第90話
『と言う訳で、事前告知通り如月司さんとコラボ配信です!』
「よろしくお願いします……一応、こっちでも配信はつけてます」
『あ、そうなんですね! ちょっと2窓しときます』
別にこっちの配信は見なくてもいいと思うけど……それにしても、俺も人気バーチャル配信者とコラボするほどになってしまうとは。最初は本当に興味本位ぐらいだったんだけどな……まぁ、楽しいからいいけど。
:おーおー向こうのコメント荒れてら
:当たり前だろ
:こっちのコメントもそれなりに荒れてて草
:普通に誹謗中傷とか開示請求せんの?
:面倒だからしないだろ
:エスカレートしそうじゃね?
:EX相手に直接手を出せる奴なんていないからネットだけだろ?
なんかこっちのコメント欄も滅茶苦茶騒がしいけど、まぁバーチャル配信者なんてのはアイドル売りで、男とコラボしている時点で許せないって思う人が一定数いるから仕方ないだろうな。こちらとしては、そんなの関係ないんだけども。
『今日の私は、ただの一般人枠として……色々と質問させていただきます!』
「ダンジョンについて、ですよね? ちゃんと答えられるかどうかはわかりませんけど、頑張りますね」
今まで関わってきた人は、大なり小なりダンジョンのことをちゃんと体験として知っている人だけだったので、ダンジョンに潜ったことのない人とダンジョンの話をするのは初めてだ。ちゃんと伝わるように喋られるだろうが……一応、事前に聞かれるかもしれない質問に対する回答は用意してきたから、コミュ障は発揮しない……と思う。
:コミュ障頑張れ
:仕事の関係だとそれなりに喋られる普通の陰キャ感あるよなこいつ
:俺も友達いない陰キャコミュ障だけど仕事中の会話はできる
:なんでだろうな、俺もよくわからん
:仕事とプライベートは別だからな
:会話ができないってより、一歩が踏み出せないだけだろ如月君は
:相手と一歩踏み込んだ関係になるのが怖いだけだと思うぞ
コメントで人の陰キャコミュ障部分について考察するのやめろ。
ビジネス的な会話はできるけど、プライベートのことになると愛想笑い浮かべながら頷くことしかできない俺のことを馬鹿にするな。
『早速なんですけど、札幌ダンジョンの攻略お疲れさまでした!』
「あ、ありがとうございます……攻略したの、相沢さんな気もしますけど」
『そんなことないですよ! 式神を使った的確なサポートを続けてたじゃないですか! テレビでも生放送されてましたし、本当に日本中が固唾を飲んで見守ってたって感じでしたよね!』
「……そうなんですか?」
いや、俺はその時札幌ダンジョンにいたから知らないし、別に自分に関するニュースだからって詳しく調べて見たいとも思わなかったから知らなかったわ。
:おい
:話は合わせろ
:当事者だから知らないだろ
:草
:興味なしかお前?
:空気読め
『その時ダンジョンにいたから知らないですよね。でも、本当に凄かったんですよ? やっぱり私みたいにダンジョンに興味ある人とかは、みんな見てましたし』
「そうなんですか……なんか、恥ずかしいですね」
『あはは! 私もバーチャル配信者としてテレビで取り上げられてるの見た時は、ちょっと恥ずかしいなって思いましたよ』
:そんなもんか
:有名人にしか味わえない感覚だな
:如月君も圧倒的な有名人感あるな
:あるか? このコミュ障が?
:やめてやれ
『じゃあ質問何ですけど、やっぱり気になるのは深層の雰囲気というか、肌感覚としてどんな感じなんですか?』
「深層ですか。そうですね……初めて潜った時は、なんというか、常に緊張で鳥肌が立つような場所ってイメージでしたね。本当に下層までとは別世界で、常に命が危険に晒されている感じで……初めて挑戦する時は生きた心地がしないと思うので、皆さんも充分に気を付けてくださいね」
:いや、行かないから
:どこ目線だよ
:深層に行くような奴なんてそうそういないだろうが
:普段から深層に行くような奴なんてSとEXだけだろうが
:Aですら深層なんて恐ろしくて行かないって言うのに
:EXは緊張感すらなく潜ってるだろ
:初めて行った時の話だから、今はノーカンだぞ
まぁ、今でこそ随分と慣れたけど、実際に初めて深層に行った時は本当に怖かったんだからな。婆ちゃんが一緒に来てくれていたけど、それでも婆ちゃんは俺のことを助けてくれることなんてしないから、俺は1人で深層のモンスターと戦っていた。当時は今のように十二天将なんて使えなかったから、本当に死ぬかと思った。
鳥桃佐々見さんのアバターが下を見ながらもぞもぞ動いているが、どうやら音を聞くに俺の言葉をメモしているらしい。なにか、メモするようなことあったかな。
『じゃあ、札幌ダンジョンの深層について教えてください!』
「札幌ダンジョンですか? なんというか……面倒って感じでしたね」
『面倒、ですか?』
「はい。通路は狭いし、薄暗くて遠くまで見えづらいし……おまけに魔力を散らすゴーレムがそれなりの頻度で出現しますから、面倒ですね」
『そうなんですね……やっぱりその魔力を散らすって性質が、多くの探索者を阻んできた原因なんでしょうか』
「そうだと思います。強敵なのに一発逆転を狙える魔法が効き難いというのは、厄介な部分だと思います。その代わり、破片でも持ち帰ればそれなりの金額になりますけど」
魔力を散らすという性質は、実は札幌ダンジョンのゴーレムにしか見られない稀有な特製らしい。だから、どんな用途に使われているか知らないけど、海外にも輸出されているし、国内でもかなりの高額で取引される。もっとも、あくまでも深層の純度が高いゴーレムだけの話だが。
『お金……その……深層の探索者って滅茶苦茶儲かるって聞いたんですけど……』
「…………言っていいんですかね? まぁ、滅茶苦茶儲かるってことだけで」
『やっぱり、ですか?』
「その時に倒したモンスターの種類や数、比較的状態が良いモンスターの素材の数とかで、具体的にどれくらいとは言えないぐらい、ダンジョンの儲けは乱高下するんですけど……まぁ、少なくともランクがS以降の探索者の多くは、プロ野球選手のトップ層以上の金は稼いでますね」
『……それって、億単位じゃないですか?』
「ノーコメントで」
:草
:マジか
:滅茶苦茶儲かってんな
:想像以上に儲かってた
:マジかよ俺も探索者になろう
:それにプラスで探索者の減税入るってマジ?
:政治家の非課税とどっちがマシや?
:非課税は払ってないけど減税は払ってるから探索者の方がマシや
俺みたいに協会からの依頼とか受けているトップ層は、深層の探索とかも頑張ればプロ野球選手の年俸を月収で超えることもできることは内緒だ。いつだって金を稼ぎ始めるとごちゃごちゃ言われるものだからな。
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