第58話

「と言う訳で、次は実戦です」

「私がやるんだね……」

「いいじゃないですか。俺の戦い方なんて参考になりませんし」

「それは事実なんだけどね」


:知ってた

:如月君の戦い方は全く参考にならないからな

:未だに式神術使えるようになったって言う奴聞いたことないんだけど

:でも、実際はかなり制限食うんでしょ?

:本人が強くないと式神術は意味ないからね

:EXリーマンの戦い方、本当に参考になるのか?

:如月君と神代璃音のせいで疑心暗鬼な奴が多くて草


「一応、私の動きはわかりやすいって評判なんだけどな……」

「まぁ、見ればわかりますよ」


 動きだけなら初心者のお手本になる人であることは間違いない。ガチガチに固められた基礎で出来上がった戦闘スタイルだから、俺が見ても参考になることは多いからな。

 八王子ダンジョンは最上層も上層も真っ平なので見やすくて助かる。今も、遠くからこっちに向かって来ている2匹の犬が普通に見えるからな。


「八王子ダンジョンの最上層にはあの大きさのハウンドドッグが多いね。動きは渋谷ダンジョンのゴブリンより少し速いけど、ゴブリンより脆いから慣れれば簡単に相手にできるはずだよ」


:犬か

:でも獣系は大抵強い

:速いんだよな

:八王子ダンジョン行ったことあるけど、確かに最初は目が追い付かなかった

:強くはないんだけどね

:面倒なんだよ

:個人的にはゴブリンの方が楽


 ハウンドドッグが接近してくるのに合わせて、相沢さんは背負っていた銀色の大きな盾を左手に、そして右手になんのデザイン性もない無骨な両刃の片手ロングソードを構えた。これが、相沢さんの戦闘スタイル。

 ダンジョン初心者がまずおすすめされるのは、今の相沢さんが持っているロングソードを槍に変えた状態。まぁ、リーチがあるというのはそれだけ有利になるから、基本的には槍がおすすめされる。

 構わずハウンドドッグが突っ込んできたが、相沢さんは冷静に最初の1匹の突進を盾で受けて、2匹目の喉を的確にロングソードで突いた。モンスターであろうとも、生物の形をしていれば急所は自ずとわかってくる。首と眼球を狙えば大抵なんとかなるもんだ。


「ふっ!」


 喉を貫いたロングソードを素早く引き抜いて、もう一度噛みついてきたハウンドドッグを盾で受けて、同じ様にロングソードで喉を貫く。これだけで、戦闘は終わりだ。


「どうかな?」


:うーん堅実

:これは副業探索者のリーマン

:わかりやすい

:丁寧に1体を倒してからってことね

:安全を考慮して一回受けちゃった方がいいのかな?

:思ったより参考になった

:如月君の500倍よかった


 おい。

 確かに、俺ならハウンドドッグが攻撃してくる前に2匹とも首を刎ねてただろうけど、流石に基礎講座ではそこまでやるつもりなかったぞ。


「今のは2匹しかいないとわかる地形の八王子ダンジョンだからできたことだけどね。渋谷ダンジョンの最上層なら、もう少し狭い場所になるから奇襲も常に警戒して、今の2倍は慎重に立ち回ると安定すると思うよ」


 奇襲に気を付ける、はダンジョン探索の常識だな。ダンジョンなんてどこからモンスターが湧いて来るかわかったもんじゃないし、常に張り切って周囲を警戒していないと簡単に死んでしまう。特に、モンスターとの戦闘に勝利した後が一番の危険だ。


:かっこいい

:俺も盾と剣で戦ってみようかな

:リーマンの盾は絶対重いからもうちょっと軽い盾にしとけよ

:草

:だろうな

:ハウンドドッグに噛まれて傷ついてないしな

:いい盾だろ


「この盾? これは深層に出てくるとっても硬いゴーレムの素材からできてるんだ。盾自体が魔力を帯びてて、魔力を常に周囲に散らすような性質がある盾でね」

「硬いゴーレム? 札幌ダンジョンの深層に出てくるあれですか?」

「そうだよ。如月君、本当にダンジョンに詳しいね」

「深層だけですけどね」


:深層だけに詳しいってなんだよ

:意味わからなくて草

:深層に詳しいなら下層より上にも詳しいだろ

:こいつ、基本的にスルーしてるだろ

:麒麟で?

:ありえる


「……まぁ、俺のことはいいんですよ」


 流石にもっと無茶苦茶なことを普段はやってるなんて言えない。俺がまともにダンジョンを昇り降りするのは曖昧な指定がされる協会からの依頼の時だけだからな。目当ての深層とかに用事がある時は、普通にもっとせこい手段使ってる。最近は……朝川さんに付き合ったり、配信とかで使ってないけど。


「おっと、またハウンドドッグが来たね」

「珍しいですね。八王子ダンジョンなんて1回モンスターと戦ったら数分ぐらいのラグがあると思うんですけど」

「日によると思うよ」


 まぁ、確かにダンジョンは日によって魔力の濃度が変る影響で、モンスターの数が増減するものだな。協会で大まかな増減予想は出されてるけど、的中率が大体6割ぐらいらしいから、あんまりアテにならないんだよな。


:八王子ダンジョン、今日はモンスター多めって予報らしいぞ

:当たってるやん

:偶にはやるやん!

:当たってることの方が多いんだよなぁ

:協会の予報をなんだと思っているのか

:当たりにくい天気予報ぐらいの感覚

:それで死にかけたことあるワイからの忠告や……ちゃんと信じたほうがいいで

:草

:よく生きてたな


 今度はハウンドドッグが4匹。今日は本当に多い日らしい……この間、俺が依頼でかなりの数のモンスターを片付けたけど、また多く発生してるのか。


「4匹相手だと、少し戦い方を変える必要があるね」

「俺は後ろから見てます」

「よろしく」


 流石に4匹が相手だと、さっきみたいに受けて立ちまわる戦法も上手くいかないはず。盾を使った戦法なんて俺は殆ど知らないから、相沢さんが丁寧に立ち回るならどうするのか少し興味がある。


「アロー」


 4匹のハウンドドッグが近づいてくると、相沢さんはおもむろに剣を持っている右手の指から弱めの魔法を放った。魔力を固めて矢の形にして撃ち出す、攻撃魔法とも言えないような魔法だが、それを放たれたハウンドドッグの1匹は警戒して他の3匹と距離ができる。


「はぁっ!」


 どうするのかと見てたら、最初に突進してきたハウンドドッグの噛みつきを盾で受けた瞬間に、思い切り盾を前に突き出してハウンドドッグを突き飛ばした。顔面に思い切り盾を受けたハウンドドッグが弾かれて転がる間に、2匹が同時にやってきたが、器用に剣を滑らせて2匹の足を後退しながら同時に切りつけ、アローによって距離ができていたハウンドドッグが単身で突っ込んできたところを盾で受けてからのカウンターで殺した。


:鮮やか

:すごい

:はぇー


「アロー!」


 続けざまに、盾で弾かれたハウンドドッグに向かって魔法を放ちながら、相沢さんは足を斬りつけられて機動力が落ちた2匹に接近して簡単に喉を斬り付けて倒す。後は、残った1匹を処理して終了。


「どうかな? 威力がなくても牽制用の魔法を放つというのは、深層のモンスター相手にも通用する基本的な戦法だよ。今回は私が1人で全部やったけど、あれをパーティーで分担するともっと楽になる」


:すっごい基礎的なのにすっごい綺麗

:基礎を固めるとEXになれるんだなって

:正統派の探索者だ

:かっこいい

:如月君よりちゃんと探索者してる

:いいぞー

:俺、EXリーマンのファンになった

:リーマンも配信やらん?

:他のEXにも見習ってほしいわー


 なんで俺がボロクソ言われてんの?

 相沢さんだって深層で戦ってる時はもっと意味不明な動きするからな?

 今度、相沢さんを深層に引きずり回す配信やってやろう。そうしたら相沢さんに対する評価も俺や神代さんと同じになるはずだから。少なくとも、EXなり立ての時に、俺は相沢さんのこと人外かと思ったからな。

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