第80話

「そろそろ、代わった方がいいかな。これ以上の階層での戦闘は、探索に支障が出るレベルの傷を負う可能性が高い」


 70階層を超えたぐらいから、前を歩いていた探索者たちの足が止まる回数が露骨に増えた。単純にモンスターとの戦闘に苦労し始めているようで、戦闘で怪我をする人も増え始めていた。

 相沢さんもその様子を見て、限界だと思ったのか交代を告げた。精鋭と呼ばれながらも最高到達階層にも到達することができない現状を悔しく思っているのか、何人かは俯いていた。とは言え、AランクとSランクが集団で行動すれば簡単に攻略できるなら、世界中のダンジョンはもっと最下層まで攻略されまくっているはずだ。


「お疲れ様」

「やっと出番?」

「……緊張感持ってくださいね」


:人のこと言えるの?

:草

:視聴者からの扱いはこんなもんなのか

:ある意味では如月君のこと信頼してるぞ

:あー……精鋭による真面目攻略からEX4人の珍道中に変わった

:珍道中で草

:流れ変わったな


「ここから取り敢えずは76階層を目指して進みます。しかし、予想以上にモンスターとの戦闘が厳しそうなので、後詰の部隊は59階層での待機をお願いします」

「妥当だね。力が足りてないなら、無暗に深層に踏み入るもんじゃないよ」


:厳しいけど言ってることはわかる

:正論

:死ななきゃいいんだよ

:仕方ない

:深層って怖いな

:深層配信初めて見ました

:テレビでも深層の話が取り上げられてるな


 まだテレビで生放送してたんだ。札幌ダンジョンの攻略がそれだけ国民から気にされているのか、それとも国として成果を諸外国に見せつけるために放送しているのか。まぁ、どっちでもいいけど。


「じゃあここからは私がカメラ回すよ」

「え」


 相沢さんが?

 もしかしてちゃんとした映像を撮ってテレビの生放送に流そうとしてるのかな。それとも、探索者組合として映像記録を残しておくといいから的な?


「協会と国からね。テレビ局の人たちもこの映像をそのまま使って生放送するみたいだよ。まぁ……如月君が生配信していいですかって質問がなかったらなかった話かもしれないけど」


:へー

:やるやん如月君

:でも真面目な深層攻略生放送はどうでもいい

:如月君のぐだぐだ深層散歩が見たいからいいや

:散歩(危険地帯)

:危険地帯どころか未開拓地域なんだよなぁ

:未開拓地域って言うか、もはや宇宙開発だろ

:危険すぎてやばい


 宇宙開発は言い過ぎだ。だって実際に攻略されたダンジョンは世界中に幾つか存在するんだから、宇宙開発レベルまではいっていない。


「なんでもいいけど速く行こう? 私もちょっと楽しくなってきたところだからさ!」

「先走るんじゃないよ馬鹿娘」

「えー」


 なんか俺と相沢さんが配信の準備を色々としている間に、神代さんがさっさと歩いて行ってしまい、その後ろを婆ちゃんが普通について行ってる。そして、相沢さんも事前に先走った行動をしないようにと言っていたのに、あんまり気にしていないし。


:これが精鋭の苦戦していた階層ってマジ?

:EXさぁ

:これだからEXは

:その定型文何回も見た

:70階層超えてもこの余裕なの?

:如月君の配信初見じゃなくてよかった初見だったら何が起こっているのか理解できなかったと思うわ

:言うほどこの放送理解できてるか?

:全然


 76階層までは既にマッピングもされていて、ダンジョンの構造は不変型のダンジョンだからそこまでは簡単に進むだろう。そこから先は、取り敢えず行き当たりばったりに進んで階段を探すことになるだろうな。


「あ、モンスター!」


 神代さんの言葉に反応して俺と相沢さんがそちらに視線を向けると、黒色の水晶のゴーレムが婆ちゃんの神速の攻撃を受けて砕け散っている光景だった。


:ゴーレムが出てきたと思ったら頭が砕けて草

:如月君見てなかっただろ

:俺は見てたけど見えなかったぞ

:ゴーレムが勝手に破壊されたようにしか見えなかったんですが

:神宮寺楓が最強って本当だったんだな

:あの歳でも最強なのか(困惑)


 ゴーレム1体なら俺と相沢さんが視線を向ける前に終わってしまうだろうな。別になにか問題がある訳でもないので、引き続き俺は相沢さんのカメラの設定を手伝う。


:ガン無視で草

:ちょっと頭上げて視線向けただけかよ

:EXにとっては日常なんだろw

:草草の草

:日常なのがマジそうなの笑えないぞ


 いや、たかがゴーレムの1体や2体で危険になるほど、規格外は甘くない。自分でも言うのもなんだけど、深層のモンスターをああやって蹴散らせるからこそEXなんだから。


「よし、これでちゃんと映ってるかな?」

「大丈夫だと思います。じゃあ先に進みましょうか」

「うん……勝手に進んでいる人が2人いる気がするけど」

「気にしない方がいいですよ。婆ちゃんも神代さんもそういう人なので」


 なんだかんだ言って、婆ちゃんもEX特有の自由人気質の強い人だ。勝手にふらっとダンジョンに現れてはモンスターを蹂躙していくなんて言われるぐらいには、気紛れにダンジョンに潜る人だしな。それでも、日本最強の探索者として強烈なインパクトを諸外国に与えた人物だから、知名度は半端じゃない。


:神宮寺楓の話でコメント欄の海外ニキが荒ぶってる

:厄介オタクみたいだな

:実際厄介オタクみたいなもんでしょ

:なお中国人からは恐れられている模様

:仕方ない

:トラウマ的な存在の神速婆だからな

:神速婆ってなんだよ都市伝説のターボババアの亜種か?

:ターボババアより速いぞ


 まぁ、ターボババアじゃ音速は超えられないだろうからな。いや、ターボババアが音速を超えて走る怪異だったらそれはそれで滅茶苦茶怖いと思うけど。


:如月君の式神術は本人のイメージから生まれるつまり如月君のターボババアは……神宮寺楓が生まれる?

:しれっと人体錬成するな

:EXを増やそうとするな

:これで本当にターボババアじゃなくて神宮寺楓が作り出せたらどうするんだよ


 いや、生きているような人間を式神術で再現して召喚するのはかなり難しいから。十二神将は別のものを降ろしているから人間のようにできるだけであって、通常の式神術だけでは人間を作り出すことはできない。

 まぁ、色々とあるけど……要は無理。


「さ、配信ができていることは確認できたから、ちゃんとダンジョン探索しようか」

「え、今まで真面目にダンジョン探索してない自覚があったんですね」

「違うよ? 今まで任せっきりだったって話だよ?」


 あぁ……てっきり、今までEXの連中がダンジョン探索してる時はいつもふざけてるって話かと。いや、ふざけてはいないんだけど、別に緊張感マックスで挑んでないしな。

 なんにせよ、ここからようやく俺たちの出番と言う訳だからしっかりとやろう。政府の思惑とか色々とあるかもしれないけど、ダンジョンを開拓したいのは俺個人の欲求だからな。

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