第62話

「はい」


:おはよう

:はいじゃないが?

:ちゃんと挨拶しろ

:ついに挨拶すら適当になったな

:挨拶すらできないような奴はうんたらかんたらって言われるぞ

:うんたらかんたらってなんだよ

:視聴者も適当じゃねぇか


「おはようございます」


:偉い

:反省できて凄い

:しっかり挨拶できて偉いね

:近所の老人会みたいなコメント欄で草

:如月君は小学生かな?

:俺は未だに近くの老人に挨拶しないとグチグチ言われるぞ

:普通に嫌な老人で草


 なんで視聴者はこんなに挨拶に厳しいの? 小学生の時に教えられた挨拶はしっかりしましょうを実践してるのかな。そうだとしたら申し訳ないけど、俺は昔から学校の先生には反抗してばかりだったのでよくわからない。今でこそ、ダンジョンのせいで先生そのものとの関りが薄いけど。


「今日は告知通り、半強制的に」

「私とコラボだよ!」


:アサガオちゃんおはよう

:テンション高いなぁ

:如月君とのテンションの差よ

:凸凹コンビ好き

:お久しぶり

:今日は2枠配信じゃないんだ


「2枠じゃないよー今日は司君の配信に私がお邪魔してまーす!」

「なんでそんなにテンション高いんですか? 普段はそんなでもないじゃないですか」

「私、一応テンション高い系の配信者してるよね?」


 そうか?

 普段からダンジョン潜りまくってひたすら戦闘しているようにしか見えないけど。


:普段のアサガオちゃん?

:テンション高めにモンスターと戦ってるじゃん

:確かにテンション高かったわ

:もしかして……アサガオちゃんもEXの同類?

:戦闘狂だったか……

:知ってたけどな

:草

:如月君しか見えてなかったけど、気になったからチャンネル登録してくるわ


「わ、チャンネル登録ありがとうね!」

「今日は八王子ダンジョン行きます」

「進行が早いよ! もうちょっと前置きの挨拶とかないの?」

「このチャンネルにそんなものありましたっけ?」


:ないぞ

:唐突に深層から配信が始まって、唐突に終わった配信なら見たぞ

:いつも突然始まるからな

:本題から入る配信スタイル、結構好きだよ


「だ、そうですよ?」

「そ、それも個性なのかな?」


 配信スタイルも個性って呼ぶのか?

 まぁ、なんでもいいけど……今日は朝川さんと共に八王子ダンジョンにやってきている。普段は滅多にいかないはずの八王子ダンジョンなんだけど、協会からの依頼、相沢さんとやった基礎講座、そして今回と短い期間に3回目だ。八王子ダンジョン受付の人にも驚かれたわ。


「夏休みもそろそろ終盤だけど、みんなはちゃんと宿題やってる?」


:そもそも学生じゃないんですわ

:お仕事やってる!

:夏休み……懐かしい響きですね

:このチャンネル、年齢層高くない?

:仕方ない

:アサガオちゃんの方はそれなりに学生もいるのにな

:夏休み、宿題やってないです


「司君の配信って社会人が多いんだね。私の配信は学生が多いからなぁ……ちょっと感覚違って新鮮かも」

「学生が多いってよりは……専業の探索者がそれなりにいるんじゃないですかね? コメント見てる感じの所感ですけど」


:正解

:なんでわかるの?

:専業で下層潜ってるぞ

:Cランクまでいるのか

:中層潜ってる

:如月君の視聴者は基本的に専業副業問わず、探索者多めだよね


 読めないんだからそもそも反応できないけど、英語のコメントとかもそれなりに流れてくるな。そっちはそっちで色々と楽しんでるみたいだけど。切り抜きの動画とかにもそれなりの数、英語のコメントがついてるから。

 ちなみに、公認してる切り抜きさんは一応います。面倒だから勝手に切り抜きされても別になんとも思わないけど。


「で、今日の目標は八王子ダンジョンの下層まで行くこと! 如月君から聞いたんだけど、八王子ダンジョンの下層は中層までと同じで視界も確保し易くて危険じゃないからおすすめだった言われたから!」

「なんで俺もついてこさせられたんですかね……」


:師匠枠なんだからもっと頑張れ

:保護者枠だろ

:草

:保護者枠とか言われてるけど、如月君がアサガオちゃんを配信内で助けに行ったの見たことないですね

:実際、下層の修行中に助けたことある?


「ないです」


 だって、そもそも危険な目に会う前に近づいて来る敵はさっさと殺しちゃうからな。今の朝川さんの実力を考えてギリギリ勝てるレベルの敵や、ギリギリ対応できる数のモンスターしか通さないようにしている。まぁ、ギリギリだから死にかけるかもしれないけど、それぐらいじゃないと簡単には強くなれないからな。


 雑談もそこそこに、朝川さんがしっかりと見て回りたいと言うので麒麟で下層まで行くこともなく、普通に最上層から一直線に階段に向かい続ける。道中の敵は朝川さんと俺で適当に魔法を放って倒していく。基礎講座をした時とは違い、モンスターの数も大したことないので本当にいつもの八王子ダンジョンって感じだ。


「モンスター少ないね。それに本当に真っ平なんだね……」


:アサガオちゃんは八王子ダンジョン初見か

:マジで初見はびっくりするダンジョンだよな

:正直、真っ平だしモンスター少ないしで、クソ安全なダンジョンだよな

:わかる

:俺もたまに強いモンスターに挑むために八王子ダンジョン行くよ

:周囲見渡せるから安全なんだよな


 八王子ダンジョン唯一のメリットと言ってもいいかもしれない。視界が確保できるから安全にダンジョンを探索することができるし、だからこそ本来なら避けて通るべき相手とも真っ向から戦うことができる。つまり、探索者として成長する兆しを掴めるかもしれないということだ。まぁ、当然ながら強敵と戦うとなると死が付いてまわるので、そこら辺は気を付けないと駄目だが。


「司君は八王子ダンジョン45階層までしか行ったことないんだよね?」

「まぁ……そうですね」

「なんで? 深層ジャンキーなのに」


 いや、深層ジャンキーってなんだよ。まるでダンジョンの深層以外には全く興味が無くて、常に深層に潜ってる人みたいな感じになってるぞ。

 実力があるから深層に潜っているだけで、別に深層そのものが好きって訳……ではあるな。


:如月君は深層しかいかないからな

:なんで八王子ダンジョンの深層まで行かなかったの?

:なんかやばいものでもあった?

:モンスターとか?

:地形とかじゃない?

:如月君が倒せないモンスターはかなり問題だと思うぞ


「深層まで行かなかった理由は……単純に、途中で飽きたからです」


:お前神代ちゃんのこと言えないな

:草

:えぇ……

:神代璃音と同レベルのこと言ってるってわかってる?

:同族嫌悪だったか


 くそ……これには反論できない!

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