第50話
「ここ何層?」
「……80ですかね?」
:81だよ
:しっかりと記憶しろ
:適当過ぎる
:なんだこいつら
:怖すぎるだろ
そんなことを言われても、80も潜ると自分が何層にいるのか曖昧になってくるんだよ。実際、76層から先はモンスターの強さも対して変わってこないし、ダンジョンも一変して薄暗い洞窟のような場所が延々と続く様になっている。
出てくるモンスターも気持ち悪いような奴が多いし、なんとも面倒な奴も出てくる。
「またスライムだ」
「はぁ……」
中でもかなり面倒なのがスライムと呼ばれるこの粘液の塊のような奴。切っても刺しても潰しても大したダメージにならず、方法は純粋な魔力を核に叩きつけるだけなんだけども……とにかくデカい。大きさにすると普通に10メートルぐらいはありそうで、ダンジョンの通路を平然と埋めてしまうので倒さない訳にもいかない。
「とりゃ!」
「『貴人』」
『承りました』
:おぉ……
:さっきからこんな感じだな
:本当にこのまま最下層まで行くんか?
:行きそうな勢いではある
:耐久配信は疲れたよ……
:もう何時間やってんだ
:まだやってて草
「あ、爆散して逃げた!」
「追え」
『わかっております!』
神代さんの魔力をぶつけられて死の恐怖を感じ取ったのか、スライムは四方八方へと爆散して核を逃がそうとするが、貴人はそれを見逃すほど弱くない。核を持っている小さくなったスライムに魔力を押し付けて潰し、戦闘は終了。
正直……このまま最下層まで行くのは不可能ではないだろうけども……なんとなくこのまま行くのは嫌だな。もっとしっかりと準備してから攻略したいという思いもあるし……まぁ色々あるのだ。でも折角ここまで来たんだから、もう少し奥までは行きたいな。
「それにしても……なんか飽きてきたね」
「やめてくださいよ」
「えー?」
この人、本当に飽きやすいな。流石、大学を飽きただけで中退した女だ……理解の範疇を軽々と越えていくな。
まぁ、さっきからダンジョンの風景は変わらないしモンスターだって強さも見た目もあんまり変化がないんだけども……流石にダンジョン探索者はそんな簡単に飽きたりしないぞ。
:自由過ぎるだろ
:でもSNSから伝わってくる人間性そのままなんだが?
:解釈一致ってやつですか
:いや、多分違うだろ
:草
:如月君は引きずってでもそのまま行け
:でもそろそろ帰ってもいいんじゃない?
:うーむどっちでもいいぞ
:危険なら帰った方がいいと思う
「危険はないと思うんですけど……正直未知の階層の探索なんて慣れているので、そこまで危機感がある訳じゃないんですよ」
:お前も頭おかしいぞ
:危機感は持っておけ
:うーん
:非常識に非常識で対抗するな
:どうなってんだEXは
:頭おかしいよ君ら
「言われてるよ?」
「無視しておいてください」
視聴者たちなんて別に無視しておいても特になんともないから、基本的には無視でいいんだ。暇になったら構うぐらいで、基礎基本は無視でオッケー。
視聴者と戯れながら歩いていると、次の階層へと向かう階段を発見した。俺の記憶が正しければ、次の82階層が俺の最高到達階層のはず……本当かどうかはわからない。
「最下層って何層なんだろう?」
「ここまで来たら100層あって欲しいですけどね」
「わかるなー。夢があるよね! ということで出発!」
「さっき帰ろうって言ってた人と同一人物ですか?」
:草
:この自由人
:ノリで決めるな
:これが深層に潜る人間の姿か?
:最早怖いよ
:君ら、何なら恐れるのさ
:えー……
:視聴者、困惑
:EXってこんな人ばっかりなのか……日本の最高戦力って怖いな
あらぬ誤解がもの凄い速度でネットに拡散されている気がするぞ。このまま放置してもいいものか……いや、別にいいな。俺が配信を始める前からネットで言いたい放題していた奴はしていたし、今更何かが変わるとも思えないので放置!
神代さんはそもそもそんなこと全く気にもせずに、82階層に向かう階段を全力疾走している。ちなみに、魔力にものを言わせた身体強化での全力疾走だが、俺の方が最高速度は速いので普通に追いつける。カメラは追い付けなさそうなので手に持っていく。
:酔う
:速すぎる
:人間の速度じゃない
:うぇ
:死人が多数確認されてるぞ
:生配信の肉体でこの速度は頭おかしいぞ
:やばすぎる
:画面見れないぞ
:画面見たら絶対に吐く自信がある
「到着! コメント欄、死屍累々で笑えるね!」
「……もうちょっと三半規管鍛えてください」
ここまでの速度を配信内の移動で出すつもりはあんまりないけど、流石に三半規管が弱すぎるので普通に頑張ってください。
:ふざけんな
:車ですら携帯使えねぇんだぞこっちは!
:そもそも車ですら後ろ向いたら吐くぞ
:絶叫マシーンに謝れって速度でしたよね?
:全面的に人外速度で走ったお前らが悪い
「無視!」
「モンスター来ましたよ」
『お任せください』
階段を降りた先には、腕が四本生えた悪魔のような見た目のモンスターがいたけど、俺の背後をずっとついてきていた貴人が飛び出して、蹴りの一発で首をへし折った。
:えぇ……
:強すぎて草
:もうあいつ一人でいいんじゃないかな?
:これでサポートが得意ってマジ?
:貴人はなんでもできるんだろ
:こんな奴がオタクみたいに如月君のことを喋り始めるんだぜ?
:如月君のどこがいいの?
『聞きましたね?』
:あ、馬鹿お前
:あ
:あーあ
:変なボタン押した
『主様の素晴らしさは、まず宇宙よりも広く美しいお心を持っていることです。私がわざと失敗しても気にしなくていいと気を遣ってくださいますし、貴方達のような下衆の連中にもしっかりと対応しています』
:誰が下衆だ
:否定はできない
:事実陳列罪だぞ
:よくないなぁ……そういうの
:事実陳列罪は重罪だぞ
:死刑もんだぞ
「貴人、ハウス」
『ごめんなさい主様! ですから、どうかハウスだけは!』
「うわ、泣きついて来るな!」
見た目だけはとんでもなく美人なんだから、近寄ってくるな。ちょっと情に絆されちゃうだろ。
:うぅむ……名誉俺たちの癖に女にモテているな
:許せん
:やはり俺たち追放か?
:だがこいつを俺たちってことにすれば、俺たちのレベルが相対的に?
:上がる訳ねぇだろ
:草
「あはは! 相変わらず式神との仲が面白いね!」
『主様の心労を一番増やしている放浪人は口を挟まないでください。あー全く……嫌ですわ』
「あーん? 相変わらずこの貴人だけは本当にムカつく性格してるね?」
『貴女には言われたくありませんわ』
「どっちもどっちでは?」
:同族嫌悪かな?
:キャットファイトやめろ
:私の為に争わないでって如月君は言え
:なお、実際は神代璃音は叩くし貴人はハウスする模様
:草
はぁ……なんか、俺の配信がしっかりと決まったことってないな。先に内容とか全部考えてから始めた方がいいのかなぁ……なんて、ちょっと遠い目をしてしまった。
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