんだけども、言い方一つでここまで変わるか?
あってるからなにも言わない。十二天将の身体を作る時、天后とか天空、貴人を想像する時に女神なんだからやっぱり美人がいいよなーとか思いながら作り出したから、仕方ない。中身は降ろしてきた存在だから関与していないが、外側は俺の性癖が出ていると言っても過言ではない。だから、十二天将の女性陣はみんな豊かな物を持っている……なにがとは言わないが、それが俺の性癖だ。いや、男なら逆らえない本能、とでも言おうか……かっこよく言ったけど胸がデカい人が好みです。
:水中を高速で移動してるの、絵面だけ見るとすごいシュールじゃないか?
:なんかカメラの視点だけで見ると、如月君が高速で泳いでいるように見えるな
:シャチかな?
:水草
:名古屋ダンジョンだからって水草生やすな
:水草とかすぐに増えるよな、金魚の水槽に1個いれたら10個ぐらいに分裂してたわ
:知らんが?
:なんで水草談義しようと思ったのか理解に苦しむぞ
:さっきから魚ばっかりだな
12階層に繋がる階段、そして13階層に繋がる階段と次々に発見して降りていくけど、やはり少しずつダンジョン全体の明るさが変ってきている。以前に34階層まで来た時には、1メートル先が見えればいい方だったけど……カメラでちゃんと映るかな?
暗闇を明るく照らすような魔法は持っていないが、魔力を操作すればなんとかいけるかな……それと、水中で有用そうな妖怪も幾つか手札として考えておかないと。まぁ、いっそのことこだわりを捨てて海外の神獣やら妖精やらを再現して使って見るのもそれはそれで楽しいかもしれないけど。
:これ如月君が1人でしか攻略できないけど、逆に言うと攻略したら1人で完全制覇したってことになるでしょ?
:なに当たり前のこと言ってんだおめぇ
:同じ事繰り返し言ってるだけじゃないか?
:そもそも名古屋ダンジョンなんて11階層以降に足を踏み入れた時点で怪物だろ
:もう探索者とかそういう問題じゃない気がしてくるよな
:こればっかりは実力以前の問題に、入れる人が決まり過ぎていると言うか如月君しか行けない
:とんだ欠陥ダンジョンだよな
:ワイ名古屋ダンジョン近郊住み、如月君が最下層を攻略したら水が抜けるとかないかなと密かに期待している
:んなゲームみたいな話あるか?
あったら俺も嬉しいな。
だって俺しかこのダンジョンを知れないとか、普通に勿体なくない? ちょっとそういう水を抜くようなギミック無いか探してみよ。
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