第79話
「……」
「なんか喋ってよ」
「……今、何階層ですか?」
「40だね」
:無言配信でお届けしております
:仕方ない
:そもそも今回は76階層から先の攻略がメインなんだろ?
:60ぐらいまではランクAとランクSの精鋭が戦うって
:体力温存か
:ガチで攻略しに来てるな
いや、国としては本気で攻略するために大人数を用意して、EXの消耗をなるべく少なくしてから深層を攻略しようって話なんだろうけども……流石にただ後ろで戦いを見ているだけと言うのは飽きてくるな。
:コメント欄もちょっと落ち着いたな
:マスコミはずっと色々言ってるぞ
:でもマスコミってダンジョンまで来てないでしょ
:如月君の配信見てるの?
:知らん
:多分だけどAとSの中にカメラ持ってる奴がいるんだろ
マスコミだって今回の大規模なダンジョン攻略をなんとかしてスクープにするには、色々と策を弄しているだろう。けど、どこまで頑張っても報道関係者が深層に入ってくることはできないんだから仕方ない。別に許可を取ってれば俺の生配信の映像を使いながらニュースやってもいいよと思ったんだけど……流石にテレビに流すには色々と問題がある。主に視聴者と俺の殴り合いとか。
決して品行方正な生配信をしている訳じゃないからな……流石にそれを生のままテレビに流す訳にはいかないだろう。
「しばらくはこのままです……暇なので雑談でもしますか」
:い つ も の
:また始まった
:え、攻略中ですよね?
:安心しろいつものことだから
:既に下層なのに……
:初見さんが困惑してるだろうが
:如月君さぁ……
「え、じゃあ雑談タイムなしでいいですか? 別に俺はカメラ無視して適当に無言で歩いているだけでもいいですけど」
:すいません
:雑談タイム欲しいです
:札幌ダンジョンの解説プリーズ
:そろそろ夏休み終わりだけど宿題やった?
:いつのものノリで安心したぞ
:人が増えてもやっぱり如月君は如月君だね
:草
:褒めてるのか?
:貶してるだろ
別に俺は高尚なダンジョン配信者を目指している訳ではない。目指す先は、他人に迷惑を掛けずに誰もが楽しめるような配信者だ。ここで俺が適当な雑談配信をしていたって、誰かの迷惑になる訳じゃないし……いや、前で戦ってくれている探索者さんたちは気に入らないかもしれないけど。でも暇だから仕方ないと許してくれ。
「札幌ダンジョンについて、ですか……なにから説明すればいいか」
「寒い、あとゴーレムみたいな奴が多い」
「渋谷ダンジョンに比べて1階層ごとの広さはそこまで広くない、とか?」
「……神代さんと相沢さんはいきなり雑談に割り込んでこないでください。ちょっとびっくりしたじゃないですか」
:びっくりした
:画面内にEXが3人いる絵面でもう笑うの狡くない?
:これは他の配信者は勝てませんわ
:圧倒的なパワーで殴ってくるな
:パワーカード「EXの仲間」
:禁止カードにしろ
:もっとEXとコラボしろ
:どっちだよ
:草
:視聴者でも意見分かれてるの笑う
:気にするな如月君
コメント欄も突然割り込んできたEX2人に驚いてるじゃないですか……いや、コメント欄の人たちは基本的になにが起きても楽しんでるから大丈夫だと思うけど。
そんな風に雑談しながらしばらく適当に歩き続けていたら、ようやく60階層に到達したらしい。前を歩いていた探索者たちは、流石に深層まで到達することに慣れている精鋭だからか、あまり疲労している様子もなく当たりの様子を伺っていた。
札幌ダンジョンは渋谷ダンジョンと違い、階層ごとに大きく環境が変わるようなことはない。1階層から最高到達階層である76階層まで確認されている階層は、全てが薄暗い氷の洞窟になっている。渋谷ダンジョンと比べて、そこまで1階層の広さはないが、渋谷ダンジョンとは違って常に視界不良で入り組んだ作りになっているので奇襲を受けやすい。しかも、内部に出現するモンスターはゴーレムのような非生物型のモンスターなので、気配が読みづらく余計に奇襲を受けやすくなる。
「ここから先は俺たちがやるんですか?」
「いや、もう少し先まで任せるよ。私たちの目的は77階層から先だからね」
「えー……正直、ちょっと飽きてきたんだけど」
「甘ったれたこと言ってるんじゃないよ。これくらいの徒歩は我慢しな」
「でも、一切戦いもなく60階層までは流石に飽きるよー」
:せやろな
:ずっと雑談してたからな
:戦う機会は一度もなかったな
:EXの戦い見たいな
:初見だからもっとド派手な戦闘して欲しい
:前のSランクとか充分ド派手な戦いしてなかったか?
:してた
:感覚が麻痺してるんだよみんな
:初見だって言ってただろ
「うーん……まぁ、攻略の為に必要なことなら多少は我慢できますけど」
「つーくんは真面目だなぁ」
「つーくんはやめてください」
:草
:まぁ、行ける所までこのままでいいと思う
:なにがあるかわからないしな
:渋谷ダンジョンでも想定外相手にしてただろ
「あぁ……あのスライムですか」
「あれスライムなの? 最早海だったじゃん」
:海スライムでしょ
:海坊主だろ
:海坊主は如月君が召喚しろ
:なんでもいいわ
:草
:誰も見たことないんだから誰も知らんわ
そりゃあそうだよな。そもそも渋谷ダンジョンの最高到達階層だったんだから、誰も知らないだろうよ。つまり、第一発見者の俺がスライムだと言ってるんだからスライムでいいんだよ。核があってそれ以外に攻撃が通らないんだからスライムだろ。
:ゴーレムと戦ってるやん
:深層入ってすぐなのに、結構倒すのに苦労してる感あるな
:まぁゴーレム3体だからな
:そもそも魔力を散らすんだろ?
:魔法使い泣かせやな
「ん?」
配信のコメントを見ながら60階層に足を踏み入れた瞬間に、横の通路からぬっと巨大なゴーレムが5体ほど出現した。俺たちを戦わせないために頑張っていた精鋭の人たちは、少し先を歩いていたから気が付かなかったらしい。と言うか、向こうも先で同じゴーレムと戦ってる最中だった。
俺が気が付くのと同時に、相沢さんと神代さん、そして婆ちゃんも横から現れたゴーレムの存在に気が付いていた。
「遅いよ」
いつも通り、婆ちゃんが最速で動き出して最前列にいたゴーレムの頭を蹴り砕いた。本来なら魔力を散らし、魔法をメインに戦う人間にとって相性が最悪の相手なんだが……婆ちゃんは化け物だ。
先頭が倒されたことに、後続が気が付く前に俺と相沢さんが動き、相沢さんが魔力を籠めすぎて変色した剣でゴーレムを切断。俺がその身体を踏み越えて手に持っていた刀で真っ二つ。
「ほいっ!」
残ってい無傷のゴーレム2体と、既に消えるのを待つだけだった3体のゴーレムを全てを巻き込むようにして、神代さんが最後に圧縮された炎のビームを放つ。
「へぇ……魔力を散らすゴーレムの身体も、それ以上に圧縮した魔力による魔法なら貫通できるのか。この盾も万能じゃない訳だな」
「いや、相沢さんが自分の魔力で強化すれば弾けるのでは?」
「魔石はしっかり拾いな馬鹿娘。魔法を放出するだけして事後処理をサボるんじゃないよ」
「はーい」
:俺らがおかしいのか?
:瞬きしたらゴーレム5体が壊滅してた
:精鋭さんたちは3体にそこそこ時間掛けてたのに
:これがEXですか
:インフレしすぎたソシャゲみたいになってるぞ
:笑えん
:初見さんもこれで大満足だね(白目)
:よかったな(笑)
:笑えないんだが?
大丈夫だって……あれぐらいのゴーレムだったら余裕で蹴散らせるから。
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