第57話

:そんな常識の無さでよく基礎講座やろうと思ったな

:唯一のファインプレーがEXリーマンを呼んできたことでは?

:基礎講座で魔力操作したら後は殴りましょうは、ね?

:もう終わりだよ

:実際、中層に行く連中ってそんな感覚なのかな

:アサガオちゃんでも呼んできた方が良かったのでは?

:普通に下層攻略講座の方が良かった気がする


「……今日は基礎講座です」


:意地でも続けるつもりだ

:精神力だけは凄いな

:草

:EXの基礎講座とか役に立つんやろうなー

:なお

:腹痛い

:笑い過ぎや


 くそ……今日こそ段取りのいい配信を見せるつもりだったのに、俺の常識がほんの少し足りなかったばかりに。


「ダンジョンの常識は、最初に踏み入れた時の成果で変わる、なんて言われるからね。私だって最初はスチールアントを強いと思ったことはなかったけど」


:えぇ……

:【悲報】EXリーマンもナチュラルボーンEXだった

:そんなもんやろ

:でも、中層行けるようになってくると、なんでスチールアントなんかに苦戦してたんだろうって思えるようになるぞ

:人間は成長するんだ

:規格外は規格外だったということだ


「逆に、最初は脅威に感じていた中層のモンスターも、今じゃ簡単にあしらえるぐらいになってるから、皆さんも努力すれば立派なダンジョン探索者になれますよ」

「……ソロはオススメしませんよ」


 基本的にダンジョンは自らの命を賭けて金を稼ぐギャンブルみたいなもんだ。運がよければ滅茶苦茶稼げて、運が悪ければ……死ぬ。

 そんな時に、運が悪かったとしてもそれをカバーしてくれるだけの味方がいれば、金は稼げないかもしれないけど命は助かる。命があれば……なんとでもなるのが人間だ。


:ソロで深層攻略してる癖に?

:人が多すぎると山分けした時に報酬は減るけど、その分だけ治療費とかは減るから一長一短だな

:俺はパーティーオススメする

:俺もパーティーで行きてぇなー……友達がいないぞ^^;

:友達いないアニキは頑張って

:協会でそういうの支援してないの?


「一応、パーティー推奨はしてるはずだし、協会の方に言えばパーティーメンバーを募集してる探索者と会えはすると思うけど……相手も人間だから、人間関係のトラブルを考えると親しい人と潜るのがいいと思うね」

「だからパーティーが増えないのでは?」


 俺や視聴者のようにクラスの端っこで本を読んでいたり、いじめられたりしている陰キャ君たちにパーティーを組める知り合いがいると思うなよ。

 まぁ……俺だって最初はパーティーを組もうと思ってたけど、できなかったし。


:親しい、人?

:友達?

:アカン、視聴者がバグった

:如月君の視聴者は同類が多い

:俺は友達5人と潜ってるぞ

:友達いるとか、それだけで国宝クラスじゃん

:友達って都市伝説じゃなかったんだ

:誰だよ友達って


「あー……そういう人たちはネットで気の合う人とか、いいかもしれないね。勿論、ネットの人と会う時は充分に注意してから方がいいと思うけど……」


 まぁ、妥協点だろうな。

 俺は本格的にダンジョン探索者として誰か友達でも作ろうと思ってたら、急に婆ちゃんに強制的な弟子入りをさせられて、式神術を覚えて一気にEXになったからそこら辺はよくわからんけど。


「ダンジョン初心者が気を付けること……やっぱり心構えの話とかしたほうがいいのかな?」

「心構え、ですか? 死ぬ前に撤退しろとか?」

「組合だと、キツイと感じる前に撤退しろって教えてるね。そのラインがよくわからなかったら、探索者組合に言ってくれれば補助役としてランクが高い探索者が引率してくれるシステムもあるけど……ちょっと安全過ぎて、ね?」


:そうなんだよなぁ

:補助役がいるとどうしても気が抜けるというか

:心の何処かで死なないしって考えが出るんだよな

:わかる

:結構探索者多いのねこの配信

:そらそうよ

:実際、キャリーしてもらうのは自分の寿命を削るようなもんだよな

:自殺に等しいだろ


「俺、よくキャリーしてくださいってメッセージ来ますけど、普通に無視してますからね。本人にやる気と死ぬ気がないのにダンジョンなんて潜るべきじゃないと思うので」


:やっぱり来るんだ

:そら、ランクAどころかランクCの配信者にもキャリー依頼来るらしいし

:それ、楽しいんか?

:ゲームでもキャリーしてもらう人いるだろ? あれと一緒だよ

:なにがおもろいんやろう

:ダンジョンは楽しんで1流だぞ


「ダンジョン探索は楽しいですよ。未知の階層を開拓する時とか冒険してる感じがたまらないです」


:未知の階層にはいかないんだよなぁ

:深層の話してるだろ

:そんなところにはいかないぞ

:普通にダンジョンを見て回るのが楽しいんだよ

:モンスターの生態とか楽しいぞ

:RPG感覚で楽しいと思える余裕は必要

:未知を開拓するって……最高到達階層行ってません?


 えぇ……違うの?

 ダンジョンを探索する楽しみなんて8割が未知の階層に到達した時だと思ってたんだけど。この間、渋谷ダンジョンの86階層に到達した時はマジでワクワクしたのに。


「86階層に行った時、普通に楽しかったですよね?」


:まぁ

:いや、楽しかったけども

:あんな感じを求めてやってるのね

:なんとなくわかった

:確かに、あれは気持ちよかった

:うーん、危険度を除けば?

:確かに、誰も知らない場所に初めて到達する気持ちよさの片鱗は、あの配信で味わえた

:そう言う意味ではあの配信は大成功か

:いや、数字的に見ても大成功では?


 とにかく、ダンジョンに潜る人は金稼ぎ以外の楽しさを感じてもらいたい。俺の場合は未知の階層に到達することなんで、かなりハードルが高いかもしれないけど……モンスターを倒すことを楽しみにするでもいいと思う。


「相沢さんは初心者の時、どういう気持ちでダンジョンを楽しんでたんですか?」

「……この魔石、幾らになるのかなって楽しみにしながらモンスター狩ってました」


:草

:いや、確かに楽しいけども

:思考が給料に苦労するリーマン

:初心者の時はまだリーマンだろ

:ある意味一番のモチベーションかもしれない

:金は大事だからな

:うーん、基本

:これは確かに基礎講座

:そうだよな……誰もが最初は金を夢見てダンジョン潜るもんな


 た、確かに……俺も最初は金目的だった気がする。探索者がかっこいいからって部分もあったけど、高校生で自由にできる金が欲しいからって思っていた部分もあった。


「今は、後輩たちを指導するのが楽しくて探索者やってるけどね。だから、最近は如月君みたいに深層まで行くことも多くないんだよ。EXなのに協会からの依頼も全然いけてないしね」

「そうなんですか? 相沢さん、強いのに」


 多分、単純に近接戦闘で言うとEXの中で一番強いんじゃないかな?

 相沢さんは何処までも基本に忠実で、堅実な戦い方をする人だからな。ただ、その基本のレベルがEX規格外なだけで。

 久しぶりに相沢さんの戦ってる姿が見たくなってきたな……弱いモンスターの攻略方法みたいな話するか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る