第70話

「……正直、今のままでも充分ランクDだと思います」

「そ、そうですか?」


:俺もそう思う

:うーん

:スチールアント蹂躙できるなら充分では?

:確かに

:申請しないといけないんだよな

:書類書いて協会に提出しなきゃいけないんだぞ


「実績も必要ですけどね。なんの魔石をどれくらい手に入れたか、みたいな」


 まぁ、実績に関しては一日でスチールアントの魔石を20も集めれば充分すぎるぐらいの実力を認められると俺は思うけど、果たしてどうだろうか。俺はEからそのままEXになってるから、Dへの上がり方とか実はそんなに詳しくないんだけども。

 基準としては中層最強であるワイバーンと戦って、同等に渡り合えるぐらいの強さがあればランクがDであると言うのが、協会の認識なら……宮本さんは充分な実力だと思う。後は、基礎的な動きとか魔力の循環の効率とか細かい話になってくるのかな?


「……俺の推薦で簡単にDになったりとかしませんかね?」


:できるの?

:EXってそういう特権あるの?

:知らないよ

:なんでお前が知らないんだよ

:あるんだったら簡単じゃね?


「ですね……でも、そんな特権持ってたら、推薦してくれって人がいっぱい来そうですね」


:確かに

:俺もDに推薦して

:草

:俺もEXに推薦してくれ

:無茶苦茶言うな

:笑った

:ネタでもおもんないぞ


 ちょっと帰ったら協会に掛け合ってみるかな……流石にあの実力でEはおかしいだろう。無理だったら組合に手伝ってもらえばいいし。

 はっきり言って、宮本さんに対しては既に上層で教えることはない。これから先の話は中層に行かないと意味が無いし、どうにかして中層に行きたいんだが。


:パーティー組めば?

:パーティー申請があるじゃん

:ソロで潜り過ぎてパーティーランクがあるの忘れてね?

:草

:ぼ、ぼっち!

:全方位に攻撃するのはやめろ

:EXとならパーティーランクDは余裕で超えるだろ


「あ……」


:ガチで忘れてたな

:えぇ……

:草

:やっぱりもうちょっとパーティー組んだ方がいいよ君

:普段から個人でしか潜らないから


 そう言えば、パーティーランクなんてものあったな。

 上層に入るにはランクがF必要で、中層に入るにはランクがD必要とされるけど、実は個人のランクではなく、パーティーを組んでのランクでも可だった。

 パーティーランクは個々人ランクの平均値ではなく、一番ランクが高い相手の信頼度から算出される。多分、EXの俺とEの宮本さんが組んだら……BかAはあると思う。単純に俺が強いから。


「一回、入口に戻ってパーティー申請しますか」

「そ、そうですね」


 いやぁ……ダンジョンにパーティーランクがあることなんてまるで覚えてなかったな。なにせまともにパーティー組んだ記憶がないからな。多分、婆ちゃんにランクが低いのに下層とか引きずり回されてた時ぐらいじゃないかな?



「と言う訳で、カナコンさんとパーティー組んできました。パーティーランクはAですね」


:草

:Eランクが片方でAなのか(困惑)

:歩く戦略兵器やめろ

:ワンマンアーミーじゃん

:リアルでたった一人の軍隊やめろ

:この配信面白すぎるだろw

:カナコンちゃんの方しか見てなかったけど、普通に面白いからチャンネル登録したわ

:やばいなこいつwww


「これで中層どころか深層まで行けますね」

「そ、そう、ですね……」


 一応、深層はランクがA以上になると許可されるんだけども、パーティーランクがAなので実は宮本さんを連れても深層まで行けることになる。まぁ、深層なんてなにが起こるか分からない場所に連れて行かないけど。

 それにしても……随分と若そうに見えるが、最近の流行りみたいな感じで就職しない道を選択したのだろうか。最近は動画配信で生きていくみたいな人も多いからな。直球で聞いてみるか。


「カナコンさんは年齢はどのくらいなんですか? とても若そうに見えるんですが」

「え? わ、私は……今年で24、ですね」

「え、若い」


:現役男子高校生が言うな

:感想がおっさんなんだよな

:お前の方が若いだろ

:でも確かに若い


「大卒でそのまま配信者に? でも脱サラと書いてましたよね」

「その……脱サラと言えるかどうかわからないんですけど……大学を卒業してから就職できた会社が……ブラック企業でして」

「あ……」


:あ

:あー

:あ

:なるほど

:察したね

:視聴者と如月君の心が重なった稀有な瞬間

:稀有なのか


「その時に、大学生の時に学費を稼ぐためにバイト感覚でやっていたダンジョン探索を思い出して……私には、これしかないと思って」

「へ、へー……凄いですね」


 顔を出すのは恥ずかしいと言う理由で狐の面を被って配信者やっているのに、パパっと会社を辞めて探索者で生きて行こうと思うなんて、かなりの胆力があるように感じる。そもそも、折角就職したのに次が見つかるか分からない中で会社を辞めるなんて、かなり勇気がいる行動だと思う。


「でも、いつまで経ってもランクはEですし、才能が無いのかなーなんて考えてました」

「いや、才能はバリバリですよ。うちの視聴者より全然あります」


:おい

:事実だけども

:事実なのかよ

:俺は万年Eだぞ!

:そもそもカナコンちゃんがEなのがおかしいだけだから

:しれっと視聴者に喧嘩売るな

:は? 俺はCなんだが?


 いや、宮本さんは順調に行けば1年後にはBに到達していてもおかしくないくらいの実力者だと思う。大学の時からバイト感覚でやっていると言ってたけど、その時から今の戦闘スタイルでやっているのだとしたら、天性の才能としか言えないだろう。


「その、コミュ障ですから……ソロでしか攻略したことなくて」

「……」


 なんだ、俺と同類じゃないか。


:同類だなって考えただろ

:一緒にするな

:カナコンちゃんはちょっと人見知りなだけだぞ

:絶対美人だからな

:俺たちとは違うぞ


「なんでそういう時だけ相手を庇うんですか? だから友達できないんですよ」


:お前もな

:草

:言って悪いことがあるだろ

:友達を出してくるのは卑怯だぞ

:お前も友達いないだろ


「は? アサガオさんがいますが? 学校でも喋りますよ?」


:許せねぇ

:お前には友達いないと思ったのに

:如月君に友達がいるとか解釈違いだわ

:偽物じゃん

:EX俺たちの称号剥奪決定だなこれは

:俺たちの面汚し


「あ、あはは……面白い配信ですね」

「……すいません。いつのものノリで」


 コラボ配信なのにちょっといつも通り過ぎたな。

 朝川さんと配信する時は別にこれでいいけど、流石に宮本さんのような初対面相手の人とやっている時は少し自重しよう……視聴者に煽られたら我慢できるか知らないけど。


:ごめんねカナコンちゃん

:カナコンちゃん可愛いぞ

:EXと歩いていて偉い

:EXと一緒にいれて偉い

:EXは劇物か?

:そうでしょ


 覚えとけよ視聴者。

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