第59話
「魔石も回収しないとね」
「……ハウンドドッグの魔石って1個いくらぐらいするんですか?」
「そうだね……この大きさと純度なら、500円ってところじゃないかな?」
「え」
安いな。上層のモンスターってそんなもんだっけ。10,000円稼ぐのに20体必要ってこと?
:そんくらいか
:ゴブリンよりちょっと高いぐらい?
:子供のお小遣いレベル
:副業にしてやるには命がけだしな
:最上層ならそうでもないけどな
:ハウンドドッグ面倒なのにゴブリンと少ししか変わらないのかよ
「……探索者が増えない原因ってこの値段じゃないんですかね?」
「そうだろうね。組合の方でももうちょっと買取の値段を上げて欲しいって言ってるんだけど、そこまで変わらなくてね」
「世知辛いですねぇ……中層探索者が増えない訳です」
「全くだね」
政府としてももっと金を払うというのはもっとも探索者を増やしやすい行為なんだろうけど、日本政府はとにかく国内に金をばら撒くのを嫌がる傾向にあるからな。特に、最近はダンジョン大国としての地位を確固たるものにしたから余計に、だよな。国は儲かってて、国民も少しずつ豊かにはなってきているけど、景気が良くなったのは数字上の話であって実感するほどじゃないって、テレビでやってた。
:政府がもっと金出せばな
:魔石輸出してるならもっと金払えよ
:それはそう
:国民から安く買い取って国外に高く売りつけるんだぞ
:笑えんわ
:でも無理に魔石を高く買い取って、死亡者が増えるのもな
:そういう言い訳でいつまでも値段上げないんだけどな
:やっぱり最後は日本そのものが敵じゃないか
:さっさと国会ダンジョンを壊滅させろ
国会ダンジョンってなんだよ。
いや、最近のそういう国への不満ってのは確かにあって……ランクB以上の探索者が協会から依頼される立場になるんだけど、断る人も結構多いらしい。俺はEXなりの責務を勝手に感じてやってる立場だけど、魔石を安く買っていたのに、いざ実力が付いたのを見ると金で依頼してくるって、まぁ嫌だよな。
「如月君は、自分でランクどこまで上げたんだっけ?」
「俺ですか? 俺は……EからEXになりましたね」
:は?
:EにXをつけてEXってか
:EXってSからなるものじゃないんですか?
:EXって普通にランク上昇の先にあるものじゃないんだ
:マジ?
:最早ずるでは?
:でも規格外の強さだから仕方ない
「そっか。神宮寺さんの推薦でそのままEXになったんだったね」
「まぁ、そうですね」
:へぇー
:EXって推薦制なんだ
:相沢さんは?
:みんな普通にSから上がってだと思ってた
:知らなかった
そっか。結構みんな知らないもんなんだな……上位の探索者の中では常識扱いされてたんだけど。
「EXの探索者になるには、探索者協会から規格外であると判断されるか、探索者ランクがEXの人間に直接推薦されるかの二通りの手段があるんだ。私や神宮寺さんはSから協会に与えられているよ」
「俺はEの時に婆ちゃん……神宮寺楓さんから推薦してもらった。神代さんはAの時に協会から、だったかな?」
唐突に弟子に成れとか言われて、ひたすらにダンジョンに潜らされて式神術を身に着けた時には、満足そうな顔でお前は今日からEXとか言われてなにがなんだかわからなかったけどな。
まぁ、今でこそEXの権利をバンバンと使って好き放題している自覚はあるけど、当時は突然与えられた特権階級のような感じで、なにすればいいか全くわかってなかったな。そんな俺に探索者としての基礎をある程度教えてくれたのが相沢さんだ。だから、婆ちゃんには感謝しているし、相沢さんのことは尊敬している。神代さんは殴り合った仲だから信頼はしているけど尊敬はしてない。
:EXとか憧れるけど単純に実力が無い
:そもそも探索者やるんだったらそこら辺でバイトした方がマシでは?
:うーん、どうだろう
:最上層から出ないんだったらバイトした方がマシ
:普通に働いた方がいいぞ
:探索者は儲からないぞ
「探索者は儲からない。こんなことを言われてるうちは探索者も増えないだろうね」
「だから配信を始める人が多いんだと思いますよ。後、ブログとか」
探索者だけじゃ生きていくには心許ないから、ああやって広告収入とかを得ようとみんな模索している訳だ。
「政府も一応、探索者に特別な減税とか色々しているけど……それだけじゃあね?」
「仕方ないと言えば仕方ないですが……個人事業主ってそんなもんですし」
なんか……ダンジョン基礎講座から探索者の愚痴みたいになってるな。軌道修正しておこう。
「基礎講座の振り返りですけど……魔力操作、パーティーを組む、なるべく1対1を心掛ける、奇襲に気を付ける……後は、命を最優先に、ですかね?」
「そうだね。それくらいができるようになれば、上層でも普通にやっていけると思う。後は中層の攻略だけど……これはまた別の機会かな?」
「また一緒にやりましょうよ」
「それもいいかも。組合としても探索者の増減は気にしないといけない問題だからね」
:乙
:なんだかんだ楽しかったぞ
:またEXリーマンも出てくれ
:普段見れない人が多くて如月君の配信は面白いなぁ
:最初はどうなるかと思ったぞ
:役に立つ情報多くて助かった
:探索者、ちょっと目指してみようかな
「じゃあ配信終わりですね。みなさんも命に気を付けてダンジョン探索、楽しんでください」
「お疲れさまでした」
締めの挨拶だけして配信を切る。そしたらSNSで「次回の配信予定日は未定ですが(半強制的に)アサガオさんとコラボすることになりました」と呟いておけばいいだろう。まぁ、多分そんなに日は空かないと思うけど。
「今日はありがとうございました、相沢さん」
「いやいや、君の誘いなら面白そうだからいいかなと思ってたんだよ。神代さんも楽しそうに配信に参加していたし」
「そうですかね?」
「まぁ、ちょっと最高到達階層を申告しないとか、軽々しく最高到達階層を更新したことを配信するとか色々言いたいことはあったけどね」
申告しないことは反省してます。でも最高到達階層の更新なんて、事前に更新するぞーみたいな感じ……だろうな。うん……やっぱりどっちも俺と神代さんが悪い。
「でも、君が元気そうに探索者やっててよかった」
「……あの、俺も一応EXなんですけど」
「みんな君が心配なんだよ。まだ高校生の子供、だからね」
世間は俺のことをEXとして見てくれるけど、なんとなく相沢さんは甥を見るような目だし、婆ちゃんは口では色々言うけど祖父母みたいな立ち位置で保護者名乗るし……俺ってもしかして探索者の末っ子かなんかだと思われてる?
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