第96話
「起業のノウハウなんて流石にわからないなぁ」
「まぁ、そりゃあそうですよね」
相沢さんと昼食を食べながら俺の将来の話をしていた。
高校を卒業したら、ダンジョン配信者としてやっていくこと……そして、ダンジョン配信者にとって活動しやすい事務所を立ち上げ、そこで新人の育成をしながら徐々に規模を拡大していくこと。そうやっていくことで長い目で見てダンジョン探索者の人口を増やしたいこと。今、俺が考えている全てのことを話した。
「……確かに、次世代のトップ探索者である君としては、新人育成は考えなきゃいけないことかもしれないね。でも、それはまだ先のことだろう? なにせ、私がいるんだから」
「まぁ、そうですけどね。でも、EXとしてやっぱり探索者不足の現状はなんとなく見過ごせないので」
「本当は、君に次期ダンジョン探索者組合長をやって欲しかったんだけど……やりたいことがあるならその方がいいだろうね」
相沢さんには申し訳ないけど、組合長はブラック企業のサラリーマンみたいなことになっている相沢さんを見ていると絶対にやりたくないので嫌だ。そんなんだったら俺はノウハウもなにもない状態から起業して好きなことをやるぞ。
「それで、どうしてわざわざ会いに来てくれたの? 人生相談だけじゃないんでしょ?」
「え? 別に……ちょっと会いに来たついでに相談しただけですよ?」
「……本当に? 私、そんなに君に慕われてたかな」
「いや、俺の中では一番尊敬できる探索者なんですけどね?」
だって婆ちゃんは婆ちゃんだし、神代さんはあれじゃん。ちょっと失礼かもしれないけど、消去法でいくと必然的に相沢さんこそが俺の頼れる相手になるのは間違いないよね。
「そっか……じゃあちょっと尊敬できる大人として接してみようかな」
「あ、そういうのはいいです」
「冷たくない?」
だって、俺が相沢さんに求めているのは先輩探索者としてであって、別に家族的なあれじゃないので。今まで通りでいいの……別になにも変えなくていいの。
翌日、学校に登校した俺は普段通り教室の端の席で本を読んでいた。9月は依頼を一個も受けていないので、毎日ちゃんと学校に通っているけど……10月になるとすぐにそうもいかなくなる。と言うか、既に10月だからそろそろ依頼まみれになるのは確定しているんだけど。
「おはよう司君……また本読んでるの?」
「おはようございます。本はいつだって読むものでは?」
10月になって衣替えをした長袖制服の朝川さんが挨拶してきた。半袖の期間が物凄く今年は長く感じたけど……あくまで体感的な話なのかな。学校の衣替えって6月から半袖で10月から長袖だし、8月は夏休みでないから、半袖の制服は実質的には3か月しか見ない筈なんだよな。
「折角、如月君が出席してるのが日常になってきたのに……また忙しくなるんでしょ? ちょっと寂しいな」
俺が連続で登校し始めた時には、クラスメイトの人たちも色々と驚いてたみたいだし、なにより担任の先生が一番驚いていたんだけど、1週間もすればいるのが当たり前みたいになってまた空気のようになっていた。俺はEXの探索者ではあるが、結局のところは陰キャコミュ障なので基本的には人が寄ってこない……悲しいな。まぁ、朝川さんや野々原さんはそういうところを気にせずに話しかけてきたりするけども。
人の噂も七十五日とはよく言ったもので、夏休み前にEX探索者であることがバレて色々と騒がしくなっていた学校生活も、朝川さんと野々原さんに喋りかけられる以外はいつも通りの陰キャぼっち君になっていた訳だ。
「そろそろさ、体育祭なんだけど……司君ってどうするの?」
「いやぁ……いつ仕事が入るかわからないんで、多分参加しないですね」
「そっかぁ……じゃあ、学園祭も?」
「準備とか全然手伝えないのに、学園祭だけ参加って言うのも、ちょっと申し訳ないですし」
「うぅ……ショック」
まぁ、本当は学生として色々と遊びたい気持ちはあるけども……そう簡単には中々ね。いや、陰キャコミュ障ぼっち君だから学校行事参加したくないとかも、確かにあるんだけども。中学生の時とかそれで地獄みたからな……友達がいないってだけであそこまで生きるのが辛くなれるのかと、当時は枕を濡らしたものだ。
よくよく考えると、探索者になる前の俺ってただ友達がいないだけの陰キャコミュ障だから、マジでやばい存在だったんだな。今は探索者としての立場があるから生きていけてるけど、探索者としての才能がなかったらマジで人生終わってたと思う。
「うーん……じゃあ、折角だし私と思い出作りしよう!」
「いや、思い出作りってなんですか」
「修学旅行とかあるじゃん!」
「え、俺に参加しろと?」
学園祭とか体育祭って自分に課せられた仕事すれば、まだ陰キャでも生き残る道は存在するけど、修学旅行はマジで詰みだぞ? 中学生の時とか辛すぎてサボったから修学旅行とか行ってないんだからな?
「そもそも、この高校の修学旅行とかどこ行くんですか? 京都とか?」
「ハワイだよ?」
なんかそんな話を聞いたような聞いてないような……最初からサボタージュ確定だったから忘れてるだけだと思う。
「ね? ハワイとか絶対に楽しいよ? みんなも楽しみにしてるんだよ?」
「いや、ハワイなんて全然楽しくないですよ」
「え!? まさかのハワイアンチなの!?」
「……野々原さん、急にやってきてハワイアンチとかいう謎の言語を喋らないでください」
そもそもハワイアンチってなんだよ。俺は実体験に基づく事実を端的に述べただけで、ハワイアンチではない。
「てかハワイ行ったことあるんだ」
「ありますよ。マジで楽しくないです」
「それは……司君に友達が少ないから?」
「え? 友達が少ないとか関係ありますか?」
単純にマジでつまらないでしょ……あそこは。国際的にもマジで人気無いし、行きたいと思っている人がいる方が驚きだわ。
「そ、そんなにハワイ嫌いなんだ」
「嫌いではないですよ。面白くないだけで……あんなただひたすら大広間にデカいモンスターが出てくるだけのダンジョン」
「ダンジョンの話!? 普通にハワイ旅行の話だよ!?」
「如月君……マジで頭の中ダンジョンしかないんだ」
「あ、あぁ……地上の話ですか」
なんだ……みんなあのボスラッシュダンジョンが好きなのかと思っちゃった。ハワイって言うとそれのイメージしかなくて……世間と感覚ずれてるのかと思った。
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