第92話

『ふぅ……ちょっといろんなこと聞き過ぎちゃいました……』

「いえ、そういう配信ですから」

『まぁ、そうなんですけど』


 俺が最初に予想していた質問はあまり来なかった。これは、実際にダンジョンに潜っている探索者と、それをかいつまんだ情報でしか知ることのないダンジョンに潜らない人の差なのだろうか。ちょっと色々と考えることはありそうだ。


『なんだかんだと言って、そろそろ1時間なので……終わりにしたいと思います! 今日は本当に、ありがとうございました!』

「こちらこそ、色々と知れましたから」

『え、私質問してただけですよね?』

「まぁ、色々と」


:意味深

:ワイも普段はバーチャル配信者とか見ないけど、ちょっとおもろいなって思ったぞ

:バーチャル配信者とコラボすると炎上する、覚えた

:バーチャル配信者はもっとリスナーを躾けておいてくれ

:無駄だぞ日本語読めないからな

:読めないのにスパチャしてるのか……

:借金して投げる奴がいるぐらいだからな

:えぇ……

:破綻者で草

:よくそんな頭で社会を生き残れて来れたな

:キャバクラかな?


 後はバーチャル配信者特有らしいエンディングトークを終えて、そのまま配信を終了させた。

 ダンジョン配信者ではない人とコラボするのが初めての経験だったが、中々面白い感覚だった。ダンジョンの話を知っている前提ではない人間と喋るのが、こんなにも違うとは思わなかったし、ちょっと面倒だとも思ったけど結果的には新しい知識を得ることができたと考えれば、充分だろう。炎上も含めて二度とやりたくはないが。



「ということで、感想戦です」


:将棋かな?

:草

:なんの感想戦するの?

:バーチャル配信者とはもう関わらない方がいいぞ

:もっとバーチャル配信者とコラボして

:どっちだよ

:正直、最近のバーチャル配信者って炎上してるイメージしかないからやめておけ

:延焼するぞ

:もう燃えたんだよなぁ


 うーむ……視聴者のみんなもやっぱりそういうイメージなのか。俺もSNSで聞くバーチャル配信者の話題と言えば、炎上かリスナーの誹謗中傷などによる訴訟問題のどっちかだ。あまり良いイメージは、確かにない。鳥桃佐々見さんはかなり清廉潔白に活動しているようだけど、だからこそ俺のような男性とコラボすることで俺が炎上させられたんだろう。


「まぁ、そういうところも含めて感想戦です。主に俺のコミュニケーション能力について」


:いや惨敗でしょ

:コミュニケーション能力の話はやめないか

:感想戦する意味ある?

:え、全部悪手で終わりじゃない?

:散々な評価を受けています如月君

:当たり前だろw

:まぁ、ちょっとコミュニケーション能力が苦手なのかなって

:オブラートに包むな

:札幌ダンジョンからの新規さんかもしれないだろ


「……オッケーです。どう思いながらさっきの配信を見ていたのかは理解できました」


 いや、俺にだってコミュニケーション能力はマイナスに振り切れていることは自覚しているんだけど……なんというか、やっぱりダンジョンのことになるとさらっと結論から話す癖があるんだよ。なにせ、俺が普段からダンジョンについて話す相手は、協会の偉い人か相沢さんみたいな人なんだから。だらだらと経緯とか喋ったってしょうがないじゃん。


「まぁ、今回の収穫としては、ダンジョンに潜らない人がどんな感じでダンジョン配信を見ているのかを知れたことですかね。当たり前ですけど、うちのリスナーも基本的にはダンジョンに潜らない人が大半だと思うので」


:せやろな

:潜ったことないっす

:沖縄で細々とダンジョン潜ってます

:俺も頑張って探索者やってるぞ

:如月君の配信見て探索者になりました

:俺は忙しくて副業なんてできないぞ

:時間がねぇ……資格は持ってるのに


 まぁ、積極的にコメントしてくれている人たちは基本的にダンジョン潜ってるような探索者が多いんだろうなと思うけど、コメントせずに配信だけを見ている人とか、それこそ海外の人とかはやっぱりダンジョンに潜らない人が大半なんじゃないかなーと。そもそも日本の中でもダンジョンに潜る人が足りないとか言われてるのに、俺の配信に来ている人が探索者ばかりだったら逆に怖いわ。

 今まで探索者じゃない人が見に来ている意識はあったんだけど、実際にどれくらいの知識で見ているのか、その具体的な部分が見えてこなかったんだけども、鳥桃佐々見さんはそこら辺のわからないことを全て質問してくれたので助かった。鳥桃佐々見さんが質問してきた内容=探索者ではない人が知らない話なんだと。


「浮世離れじゃないですけど、ダンジョンに潜ってると常識ってものがどんどん擦り減ってく感じありませんか?」


:なんとなくだけど言いたいことはわかる

:ダンジョン潜ってるとちょっと自分がゲームの主人公になった気分になってくるんだよね

:まぁ、ちょっと現実離れした感覚になるのはわからんでもない

:たまに小説の主人公みたいな動きしたくなることあります

:死にかけたことあるからそんなことはしないようにしてるぞ

:そんな感じなの?

:男は誰だって子供の頃から冒険に憧れるもんだろ

:長い棒を手に取ると振り回したくなるようなもんだな


「刀とかにワクワクする感情と同じですよ。ダンジョン潜ってると楽しくなってくるのは」


 だから、ダンジョン探索者は男性が多いのかな。浪漫じゃないけど、ダンジョンを現実のものであるとただ受け止めるのではなく、そこに夢を見てしまうものだ。


「まぁ、そんな考えになるのはよくないって研修でやるんですけどね」


:誰も聞いてねぇじゃねぇかwwwww

:仕方ない

:研修とか眠くなるし

:免許更新のビデオを毎回ちゃんと真面目に見るか?

:あの代わり映えしない運転免許のビデオ見ないだろ

:バイクが横からすり抜けてくるかもしれないから気を付けましょうとかいう謎の映像な、バイクがすり抜ける方が悪いだろ

:知らんがな

:どうでもいい話すんなwwww


 いや、俺は免許取ってないからそんな話されても知らないけど。将来的に車の免許とか取った方がいいのかなと思いながら、最近は協会の人に送り迎えしてもらっているからいらない気もしてきた。


「とにかく、色々と学べましたね。感想戦っぽくないけどこれで終わりです」


:感想戦(笑)

:おつ

:まぁ頑張れ

:ダンジョン配信者はダンジョンに潜ってればいいのよ

:また見に来るぞ

:アサガオちゃんとコラボしろ

:待ちぼうけのアサガオちゃんを放置するな


 いや、なんで朝川さんの面倒を俺が全部見ること確定みたいになってんの?

 まぁ、見るんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る