第55話

 なんかとんでもない数の取材依頼が来ている。昨日の深層配信が原因だとは思うんだけど……対応するのが面倒だから全部神代さんにやってくれないかな。

 俺と神代さんも、自分たちがなにをしたのかは大まかに把握しているけど、社会を揺るがしてニュースのトップを飾るほどの話題になるとは全く思っていなかった。精々がネットニュースになって、掲示板が荒れるぐらいだろう程度の認識だったのに……まぁ、渋谷ダンジョンの入口に帰ってきたら、珍しく渋谷ダンジョン支部長が胃の痛そうな顔で蹲ってたのだけは笑った。


「それで、いつもとは違う家にいるの?」

「面倒だったからです」


 俺がいつも使っている渋谷駅近くのマンションは既に報道陣が駆けつけてきていたので、地上で魔法を使って幻覚を見せることで逃げてきた。具体的に言うと俺が別人の住人に見えるようにして、報道陣を掻き分けて外に出てきた。

 東京都内にはマンションを幾つか持っているので、なるべく渋谷駅から遠くないマンションを選択して朝川さんと対面している。


「ふーん……私的には、神代璃音さんとの関係を聞きたいんだけどね?」

「……なにか、言うことありました?」

「へー……私のこと、一番に勧誘してくれた癖に」

「いや、神代さんは勧誘してませんよ?」

「そう言うことじゃないの! もう……」


 女心は俺にはわからないからやめてくれ。

 朝川さんはなんか拗ねている感じだけど、そこまで本気で怒っている訳ではなさそうなのでとりあえず放置でいいだろう。それ以外の対処法を知らないとも言う。


「それにしても、朝川さんも大分強くなりましたね」

「……本人を前にしてアーカイブ見るのやめない?」

「なんでですか?」

「恥ずかしいの! え、もしかして司君……」

「別に、記録用も兼ねてますし恥ずかしがることはないですね」


 信じられないというような目でこちらを見てきているが、逆にそんなに恥ずかしいのによくダンジョン配信なんてやってるな。


「そ、それよりも……司君はこのまま完全にダンジョン一本でやっていくの?」

「いえ、色々とやっていきますよ? とりあえず次の配信はダンジョンの基礎講座ということで、見返しても分かり易い配信を心掛けながらって感じで」

「そうなんだ。その次は私とコラボね」

「え」


 さくっと変なこと決めなかった?


「私、司君の立ち上げる会社の所属配信者になるって宣言しておきたいから」

「まぁ、それは必要かもしれませんけど……わかりました。じゃあ基礎講座の次は朝川さんとコラボですね」


 そうだ。コラボと言えば、SNSのメッセージにコラボ依頼がいっぱい来てたな。基本的にキャリーして欲しい系のメッセージはガン無視しているが……気になる配信者からのコラボ要請はいくつかあったな。


「……」

「どうかしたの?」

「いえ、なんでもありません」


 何人か気になる配信者のコラボ要請はあったけど、中でも特別に気になる人から来ていた。朝川さんのダンジョン配信を見て以降、それなりの数のダンジョン配信を見てきて才能がありそうな人には目を付けていた。その中の1人が、コラボして欲しいとメッセージを送って来てくれていた。この機会を逃すのは嫌なので、日程が合う日にコラボ配信をしましょうと返事をしておく。


「それで、次のコラボはなにをするんですか?」

「八王子ダンジョンの下層まで行きたい!」

「……まぁ、いいですけど」


 この前、話題に出したから個人的に気になってるのかな。

 八王子ダンジョンなんてそこまでやることも多くない、真っ平なダンジョンだけど……修行には丁度いいかもしれない。


「と言う訳で、お昼ご飯食べよう!」

「そうですね。丁度、いい感じの食材持ってますし」

「え」


 ん? なんで朝川さんは笑顔のまま固まっているのだろうか。


「その食材……買ったら何円する?」

「さぁ? 市場の競り次第じゃないですか?」

「うわぁーっ!?」


 うるさい。



 神代さんとの深層配信から数日後、EXの探索者として依頼を幾つかこなして、今日は空きができたので八王子ダンジョンの最上層に来ている。本当は渋谷ダンジョンに行きたかったんだけど……夏休みなこともあってあそこの最上層と上層は人が多すぎる。

 基礎講座をやるには人が多すぎたので八王子ダンジョンでやることになったのだが……思ったより荒れそうな配信になりそうだ。


「今日は予告通りダンジョンの基礎講座的な話をしたいと思います」


:待ってた

:助かる

:探索者資格取ったはいいけどなにすればいいかわからなかったから助かる

:これで中層に行ける探索者が増えるといいね

:それは才能次第だな

:上層の攻略方法だけでも助かる


「主に最上層、上層で活動している方や、これから探索者を目指す方向けに情報を発信していくのですが……教導役としてお話を聞けるゲストに来てもらいました」


:またゲストか

:単独の配信少ないなこいつ

:仕方ない

:誰?

:ダンジョンの教導役だから協会の人だろ

:協会からの案件とか言われてたな


「ゲストのEXリーマンこと相沢亮介さんです」

「そのEXリーマンって言うの、流行ってるのかな……私のSNSでもよく言われるんだけど」

「さぁ? でもよくEXリーマン扱いされてますよ。原因はSNSが業務連絡ばかりだからだと思いますけど」

「原因知ってるんじゃないか……なんでもっと早く教えてくれなかったの?」


:!?

:EXリーマン!?

:ゲストがまたEXかよ

:壊れるなぁ

:また伝説の配信してるなこいつ

:こいつ自体が伝説だろ

:草

:ダンジョン基礎講座(EX2人)

:えぇ……


 またコメント欄がもの凄い勢いで流れ始めたな。いや、正直……神代さんが突発ゲストでやってきたことで、視聴者がもの凄い多くなったのを参考したのは確かだけど、本当に相沢さんが来てくれるとは思ってなかった。なにかと忙しい人だから。


「どうも、如月司ch視聴者の皆さん。探索者ランクEX兼日本探索者組合の組合長をしている相沢亮介と申します。今日はダンジョンの基礎講座ということで、初めての試みなので私もゲストで出演させていただきます」


:やっぱり挨拶がリーマンチックなんだよな

:流石脱サラEX

:脱サラしたのにEXリーマン扱いされてるのか

:かわいそう

:かっこいい

:大人って感じ

:うちの常識がない如月君をよろしくお願いします

:よかった

:まともな人が来てくれたからちゃんとした講座になりそう


 おい。この日のために俺が色々と用意しておいたって言うのに、なんで視聴者は俺のことをぶっ飛んだ奴だと思ってるんだ。神代さんよりはマシだろうが。


「ということで、普段は下層や深層に潜る探索者の手伝いをしている相沢さんの助けも借りて、最上層と上層の基礎講座をしていきたいと思います」

「よろしくお願いします」


 いやぁ……でも今日の配信は相沢さんが相手だから、グダグダにならなそうでよかった。基礎講座も俺が単独でやるよりは数倍まともな内容になるだろうし、EXとしての仕事をしてるって感じで楽しいな。ダンジョンの攻略講座、定期的にやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る