第63話

「そういえば、まだ言ってなかったんだけど……3月になって高校を卒業したら、私は大学行かずに就職することにしたんだー」


:それは如月君のチャンネルで言うことか?

:SNSで言った方がいいのでは?

:草


 何処に就職する予定か知っている俺としては、正直この話はするだけで荒れるような気もするけど……どうなんだろうか。


「ふっふっふ……私、司君が立ち上げる予定の会社に就職する! それで所属配信者兼任事務員みたいな?」


:アンチスレがまた加速しそうだな

:なお加速するのは如月君のアンチスレの模様

:就職決定おめでとう(笑)

:縁故採用だ!

:いや、フリーの配信者としては実力者だから仕方ない

:神代ちゃんは?


「あんな人は絶対に入れたくないです」


 なんで見えてる地雷をわざわざ踏みに行かないといけないのか。あの人を所属配信者にしようものなら、面倒ごとまみれで大変なことになるのは間違いないだろ。俺が社長になるんだから絶対にあんな人は引き込みたくない。たまにコラボするぐらいでちょうどいいのだ。


:うーん妥当

:知ってた

:知らないところで勝手に炎上しそうだしな

:やらかしてる姿が目に見えるようだよ

:視聴者からの評価も散々なの草生えますよ


「だから私の進路希望調査は就職かな?」

「俺は社長ですか?」

「普通に就職でしょ」


:進路希望調査第一希望・社長

:頭悪いのかな?

:変なこと書いて先生を困らせるな

:草

:そんな変なことを進路希望調査票に書いてる奴は見たことないぞ

:お嫁さんみたいなノリで書くな


 まぁ、普通に就職扱いでいいんだろうな。それか自営業的な感じ。


 グダグダと雑談しながら八王子ダンジョンをひたすらに練り歩き、下層の入口である41階層に到達したが、道中のモンスターの数が少なすぎて渋谷ダンジョンのように時間はかからなかった。そして、いつも通り八王子ダンジョンでは人とすれ違わなかった。


「……いつものことだけど、人気が無さ過ぎるダンジョンですね」

「交通の便はそれなりにいいんだけどなー」


:電車代と飯代ぐらいしか稼げないから仕方ない

:八王子ダンジョンとか罰ゲームでしょ

:儲からないしダンジョン内も変化がないし

:いつもより雑談長かったしな


 まぁ、下層まで向かうだけでマジでやることないから、雑談が多くなるのは仕方ない。恐らくだけど、今日はこのまま雑談多めの配信になるんだろうな。だって下層でもここはモンスターの数が少ないんだから。


「最近、渋谷ダンジョンの下層に通い詰めてるせいか知らないけど……ここの下層は寂しく感じるね」

「でもモンスターの強さ的にはしっかり下層ですよ。渋谷ダンジョンよりは弱いと思いますけど」

「うん……でも開けてるからなぁ」


 八王子ダンジョンは、ダンジョンと呼ぶにはあまりにも開けすぎている殺風景な地形が特徴ではあるが、ここまで全開の地形だと周囲も見渡しやすくて仕方ない。しかも地下な筈なのに、まるでLEDで照らしているかのように明るさが確保されているのだ。明るさの原因はそこら中に埋まっている魔力の結晶が白く光っているせいだと思う。本当に、誰かが実験用に広い地下空間を作ったのだと言われた方が納得できる。


:階層にいるモンスターが丸見えやな

:でかいハウンドドッグいるな

:ハウンドドッグって呼んでいいのか、あれ?

:デカすぎるだろ

:ハウンドドッグって猟犬って意味だろ? あの大きさはもはや猟犬ではないのでは?

:でも大きさが変っただけで、普通のハウンドドッグなんだよなぁ

:何を狩るんだよ

:人間やろ


「分類上はハウンドドッグのはずですよ。確かにデカいですけど」


 モンスターの分類なんて詳しくは知らない。そもそも世界的に見ても、モンスターの生態や構造まで詳しく研究している国なんて存在しないだろう。理由は単純に、倒してしまうと魔石を残して灰のようになって消えてしまうこと。死体が残らないのだから、研究しようにも生け捕りしかできず、生け捕りできるような大きさのモンスターなんて中層の一部までだろう。


「こっちに気が付いた?」

「真っ平で開けているから、こちらから相手が視認できるように、相手からもこちらが視認できるんでしょうね」

「当たり前だね」

「まぁ……この距離を走ってくるだけなら問題ないんですけど」


 ハウンドドッグの脚力は結構とんでもない。大きさも既に人間の身長を超えているから、余裕で自動車並みの速度では走っているんだろう。だけど、どれだけ速くても走ってくる方向が丸見えなんだから、遠くから魔法を放てばなんの問題もない。

 朝川さんは指で銃のような形を作り、指先に魔力を集中させていた。驚くべきことに、朝川さんは魔法を展開してから圧縮するのではなく、最初から圧縮した状態で魔法を構築していた。できるのだろうかと思ったけど、実際に目の前で朝川さんがやってるんだから理論上は可能か。

 向かって来ていたハウンドドッグの頭を、朝川さんの指から放たれたビームが一瞬で貫通していった。流石に圧縮された雷魔法は初速が半端じゃない。


「ナイスショット、じゃない?」

「そうですね」


 やはり魔法に関しては朝川さんは信じられないぐらいに器用だ。俺の知っている魔法を主体とした戦い方をする人が、脳死高火力の魔力ゴリラと機動力でゴリ押す婆ちゃんだからな……余計に器用に見える。


:すごい

:アサガオちゃんが見ない間にこんなに強く……

:下層で死にかけていたアサガオちゃんはもういないんだね

:アサガオちゃんも遂に人外に足を踏み入れたのか

:初代人外も魔法使って


「誰ですか初代人外って…………俺ですか!?」


:そうだよ

:なに驚いてんだよ

:この配信では初代の人外だろ

:今のところ、お前の配信には2人の人外が出てるだろ


「相沢さんは?」


:まだ人外面見せてないからセーフ

:相沢さんは人間だろうが

:EXリーマンはいいの


 なんでみんな相沢さんには優しいの?

 もしかして、視聴者って社畜が多いのか?

 仕方ない……視聴者に頼まれたら俺もチャンネルの主としてやらざるを得ないな。俺は朝川さんほど魔法が上手くないし、神代さんほど高火力も出せないけど……圧縮する魔法ぐらいなら真似できる。

 個人的には俺は雷の魔法よりも風を操るような魔法の方が得意なので、風を圧縮して神代さんのように鋭い刃として扱おう。

 しれっと背後から近づいてきていたもう1体のハウンドドッグの首を、圧縮した風で切り落とす。神代さんのように美しいとまで言えるほどの断面にはならないだろうけど、下層のハウンドドッグ程度なら余裕で殺せる。


「どうですか?」


:お前やっぱりおかしいよ

:EXへの道は遠いなアサガオちゃん

:改めてEXってイカレてるんだなって

:後ろに目でもついてるの?

:草

:式神使わなくても強いのはやっぱりズルだと思うんですよ

:神様も召喚できる癖に


 はー?

 視聴者が見たいって言ったから魔法放ったのになんで人外扱いなんですかね。それに、EXは人外な訳ではなく、探索者という目線から見た規格外ってだけですから。

 そもそも式神は術者の10分の1ぐらいしか力を発揮できないから本体の方が強いのは当たり前ですし、十二天将や神様は「ナニカ」を降ろしているだけだから、式神術の制限の対象にはなりませーん。


「あはは……」


 朝川さん、その苦笑いはどっちに向けたものなんですかね。

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