第56話
「まず、ダンジョンの攻略で必須なことから、ですね」
ダンジョンと一口に言っても、最上層、上層、中層、下層、深層と色々な区分ができるし、渋谷ダンジョン、八王子ダンジョン、高山ダンジョンのように環境も出てくるモンスターも全く違うこともあるので、対応もそれぞれ違ってくる。それでも、全てのダンジョンで共通して必要な事柄と言うのは無い訳ではない。
「俺が思うダンジョンでの必須な技術として……体内の魔力を操ることですね」
「ふむ。中々面白い所から入る基礎講座だね」
「まぁ、俺が最初に覚えたことでもあるんですけど」
:つまり?
:魔力を操るのは確かに必須だけども
:魔法が使えるようになるとかそういう話?
:魔力を操るとどうなるの?
:難しい話から始まったな
「話としては簡単です。自分の体内に巡る魔力を大体の感覚でもいいので適当に掴んで、それを自由に動かすこと……これをしっかりと行えるようになれば、上層までのモンスターで血が大量に流れるような傷は負いません」
「まぁ、確かにそうだね。ダンジョンの基礎で最も重要なことは、生き残ることだよ」
:命を最優先ね
:魔力を巡らせる方法は?
:それは人それぞれだぞ
:俺は胃から上がってくる感じ
:それ吐瀉物じゃない?
:心臓から巡るイメージ
:身体の外側に覆うように存在すると思ってた
魔力のイメージは本当に人それぞれだと思う。俺の場合は身体の中を血流のように巡っているイメージで、一定の場所で溜めたり全体的な動きを速めたり、みたいな感じ。
「腕に魔力を大量に流せば、岩を砕くことだってできますし……モンスターに噛まれても傷がつかない。魔力を多く持って生まれる最近の若者は、無意識に行っているとも言われてますね」
:若者、ダンジョンエリートじゃん
:まじかよ若者だから探索者になろ
:若者(30代)じゃだめだぞ
:草
:探索者の中ではおっさんレベルだぞ
:ダメじゃん
:魔力の伝達が重要ってことね
「この間の配信でも言いましたけど、魔力は基本的に万能な力なので……こうして、コツを掴めれば空を歩くことだってできますよ」
足の裏側に魔力で固めた地面をイメージして、階段を上るように空中を歩いてみせる。本人のイメージがどこまでいくかの問題だけど、少なくとも神代さんのように空を飛ぶようなことまでは可能だ。
「凄いね……そこまで自然に魔力を操る人は、私は見たことないよ」
「え? でも相沢さんもできますよね?」
「できるけど、そこまで自然にはできないよ」
:できるのかい
:一応、あの空中浮遊にも理論があったんだな
:浮遊?
:あれは飛行だろ
:浮いてたんじゃなくて飛んでただろ
:しかも結構なスピードだったぞ
「あれは神代さんが頭おかしいだけです。俺だって飛行速度はそこまでいかないです」
:でも飛べるじゃん
:この間、ダンジョンで真似したけどできなかったぞ
:飛べる訳ないだろ
:空を歩きながら普通に喋りやがって
視聴者はどういう感情でこの配信見てんの?
実際、相沢さんも階段を上るように空中を歩いているんだから、やろうと思えば全員ができる証明になってるでしょ。俺は婆ちゃんの影響もあって、最初にこの魔力操作技術を磨いていたけど、かなり助かってるぞ。名刀とも言えない筈の無銘の刀で、深層のモンスターを切り裂けるのは魔力操作の賜物だからな。
「とりあえず、最低でも身体を固くするイメージの技術を磨くべきですね。ちなみに、魔力操作の修行は家で普通にできますから、寝る前の10分ぐらい瞑想するぐらいの感覚でやってみればいいと思いますよ」
「身体の内の魔力を整えると健康にもいい、なんて言われているから、探索者を目指さない人でもおすすめだよ」
:はぇー
:健康にいいなら俺もやろう
:家でできるのか
:身体の内側だからな家でできるんだな
:楽そう
:簡単そうだからやってみよ
:慣れてないとキツイ?
:筋トレみたいな感じか
「慣れてない人でも、そこまで辛くないですよ。あくまで、体内の魔力を動かすだけですから」
血液が流れるだけで疲れる人がいないように、体内の魔力を動かしたぐらいで人の身体は悲鳴を上げたりしない。精々、深呼吸ぐらいなものだ。
「魔力を操作できるようになったら、後は適当に上層のモンスターをしばいて立派な探索者です」
「待って」
:草
:急に雑になるな
:展開が早いよ
:やっぱりな
:EXは脳筋
:基礎講座(ちょろっとだけ)
:ま、まぁ……実際ちょっとは役に立ってるから
:もうちょっとないのかよ
もう少しないのかって?
そんなこと言われても、まともな魔力操作技術があったら上層のモンスターなんて適当に倒せるんだから、これ以上の攻略方法はないでしょ。後は継続的にダンジョンに潜って、稼いだ金でちょっといい武器買えばそれで万事解決。中層はまた別の世界なので気を付けましょうで終わり!
「ご、ごめんね……如月君ってこういう人だからさ」
:知ってた
:やはりEXリーマンは苦労人
:EX唯一の常識人来たな
:これは光のEX
:リーマン、後は頼む
:魔力操作だけで生放送をするな
:基礎講座(大噓)じゃねーか
:予想通り過ぎるぞ
えー……他になんか言うことあるのか?
警報が出たら即座に避難できるように心掛けるとか?
「そ、そうだね……次はモンスターの特徴とか弱点の話にしようか」
「上層のモンスターに弱点もクソもないじゃないですか」
「うーん……それは、如月君だけじゃないかな?」
:こいつ……
:上層のモンスターに脅威なんてない(自分基準)
:大丈夫? 頭
:やっぱり常識ないじゃん
:上層でも怪我人それなりに出るんですよ?
:無謀に突っ込んで死ぬ奴だってごくたまにだけどいるんだぞ?
:ナチュラルボーンEXじゃんこいつ
「渋谷ダンジョンの上層で注意するモンスターいました? 蟻が硬いぐらいですか?」
「そのスチールアントに噛まれて、死にかける人がいるんだよ?」
「え? 虫刺されにしかならないあの顎の力でですか?」
俺、初めてダンジョンに潜って帰った時に知らない間にスチールアントに嚙まれた部分を婆ちゃんに見せたら、普通にステロイド軟膏でも塗っておけぐらいにしか言われなかったけど。
:草
:お前が硬すぎるだけだ
:蟻酸も吐くんだぞ?
:結構な脅威だと思うんですが
:慣れてないと本当に苦労するぞスチールアント
「……そうなんですね」
「た、確かに……魔力操作がしっかりとできれば大した敵じゃないかもしれないけどね?」
「いや、大丈夫です……フォローしてくれなくても」
割と普通に、ネット民がいつものノリで大袈裟に言っているだけだと思ってたんだけど……よくよく考えると、スチールアントには気を付けてくださいね、的なことを信濃さんに言われたことがあるような……駄目だ、よく思い出せない。
でも、もう覚えたから大丈夫。スチールアントは硬いだけじゃなくてそれなりに強い……覚えたから次の講座の時は俺の所感じゃなくてモンスターの情報はちゃんと調べてこよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます