第78話
「えー、はいどうも……突発の配信なんですが、今日は札幌ダンジョンに潜っていきたいと思います。都市圏のダンジョンなので普段から配信している人もいると思いますが、今日は新鮮な体験をお届けできるかなと思っています。如月司ですよろしくお願いします」
:草
:突発配信(笑)やめろ
:お前、平然といつも通り始めようとしてるけど、ニュースでも映ってるからな?
:笑った
:テレビにも映ってるぞ
:札幌ダンジョンに潜っていきたい(本格的な攻略)
いやぁ……正直ダメもとだったんだけど、まさか本当に配信の許可が出るとは思わなかった。今は札幌ダンジョンの前で時間を待っている状態なんだけど、テレビのカメラとかがいっぱい来てる。EXが全員揃ってる画角を色々と頑張って探しているみたいだけど……相沢さんは忙しそうに歩き回ってるし、婆ちゃんはなんかコーヒー飲んでる。そして、予想通りなんだが神代さんは姿が見えない。
「相沢さん、神代さんは?」
「ん? あぁ……あの子は忘れ物したとかでコンビニ行ってくるって」
「協調性はないんですか?」
「ないねぇ……」
苦笑で済ませていいのか。
:ないねぇで草
:いつも通り過ぎないか?
:なに忘れたんやろ
:ネックウォーマーとかやろ
:ダンジョンの深層に行くのに?
:そんなもんじゃない?
:EXだしな
:やばすぎて笑う
コメント欄を眺めていると、ニュースで話題になっているから見に来ている人がとても多いようだ。つまり、普段は俺の配信なんて欠片も見ていない初見さんが多い。なるべくならここで多くの視聴者を確保したいところだけど……まぁ、そんなテクニックはないので知らない。
ちなみに、札幌ダンジョンを攻略することは大々的に報道されたので、世界中から視聴者が集まっているらしく日本語のコメントを拾うのも苦労している状態である。
「今日はコメント欄が早いので、拾えるコメントは最低限になりまーす」
:なんか緩くない?
:そうか?
:いつもこんなもんでは?
:いつもがわからないんだろ
:初見
:初見さんには色々とわからんだろ
:アサガオちゃんの同時視聴から
:アサガオちゃんミラーしてんの草
「え、アサガオさんそんなことしてるんですか?」
同時視聴配信なんてしても楽しくないと思うけどな……どうなんだろう。俺が鳥桃佐々見さんの配信を見ながら雑談してたのと同じ感じなのかな。
:いや、結構な人間がミラーしてるぞ
:もも肉も画面は無いけど視聴しながらの雑談枠あった
:それだけ注目されてんだろ
:海外の方でもミラー結構あるみたいだな
:有名人じゃん
:当たり前定期
「お待たせー! カイロと飲み物買ってきた!」
「……」
この人は本当に空気が読めないな……カイロはいるかもしれないけど、飲み物は普通に協会が用意してくれているだろ。いや、どうせこの人だから自分が飲みたいものじゃないと嫌だとか言い始めるからいいわ。
俺の準備なんてたかが知れているので、先に終わらせて適当に視聴者と雑談していたら、なんかテレビの人が沢山近づいて来た。
「ランクEXの探索者であるUNKNOWNの如月司さんですよね? お話伺ってもよろしいでしょうか!?」
「え、話すことなんてありますか?」
「何故、最近になって急に個人情報を公開するようなことになったのでしょうか? 配信を始めたのは何故ですか?」
「EXの他の方についてコメントを」
「今回の札幌ダンジョンの攻略について一言を」
「渋谷ダンジョンで最高到達階層を更新したことについて」
「今回のダンジョン攻略も配信しながらということですが、遊び半分なのではないですか?」
うるせぇ……今から札幌ダンジョンを攻略しますっていう人間に対して質問攻めするな。そもそもこういうのが嫌で、最近は住処を転々としながら生きて来たのに……なんで札幌に来てまで質問攻めされなきゃいかんのだ。
:くっそ面倒そうな顔してて草
:遊び半分扱いはムカつくな
:わざと怒らせたりするんだぞ
:学生だから舐めてんだろ
:18だからなんとでもなると思ってそう
:そいつ、人類の中でも最上位の強さなのにな
:マスコミ君はもうちょっと時と場を考えよう
:ダンジョン攻略が終わってから質問攻めしろ
:報道の自由(笑)だぞ
「うるさいねぇ……ピーピーと喚くんじゃないよ」
ひぇ。
婆ちゃんがうるさくてキレてる。流石にそれくらいは理解できるのか、報道関係者たちも少し声のトーンが落ちて質問の数が一気に減った。誰だって婆ちゃんは怖いのだ。
「そろそろ出発するよ如月君」
「あ、はい」
申し訳ないが、マスコミはそこまで好きではないので全部無視だ。SNSのメッセージで質問を一つ送ってくるぐらいなら許すけど、勝手に人の家まで押しかけてきてごちゃごちゃ言われるのは困る。
そろそろ出発するって言うのにまだ質問に答えてないと言わんばかりに距離を詰めてくる人たちもいたけど、俺が刀を取り出すために火車を召喚したら全員が逃げていった。
:蜘蛛の子を散らすとはこのことか
:草
:怖いからな
:火車なんて冥府に連れてかれちゃうだろ
:確かに
:そもそも燃える車が出てきたら普通は逃げる
「いいなぁ……私も拡張バッグ欲しい」
「人の式神を拡張バッグ呼ばわりするのやめてもらっていいですか?」
「あはは……まぁ、深層まではそこまで苦労しないだろうからこのままでもいいか」
「深層に到達してもこのガキどもはこんな緊張感のままだよ。育て方を間違えたかね?」
いや、そもそも婆ちゃんに育てられた覚えはない。アンタは俺のことを下層から深層にかけて引きずり回していただけで、しっかりと育てられた覚えなんて一切ないからな。
「8月31日、午前10時ぴったり……これより札幌ダンジョンの攻略を始めます」
「よーし、頑張ろー! おー!」
「……行きますか」
「やれやれ」
「誰も乗ってくれない!?」
:草
:やる気あるのか?
:緊張感がまるでない
:こんなんでいいのか?
:下手すると歴史の教科書に載るかもしれないレベルなのに……
:えぇ……
:如月司が配信してましたって教科書に載るのか
:このコメント欄も載るかもしれない
:いぇーい歴史の教科書を読んでるみんなみってるー?
:やめろ
:こんな教科書嫌だ
:絶対黒塗りにされるわ
コメント欄もなんか勝手に盛り上がって勝手に遊んでるみたいだからいいか。
それにしても、EX4人で札幌ダンジョンの攻略か……過剰戦力になるか、それともそれぐらいいないと攻略できないか。楽しみだな……当たり前だけど、未到達の最下層の攻略なんて初めてだからな、わくわくしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます