第91話

『じゃあ次は基礎的な質問なんですけど……如月さんの魔力値を教えてください!』

「…………?」

『え、もしかして知らないん、ですか?』


 魔力値ってなんだっけ?


:ガチでわかってない顔してるの草

:探索者は自分の魔力値なんて測定しないからな

:マジで魔力値とか使ってるの見たことないから

:探索者資格取る時だけじゃない?

:人生でもそこしか使わないと思う

:一般人は自分の身長みたいな感覚で聞いて来るけど、探索者は自分の魔力値とか知らないぞ

:健康診断とかないんですかね?

:探索者にも健康診断はあるけど魔力値は測定しないぞ

:なんのために存在する値なんですかね……


 やばい。マジで知らないわ……なんか学校の測定で、みたいな話を聞いたことがあるようなないような……どうだっけな。


『魔力値って言うのは、その人の身体に潜在的に眠っている魔力量を示す値で……探索者資格を取る為に20以上必要なん、ですけど』

「……すいません、マジで知らないです。そして多分なんですけど、探索者の人たちは計測する意味ないと思います」

『え、どうしてですか?』

「測定方法は知らないですけど、体内の魔力量なんて自在に操れるので」


:それ

:マジ?

:じゃあ如月君は魔力値を計っても0にもできるし100にもできるってこと?

:マジでなんのために存在するんだ……

:意味わからなくて草

:必要ない値を作るな


 こういうのが現場である探索者と、書類でしか現状を把握しない協会側のギャップを生み出していると思うんだよな。実際、探索者が自分の魔力量を自在に操るなんて当たり前みたいな技術だし、自然体で計ったところで大した意味にもならないと思う。魔力はムラがあるからな。


「20ないと探索者資格は取れないかもしれませんけど、普通に鍛えれば誰でも30ぐらいまでなら行くと思いますよ。はっきり言って全く役に立たない指標ですから」

『そ、そうなんですね……私ももうちょっと頑張ってみようかな』

「勿論、魔力値を測定して値が高かったら才能があるのは間違いないと思いますけど」


:魔力値不足で落とされた俺もワンチャンあるってこと?

:努力で補えるかもしれないけど、それで上層までしか行けないなら意味ないと思うぞ

:まぁ結局は才能よ

:自分の才能の無さを恨め

:探索者になるだけならできるかもな


 マジでなんの為に存在するんだろう……もっと正確に計測できる値なら存在する意味も理解できるんだが……これに関してはなんの役にも立たないと思う。


『じゃ、じゃあ次の質問……式神術は、どんな経緯で身に着けたんですか? 他に使っている人を見たことがないんですけど……配信してないだけなんですか?』

「さぁ? 俺も式神術なんて割と使い勝手が悪い魔法を使っている人は見たことないですね」


:えぇ……

:自分で言うな

:お前便利に使ってるだろ

:使い勝手は悪い(弱いとは言っていない)


「事前に式神を準備する必要がありますし、そもそも式神は本来ならばそこまで出力が高い魔法でもないですから」

『そ、そうなんですか?』

「式神を作成するときに思い切り魔力を籠めるんですけど、体感的には籠めた魔力の10分の1も出力があればいい方ですよ。召喚のコスパはいいかもしれないですけど」


 ダンジョンとは関係ない地上で準備してからダンジョンで召喚する都合上、コスパはよく感じるけど、中々面倒なことは間違いない。だってしっかりとイメージできないと、そもそも式神を生み出すことすら難しいのだから。


:そーなんだ

:そもそも式神を操るには才能がいるみたいな話じゃなかった?

:式神術を扱うには生まれながらの素質がいる、だったかな?

:大変だなぁ

:楽して勝てるダンジョンなんかないってことやな

:如月君も頑張ってるんだな

:そらそうやろ


「あと、式神術を手に入れた経緯でしたっけ……これ言っていいか知らないですけど……神宮寺楓さんの家に伝わる、秘伝の書? みたいなので学びました」

『……え? それって読んでいい奴なんですか?』

「知らないです。でも、突然渡されて「お前はこれでも使えるようになりな」って言われたので……なんか秘伝って書かれたから、一子相伝の貴重な術だと思うんですけど」


:なんでやねん

:草生えた

:どうなってんだ神宮寺さんは……

:雑過ぎないか?

:一子相伝(笑)になってて草

:多分、それ普通は他の人に読ませちゃいけない本だと思うんですけど

:パワーバランス壊れちゃう

:コピーして全国に配れ

:俺にも読ませて


 俺も知らないよ。本当に読んでよかった本なのか、未だにちょっと怖くて聞けてないからな。でも、婆ちゃんは自分が式神術は使えないし、娘も孫もダンジョン探索者としてやっていけるだけの魔力はないって話はしてたから、そういう関係で俺に見せたのかも。でも、婆ちゃんの探索者としてやっていけないは中層探索者でもいいそうだからな。あの人の言葉を全部信用するのは怖い。


「まぁ、だから俺は特殊な方法で強くなりましたけど、もし今からダンジョン探索者目指す人がいるなら、素直に相沢さんのように堅実に強くなることをおススメします……間違っても神代さんのようにはならないように」


:釘刺してて草

:まぁあれが増えたらダンジョン崩落しちゃうから

:神代璃音が増えたらダンジョンより先に探索者協会が壊れちゃうと思うの

:あんな無茶苦茶な奴がEXとか普通にやばくない?

:無茶苦茶だからEXなのでは?

:真理w

:やばいからEXなんだろ


『なんか……如月さんの話を聞いていると、自分も探索者やりたいなーって気持ちと、怖いなーって気持ちが両方湧いてきます』

「人生一度きりなんですし、思い切ってやってみるといいと思いますよ。最上層ならモンスターの強さ的にまず死ぬことなんてないですし、最上層は基本的に階層そのものが狭くて人も多いですから、危なくなっても助けてくれる人はいると思います」


 まぁ、世の中には最上層の1階層からとんでもないダンジョンってのも存在するんだけど……少なくとも日本にはそんなダンジョン存在しないから大丈夫。


「ダンジョンに潜るためにもっとも必要なのは力ではなく知識ですから。鳥桃佐々見さんのように、ダンジョンのことをしっかりと調べている人ならなんの問題もなく上層までは行けると思います」


 ただし中層から先は知らん。上層までと中層は別世界の如く変わってくるから、覚悟の無い人が踏み込むべき場所ではない。その認識だけあれば、副業感覚ぐらいで儲かるだろ。少なくとも、よくある詐欺なんかよりは安心して稼げるぞ。


「因みに副業であろうともダンジョンでの収入が年に30万以上あれば、全体の所得に控除がつくので、やるなら30万まで稼ぎましょう」

『お、お金は大事ですからね』


:※その代わり確定申告はしましょう

:確定申告の面倒さをとるか、控除を取るか

:控除の額は結構えげつないから、確定申告してでもダンジョン年に30万稼ぐといいぞ

:30万ぐらいなら、最上層でも年に50回ぐらい潜ればいけると思う

:いけるか?

:無理

:いやいけるだろ

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